第1試合、開始ッ!
人知れずCクラスから最初の戦死者を出した第1試合は急速に激しさを増していた。
後方で射撃準備をしていたDクラス砲兵部隊がCクラス偵察隊員の急襲に遭い、混乱した隙に仁村戦車小隊が攻撃を仕掛けたのだ。
「スラローム走行!煙幕張れ!タイガー3は敵砲兵を迫撃しろ!」
メルカバMk4の60mm迫撃砲が続けざまに火を吹く。混乱していた砲兵達は更に混乱を深めていった。
しかし走りながらの迫撃が思うように当たるわけもなく、砲兵達が次第に冷静さを取り戻して戦線に復帰するのにそう時間はかからなかった。
その僅かな時間。支援砲撃が行われなかった時間を仁村は逃さない。
「今だ!目標迫撃砲!一撃離脱する!」
『『『了解』』』
4輌は隊形を崩すことなく煙幕を突き抜けて突撃を敢行した。
パパパパパパパパ!
ダガガガガガガガ!
飛び出してきた戦車に弾丸の嵐が襲いかかる。あちこちに設置された軽機関銃の激しい攻撃だが、所詮は小銃。戦車には効かない。その勢いを止めるには威力が足りなさ過ぎた。そして位置の露見したガンナーはスナイパーの格好の餌食だ。
「距離800、微かに追い風、引き金は軽く、コトリと落ちるように…」
…パシュッ
麻酔弾がDクラスガンナーの首筋に命中する。大動脈に流れ込んだ麻酔は一瞬にしてガンナーの意識を刈り取った。
「スナイパーだ伏せろ!どこにいる!?」
「音は聞こえなかった!」
亜音速弾はその名の通り音速を超えない。故にソニックブームが発生せず、サイレンサーを着けることで無音の武器と化すのだ。
『こちらタイガー2!10時方向ATM!』
Dクラスの軽機関銃がゆっくりと数を減らしていくなか、2車から切迫した無線が飛んできた。
「了解!撃たせる前に撃て!聡、機関銃用意!」
PL-01が茂みに向かってバースト射撃を始めた。どうやら見つけた敵の位置を教えるとともに炙り出すつもりのようだ。
慌てた様子で敵兵士が飛び出してくる。
「目標確認」「撃て」
パパパァン!
的場は僅か3発しか撃たなかった。しかし内2発を的確に命中させ、憐れな敵兵士はその衝撃で横に弾かれ沈黙する。
「目標沈も『ダミーだ!!』
的場が報告し終わらないうちにどこからか無線が入った。
バシュッバシュゥ!
戦車兵にとって最悪な音が聞こえた。それはATM兵を撃つ為に砲を振った方向とは逆方向からだった。
「後ろだ!!」
仁村が咄嗟に叫んだが時すでに遅し。潜望鏡越しに見えた弾頭は光の玉となって目前に迫っており、もう1発はメルカバに向かっているのが見えた。
「───ッ!」
仁村は衝撃に備え、歯を食いしばった。
ガァァァン!
車体が激しく揺れる。
「うぅ…」「痛ってぇ…」「くぅ~、効くなぁ…」
車体に身体を強く叩きつけられた乗員達が呻く。仁村も背中を強く打ち、一瞬呼吸が詰まる。
「…ゴホッ、みんな…無事か?」
苦痛に涙をにじませながら仁村は素早く車体と乗員の状態を確認する。
ATMは追加で装着されたゲージアーマーに阻まれ車体にまでダメージが通らなかったようだ。しかしアーマーには穴が空いてしまっている。
ゲージアーマーは金網の様な装甲だ。徹甲弾には脆弱だが、ATMやRPGの様な形成炸薬弾を車体から離れた所で炸裂させ、ダメージを減殺できる。しかも軽い。
「うはは!やってくれる!」
元気な返事は米田だ。自前の筋肉アーマーが効果を発揮したのだろう。
「目眩がするぅ…」
星野が気の抜けた声を出した。頭を揺さぶったのかもしれない。仁村は少しの間機動力が落ちるかもしれないと判断した。
「ぁんのヤロー、蜂の巣にしてやる!」
的場は既に砲塔を操作し、照準をつけようとしていた。しかし、照準がブレていて狙いが定まらない。的場にもダメージがありそうだ。
「聡!牽制射だ。次弾を撃たせるな。タイガー3!無事か!?タイガー2・4は周囲を警戒!」
『こちらタイガー3。異状なし。1発くらいなら余裕です』
メルカバから冷静な返答が返ってきた。
メルカバMk4にはトロフィーシステムが搭載されており、飛来する物体を感知してゴム散弾を発射する事である程度迎撃できる。装甲も厚く、小隊で最も防御力の高い戦車なのだ。
「翔!動かせるか!?目標は目の前だ!前進再開!」
迎撃の為に落としていたスピードを再び上げる。星野もついていけている様で、仁村はホッと息をついた。
「撃て撃て撃て!撃ちまくれ!」
烈火の攻撃を弾き返しながら進む仁村の目が軽迫撃砲部隊を捉えた。
「見つけた!榴弾装填!手前を狙え!」
「装填完了!」「撃てッ!」
ドッ、ドドドォァン!
