スティンググレネード
「はい、試験終了」
響き渡る試験監督のお姉さんの声が鼓膜を振動させる。
突然、熱帯雨林の戦場からホールに転送される。
俺は片足を引きずってホールの玄関に向かった。
遠くから駆け付けてきたのは、白衣を着た何人かのおじさんだった。俺の傷を診てくれる。
「足関節脱臼ですね、何やってたんですか」
「木に登ってたんですが、気が付いたらもう床に寝てて」
俺の手榴弾の威力だ。一般の手榴弾は爆発する際に爆風や金属破片を放散する。
一方、俺の自作手榴弾は手榴弾殻に火薬を3割、その残りに無数の小さいゴム弾を入れている。爆発する際にゴム弾が高速で弾かれ敵を攻撃する。まあ、何十匹かのスズメバチに刺される感じだ。
それも知らない一般人が見ると、蜂刺されと勘違いされるほどだ。
名付けて、蜂刺弾。
そして、それを何発か食らった俺が痛みに耐え切れずに手を離して落ちて脱臼したわけだ、と推測する。当時の記憶が薄らなんだ。
「外果のズレが1mm程度なので、とりあえずギプスを巻いときます。気になるなら附属病院で受診してください。」
ガイカ?なんじゃそれ。あ、外くるぶしのことか。
だが、先生はもう俺に構う暇もない。次の受験生が担架に運ばれてきている。血祭りだ。
「1次試験の結果は1週間以内にお知らせします。1週間経っても通知が届かなければ不合格と思って下さい」
キレイなお姉さんが慇懃に俺に知らせる。
これで俺の幹部候補大学1次試験は幕を閉じたのだ。
足の方はそこそこ痛いが、まあ、歩けないほどでもない。
大学の正門に向かって歩くと、空は茜色に染まっていた。