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運命?

その夜遅く、維月が寝たのを見て十六夜は蒼に会いに行った。

蒼は、まだ起きて自分の居間に居た。十六夜は蒼に声を掛けた。

「蒼?ちょっといいか?」

蒼は顔を上げて十六夜を見ると、驚いたように眉を上げた。

「どうした?こんな夜更けて。珍しいな。」

「話がある…蒼、もしも手遅れだったらどうしたらいい。」

蒼は面食らってしばらく黙った。「…何が手遅れだ?」

十六夜は椅子にも座らず言った。

「維月だよ。維心に会うのが、遅かったとしたらどうしたらいい?記憶が戻っちまったら、不幸になるなんてことになるんじゃねぇのか。」

蒼は十六夜をなだめた。

「とにかく、順を追って話してくれないか。」と椅子を指した。「座って。」

十六夜は頷くと、蒼に示された椅子に座った。そして、話し始めた。

「…別に、ほんとに維月の言った通り、一緒に散歩してただけかもしれねぇ。だが、最後に離れる時の顔を見た時、オレは何となく嫌な予感がしたんだ…維月は、もしかして、あいつに惚れちまったかもしれねぇ。」

蒼はまだ話が読めなかった。

「あいつ?維心様か?」

十六夜は首を振った。

「違う。だったら構わねぇじゃねぇか。嘉韻だ。」

蒼はきょとんとした。「嘉韻?…なんで嘉韻が出て来るんだよ。」

「知らねぇよ!」十六夜は声を荒げた。「最近オレがちょっと訓練場で皆の相手をしてる間に、維月は一人で釣りだなんだと外をうろうろしてたんだ。あいつは非番の時、よく湖に行く。最初は話して別れる程度だったのが、最近は長い事話してたり、森で走り回ったりしてるのは、気を探って感じてたんだが。」

蒼は眉をひそめた。走り回る?あの嘉韻が。見た目は鳥だが、謹厳な龍そのものの気質の嘉韻が…。

「…何かの間違いじゃないのか。あれはここへ来た時から知ってるが、仲の良い二人の軍神が結婚しても、あやつだけは頑なに結界を緩めることもなく、結婚もせずに来たのだぞ。女の相手をして走り回るなんて、考えられない。」

十六夜は険しい顔をした。

「…やっぱりか。誰かにそっくりだと思わねぇか?」

蒼はハッとした。前世の維心様…。

「まさか…」蒼は息を飲んだ。「だからって嘉韻が母さんをってことはないと…」

思いたい。蒼は思った。何しろ、嘉韻は優秀な将だ。真面目で気も強く頼りになるので、将来は筆頭軍神として自分のすぐ下で仕えて欲しいと思っていた。望むなら、どんな縁でも取り持ってやろうと…。

なのに母さんとなると、ややこしい。確かに転生して記憶もなく、十六夜は兄弟からエスカレーター式に結婚した仲。今は自分より年下で、正確には母ではない。しかし…維心様はどうなるのか。今の維心様なら何とも思わないだろう。だが、記憶が戻った時、母さんの横に別の男が居たなら…。

蒼は頭を抱えた。

「なんでこうなる!記憶を持って転生したら、こんなややこしいことになるのか!」

十六夜はため息を付いた。

「オレは別に構わねぇんだよ。オレ達は離れようがねぇからな。だが、維心のことを考えると、気が重い。記憶が無けりゃ、確かに何の問題もないことだ。嘉韻が維月を娶ればいいんだからな。歳だって釣りあわぁな。だが…どうしたらいい。このまま記憶が戻らないってこともあるかもしれねぇがな。維月は不死だし維心はまた寿命が長いだろう。おそらく、戻るだろうよ。その時、お互いに別の者が横に居たら、維月はどうであれ、維心は狂うぞ。何しろ一度は現世でも結婚してるんだ…今は覚えてないけどな。」

蒼は顔を上げて十六夜を見た。

「…どうする?記憶が戻らないように碧黎様に取り去ってもらうか、それとも、逆に記憶を今のうちに戻してしまうか、二つに一つじゃないか?まだ深い仲にはなってないだろう…なってるのか?」

十六夜は首を振った。

「わからねぇよ。オレが聞いて言うと思うか?維心で知ってるが、ああいう性質のヤツほど、思い詰めたら何をするかわからねぇからな。」

蒼は肩を落とした。

「やっと維心様が戻って来ると思ったのに。このままじゃ悪い方向へ行ってしまうじゃないか…とにかく、軍の指南はしばらく休んで、十六夜は母さんに付いててくれ。見張っとかないとどうなることか。」

十六夜は頷いて立ち上がった。

「わかった。だが、維心の相手をするって言っちまったしな。明日は蒼が維月を観覧席まで連れて来い。わかったな。」

蒼は頷いた。

「ああ。もう寝る。疲れた。十六夜、また明日な。」

十六夜は頷いて立ち上がって、部屋へ戻って行った。




闘技場で、維心は甲冑を着て立っていた。

昨夜は、よく休めなかった…維月の指に光っていた、あの指輪が気になって仕方がなかったからだ。あの指輪のことについて、よく聞きたかった。だが、十六夜は一応妻だと言っていた。それを十六夜に頼んでいいのかどうか、それも分からずにいたのだ。

観覧席には、昨日の立ち合いの評判を聞きつけたたくさんの観客が鈴なりになっていた。その中の貴賓席に、蒼と維月が居るのが目に付いた。維月が来ている…なんとしても負けるわけには行かぬ。維心は、なぜかそう思った。

