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後悔する男と疑問形少女

作者: 灰梅澄人

 才能の話をしよう。才能には色々あり、それを活かすも殺すもその人次第。活かして死ぬか、殺して生きるか、あるいは適当に付き合うかも、その人次第。そんな才能の中でも、特に意味不明だった奴を。

「どんなの?」

 なんでも桃色にする、という程度の才能がある。

「なんでも、桃色に? そんなのがあるの?」

 そうだ。いや、正しくはあったか。もう大分前の話だからな。まだ生きているかという可能性はあるが、多分あいつの気性では死んでいる確率の方が高い。むらっ気といらちが過ぎる男だったからな。あれでは昔ならともかく、今のシャバを生き抜くには難しかろう。たぶんに今の時代は生きにくいが、あいつには更に辛い時代だろうな。それなりに堅い仕事をしているオレでも辛い。なんでこんな世の中になっちまったかな。

「話が脱線してるよ?」

 おっと、いけない。話を戻そう。桃色にする、というおかしな才能だ。これを活かすにはどうしたらいいと思う?

「いきなり質問?」

 そうだ。話に入ってきてもらわないとだからな。さて、どうだろうか?

「うーん、なんでも桃色にするなら、何かを染める仕事が一番簡単だよね?」

 そう、その通り。あいつは色んなものを、布から鉄まで、自在に桃色に染める染物屋を生業にしていた。桃色の範囲なら、どういう彩度でも染められたから、中々需要があったらしい。

「らしい?」

 そう、らしい、だ。オレがあった時には、あいつはその生業を止めていた。

「じゃあ、何をしていたの?」

 泥棒さ。怪盗モモイロカブトムシ、って言えば、昔は中々に知られた泥棒だったんだよ。

「そうなの?」

 ああ、そうさ。盗めぬ物は無い、とまで言われた、大泥棒さ。黒壱原家にあった弥生黄金仮面を盗んだ時なんてのは、警察の裏の裏の裏までかいた見事な仕事っぷりだったよ。あれで憧れた奴も多かった。

「でも、なんでモモイロカブトムシなの?」

 それは単純。盗む所に、メッセージと共にあいつの力で桃色に染めたカブトムシを送りつけていたからさ。如何にも怪盗のすることだろ、とはあいつの言だ。形にこだわるやつだったからな。

 俺があいつと出会ったのは、まさにその名声が高まっている、丁度その時だった。

「どこで出会ったの?」

 それが、案外近くに居たのさ。その頃引越しをした俺の、そのアパートの部屋の隣があいつの部屋だったんだ。そして、偶然見ちまったのさ、あいつの部屋にあった弥生黄金仮面を。

「それで、警察に?」

 そんなことはしないさ。何せあいつはあの時代ではヒーローだった訳だよ、俺達に、若い頃の俺達にとってはね。難攻不落の警備システムを突破して、見事獲物を捕らえる。それも悪徳金持ちと言われる奴の手から、なんてなれば盛り上がりもするものさ。それを警察に、なんて発想は全くなかったね。

「ふうん。で、仲良くなったの?」

 そうだね。酒の一つも持ち込んで、一晩飲み明かせば自然と仲良しになるのが、大人の男ってやつだから。そして、色んな武勇伝を聞かされたよ。弥生黄金仮面についてとか、七色磁器のとかもね。それはそれは、わくわくすることばかりだった。まだ子供心が残っていた時期だからってのもあるんだろうけど、心踊らされたよ。そして思った。あいつには泥棒の才能があるっていうのをね。桃色にする力なんて、無くてもいいとすら思ったよ。

「でも、人の物を盗む、泥棒でしょ?」

 そうさ。泥棒なんてのは、大体は人の物を掻っ攫う酷い輩だ。でもあいつは違った。結果は同じだが違おうとしていた。そういう部分が俺には好感が持てたんだよ。まあ、今でもこう考えるのは贖罪の気持ちからなのかもしれないがな。

「贖罪ってことは、あなたはそのモモイロカブトムシに、何かしたの?」

 した、というよりしなかったことをした、と言うべきな。

「?」

 言い回しがおかしかったな。ちゃんと言おう。俺は、彼を助けられなかったんだ。

「助けられなかった?」

 ああ、助けられなかった。あいつは、捕まってしまった。俺はそれから助けられたかもしれない。だが、助けられなかった。あいつが捕まる日の朝、俺はアパートの近くで刑事に出くわした。そこで根掘り葉掘り聞かれたんだよ。その時、俺は適当にはぐらかしはしたんだが、あいつに逃げるように忠告しに行くことは出来なかった。

「どうして?」

 そうしたら、あなたも捕まる。そういう話を刑事にされてね。しらを切ったのも含めて、十分に罪になると言われたのさ。で、保身に走った訳だ。見て見ぬふりをする、というね。あまり後悔の無い人生だったが、あれは今でも悔いているよ。時代のヒーローを潰してしまった事に。

「でも、そこまであなたが考える必要は、無いんじゃない?」

 確かに彼は悪い事をしていたのは間違いない。でも、それと助けられなかったのは別なんだよ。彼がした事よりも、俺がしなかった事が重要なんだ。だから、悔いがあるのさ。自身の才能と能力が噛み合ってない、だから面白いあいつを、ブタ箱に入れたのは俺だ、って意識があるのさ。

「そんなことないと思うけどね? 大人って大変?」

 そう、大変。才能があっても才能が無くても、それが生きててもそれが死んでても、大変なのさ。

三題メーカーのお題に答える回第9回の。お題は「桃色」「カブトムシ」「おかしな才能」ジャンルは「指定なし」。ジャンル縛られないと自由を感じないというのはMっ気なんでしょうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の体験を少女との対話で昇華しています。これは文章としては面白い書き方です。次に、アイディアがオリジナルであること。どこかの影響も受けたわけではない桃色にする能力。それとは関係ない職業…
2015/08/01 23:06 退会済み
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