4輌が一斉に射撃し、遥か遠方の軽迫歩兵隊の足元に違わず着弾する。途端に麻酔の煙が拡散した。
バタバタと敵兵士が崩れ落ちていくのを確認するや否や、仁村は後退命令を下す。
「ターゲットダウン!速やかに撤退だ!そろそろATMが集まってきててもおかしくない。敵戦車と出会うのもごめんだ。全速力!
レンジャーこちらタイガー、任務完了、後退を支援してくれ!」
4輌が揃って向きを変え、スピードを上げ始めた。
『こちらレンジャー了解。つゆ払い感謝する』
これで歩兵隊が敵の頭を押さえて下がりやすくなる。
そう考えたのも束の間、敵ATMが姿を現した。仁村は予想が当たり舌打ちをした。
「迎撃してたらやられるぞ、お互いカバーし合え!」
再び機銃が火を噴く。各車の車長はハッチから頭を出して、砲塔上面に取り付けられた機関銃も使い始めた。
しかし抑えきれず、数発の弾が飛んでくる。
全速力で走る戦車に弾はそうそう当たらないが、なにより数が多かった。後ろからの弾はメルカバが迎撃できるが、それも完璧ではない。すり抜けた弾、横や正面から発射された弾がゲージアーマーやシュルツェンに命中する。
耐えきれなくなったアーマーが外れて脱落し始めた。
「(まずいな…)」
このままではいずれ直撃を喰らう。そうなれば、バトラーがダメージを感知して相応の判定を下すだろう。ATMなら1発でも小破は免れないし、大破の可能性も充分あり得る。
『こちらタイガー3、トロフィーシステムの弾が切れた!トロフィー弾切れ!』
更に状況は悪化した。背後からの攻撃を防いでくれていたトロフィーの加護がなくなり、一気に飛来する弾数が増えた。
「合流地点まであと1分!」
星野が叫ぶ。
「装填!」「もう弾が無い!」
的場と米田の声に焦りの色が滲む。
「クッソ!榴弾込めろ!」
「やめとけ聡、ムダ弾だ」
仁村は的場をなだめると最後の一手を打った。
「全車、煙幕用意!」
「マジかよ!?」
米田が驚愕した声を上げる。
戦車に取り付けられた発煙弾発射筒は装填を外からしなければならない。この攻撃の中で、である。
「じゃなきゃジリ貧だ。覚悟決めろ!」
二の足を踏んだ米田と各車に檄を飛ばすと、仁村は真っ先にハッチを開け上半身を乗り出した。
「うし!うしッ!うッし!!」
米田は自分を鼓舞するように気合いを入れると、続いて身を乗り出し装填を始めた。
ゴン、ゴン、ゴゴン…ゴン…
車体にゴム弾が当たる音が断続的に響く。
戦車の揺れと手の震えで思うように装填が進まない。顔を上げると周りも似たような状態だった。
「ぁぎゃあっ!」
突如悲鳴が響く。
『こちらタイガー4!車長被弾!』
今のは右翼を守る10式戦車の車長の声だったようだ。
「装填急げ!」
「こっちはOKだ!」
米田は装填を済ませたようだ。続いて各車からも装填完了の無線が入る。
「煙幕展開!撃てッ!」
ボッ…パッ、パッ
軽やかな破裂音と共に中空から純白の緞帳が下りる。
仁村達はその向こう側へと駆け抜けた。
攻撃の手は明らかに弱まり、誰ともなくホッとした空気が流れる。
ギャリィィィィ、ドンッ!
突如車体を引っ掻くような音に続いて爆発音と共に戦車が大きく揺れた。盲撃ちしたATMがかすめ、その衝撃で起爆したのだ。
それはレオパルトの乗員全員にまだ最前線にいる事を思い出させるのに充分な出来事だった。
「全車散開!固まるな!集まったら弾が当たるぞ!」
各車は煙幕の陰から出ないように散らばった。
「歩兵隊と合流するまで持ち堪えろ!」
『『『了解!』』』
半分ヤケを起こしたような返事だったが、仁村は気づかなかった。車長を失った4車の事を気にしていたからだ。
ガァン!
一層強い衝撃が轟き、車内にブザーが鳴り響く。
ガクンとスピードが落ちた。
「被弾か!?」
咄嗟にバトラーのパネルを確認する。
《小破:エンジン損傷、出力低下》
「(やられた…、こんな時に!)でもまだ走れる!」
それは殆ど自分に言ったようなものだった。
しかし次は無いことも同時に直感的に分かっていた。