十六夜が、甲冑を身に付けて舞い降りて来た。

「待たせたな。どうあっても、維月は目の届く位置に置いとく必要が生じてよ。…ほんとに気を使わせやがるよ。」

維心は思い切って言った。

「これが終わったら、維月と話させてくれぬか。気になることがあっての。」

意外にも、十六夜はあっさり頷いた。

「わかった。じゃあ、さっさと済ませようや。」

十六夜にしても渡りに船だった。早いとこ何とかしてほしいのに、維心はこういうことにはおっとりしていて何も知らないのを知っていたので、イライラしていたからだ。そうと決まれば、手加減はしない。さっさと終わらせる。

十六夜はいきなり刀を抜くと、維心に斬り掛かって行った。


維月は、別にいいと言ったのに、無理矢理連れてこられた闘技場の貴賓席で、蒼と並んでその立ち合いを見ていた。そして、龍の皇子だという維心の立ち合いに目を奪われた…なんて早いのだろう。今まで、この宮で十六夜に付いて来れる者など一人も居なかった。なのに、本気の十六夜相手に互角に戦っている…龍王である、将維よりも強いように見える。思わず、その姿に吸い寄せられるように、ただ見入った。

維心は、じっと見ている維月の視線を感じて、何がなんでも負けられないと思っていた。十六夜は、油断することがある…勝てるはずだ。機を待つのだ。

そして、この感じには何か覚えがあった。どこかで…我は十六夜と戦ったのか…。

「…しつこい奴だ!」

十六夜が刀を振り上げた。維心は今!と、十六夜の懐に飛び込んで、刀を横向きに首に当てた。

「一本!」

声が飛んだ。十六夜が悔しそうに刀を振った。

「くっそう!またこれだ!負けるってぇと必ず終わらそうとした時なんだよなー…。」

維心はフッと笑った。

「それを油断と言うのよ。主はそれさえなければ無敵よの。しかし、勉強になるわ。」

十六夜は不機嫌に維心を見やったが、ハッとしたように維月の方を振り返った。維月は蒼の横でこちらを見て何か話している。十六夜は言った。

「で、維月と話すんだろ?行くぞ!」

維心はびっくりした。今から?

「何と申す、この一試合だけか?」

十六夜は苛々と維心を見た。

「なんでお前はそうなんでぇ。まあ、言っても仕方ないけどな。とにかく、維月と話せ!」

十六夜はぐいぐいと維心の腕を引っ張って飛んで行く。維心は仕方なく、されるがままになっていた。

貴賓席で、蒼は驚いて十六夜を見た。

「なんだよ、もう終わりか?」

「お前まで何を言ってる。」十六夜は、維月を見た。「維心が、お前に話があるそうだ。湖…いや、川でも行って、話して来い。」

維月はためらっている。何をこんなに急いでいるのかしら。

「川?なんで川?」

十六夜は維月の手を引っ張って維心の手に押し付けた。

「川には維心は行ったことないだろう。とにかく、行って来い!」

ほぼ無理矢理な感じで維心は維月の手を取らされて、維月も仕方なく手を取られて、二人は川の方へ飛んで行った。それを見送りながら、十六夜は気遣わしげに言った。

「まったくよぉ。なんでオレがこんな心配しなきゃならねぇ。前世はもっと押しが強かったぞ、維心は!今生はなんだ、おっとりしやがって。」

蒼は苦笑した。

「だから、まだそこまで想ってないんだよ。接する機会がなかったのに、好きになりようがないじゃないか。」

十六夜は空に向かって叫んだ。

「とにかく、早くどうにかなってしまってくれ!オレの神経がもたねぇ!」


維月は、十六夜に言われるままに、維心を川の方へ案内した。向こう側に降り立つと、明るい森の散歩コースがある。こっちにも、維月はよく足をのばしていた。

維月は、森のほうを見た。

「こちらを歩きませんか?良いお散歩の道がありますの。」

維心は頷いて、維月の手を取って歩いた。そして、ちらりと維月の左手を見る…やはり、その手には、同じ指に同じ指輪が挿されてあった。維心は、立ち止まって維月の左手を取った。

「…この、輪であるが」維心はいきなり、言った。「主、どうしたのだ?」

維月は驚いた顔をした。そして、言った。

「なぜか最近はよくこれに付いて訊かれまする。これは、私が生まれた時に左手に握り締めていたものだそうです。父から、肌身離さず着けているようにと言われておりますの。これがあるから、私には、他に夫が居る可能性があるのですって…どういう意味かは、わからないけれど。」

維心は、思わず自分の左手を触った。維月は、維心のその反応に、その触れている先を見た…維月は息を飲んだ。そこには、同じ指輪が挿されていた。

「その…」維月は必死で言葉を探した。「それは、同じ…?」

維心は心持ち震えながら頷いた。

「我が、生まれた時に左手に握り締めておったものだと」維心は言った。「そのうちに意味が分かるゆえ、肌身離さず着けておるようにと…。」

維月は、絶句した。では、私の運命って…もう一人の夫って…でも、わからない。確かに、とても凛々しくて好ましいかたではいらっしゃるけれど、でも、私…わからない。だって、お会いしたばかりだし…。

維月は、維心の左手に、自分の手を並べて見た。どう見ても、同じ物。でも、こんなシンプルなデザイン、いくらでもあるし…。

維月は、思い切って指輪を抜いた。

「並べて見てみましょう、維心様。」

維心は頷いて、自分も指輪を抜いて手のひらに乗せた。維月は自分の指輪も維心の手のひらに乗せ、じっと見た。

維心が、何かに気付いたような顔をした。

「…内側に何か…?」

指に嵌めていたので、内側までじっと見たことがなかったのだ。そして、二人はそのまま動けなくなった。

内側には、二つ共に、『永久に共に 維心・維月』と掘ってあったのだ。


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