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ただの欠陥魔術師ですが、なにか?  作者: 猫丸さん
一章 学園入学編 後編
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幕間 黒い影

 時は一週間以上も前に遡る。


 それはレオン・ワードとユウリ・グラール。

 両者の模擬戦が終了した間際のこと。


「力が、欲しい」

「――求めるの、力を」

「――ッ!?」


 呟いた言葉に反応が返ってきた。

 この場所には自分一人だけしかいないと思われたレオンは、その事実に驚愕を覚えながらも、声の主を確認しようと振り向こうとする。


 しかし、動けない。

 まるで縫い付けられたかのように体が動かなかった。

 その感覚に嫌な汗が背中を伝う。


「これは、何が」

「――もう一度聞く。力を求めるの?」


 声の主が誰かはわからなかった。

 認識できているはずなのに、認識できていない。

 まるで頭の中に靄がかかったような感覚である。


「力を……」


 レオンの意識が徐々に遠くなっていく。

 ともすれば、その甘い囁きに自らの身を呈してしまいそうになる。


「なら言う通りに動けばいい。そうすればあなたが望む力をあげる」

「――」


 おぼろげな意識の状態で、レオンはその言葉に甘美な何かを覚えた。

 手を取れば、それだけで求めていた力が手に入るような、そんな気がした。


 レオンはだからこそ。

 手を取ろうとして――寸前のところでやめた。


「――そんな力は、いらない。他人から与えられた力に頼るのは、僕の正義ではない」

「そう」

「ぁ――」


 言い切った後に。

 レオンはプツリと糸が切れた人形のように倒れる。


 それを背後にいた影は見下ろした。


「――失敗、ね」


 少々落胆したような。

 それでいて驚きを含んだ声を漏らす。


 痕跡がバレにくいように少ない魔力による呪術を施したとはいえ、抗われるとは思いもしなかったためである。


 眼下で横たわるレオンは意識を失っている。

 目を覚ましたとしても、今の会話や出来事を彼は覚えていないだろう。そういう術を彼にかけている。


 意外だった、と言うべきか。


「ニール・ワードの方は成功したからこそ、弟の方も容易いと思っていたけれど。案外弟の方が心が強かったみたい」


 人影はそれだけ言うと、その場から去っていった。



 ★


 そして時は現在に戻る。


「――なかなか上手くいかないものね」


 闇夜の中で、全身を真っ黒な装束で覆った人影が息を吐く。


 その人物はニール・ワードを使って"暴れ牛"を手引きし、学園に混乱を持ち込ませようとした。

 あわよくば"加護持ち"も手に入るかもしれないと、少しばかり期待していたのだが。


 しかしそれも失敗に終わった。


「レオン・ワードの方も操れれば、また変わったかもしれないのに」


 兄弟共々、洗脳できなかったのは少しだけ痛手であった。

 もしも弟の方にも《傀儡化(ファミリア)》を施せたなら、結果はまた違ったものになっただろう。


「それにしても」


 懸念すべきことは多くある。

 学園の警備が思ったよりも厳しく管轄されていること。

 強者がそれなりに集っていること。


 なにより。


「ユウリ・グラール、だっけね」


 予想外なのは、あの欠陥品と蔑まれる少年の存在のこと。

 今回の計画に支障を来した原因の一端には、彼の存在ももちろんある。


「もしかしたら、アレ(・・)は――」


 言いかけて、止まる。

「まだわからない」と首を振るだけに留めた。


「まあ、しばらくは様子見。じきに"再生者"も動き出すようだし」


 黒い装束の影。

 その口元が三日月のような形で、嗤った。


「時期を見て、また動くとしようかな」


 独白。

 それは誰の耳に届くでもなく、闇夜の中に溶けてなくなっていく。


 次の瞬間には、その人影の存在すら掻き消えていた。



 

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