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他人

嘉韻は、訓練場でそれを聞いて驚いた。

維月が、月に半分は屋敷に来る。なぜなら、龍王と維月の記憶がややこしいことになっているからとのことで、十六夜が直接言っていたのだ。

「それは我は嬉しいが…ややこしいことって、大丈夫なのか?何か障害が起こるとか?」

十六夜は首を振った。

「それが良くわからねぇんだ。また親父が帰って来たら詳しく話を聞くけどよ。維月は元気なもんだ。ケロッとしてやがる。何しろ、覚えてないんだからな。」

嘉韻は眉をひそめた。

「まあ、維月に何もないと言うのならよい。それで、いつから我の屋敷に?」

十六夜は、うーんと悩んだ。

「オレがこの件を詳しく検討してる間は預かっててほしいから、今夜には連れて行っとくよ。二週間ほどしたら迎えに行くから、よろしくな。」

嘉韻は慌てた。

「我は任務であるぞ?ずっとついて居れぬのに。」

十六夜は手を振った。

「赤ん坊じゃあるまいし。四六時中傍に居なくても大丈夫だよ。お前、自分の嫁にそんなべったりついてるつもりかよ?それじゃ仕事にならねぇぞ。」

確かにそうだ。嘉韻は頷いた。

「わかった。」

十六夜が戻って行くのを見ながら、今日は仕事を終えたらすぐに屋敷へ帰ろうと嘉韻は思っていた。


「おかえりなさい、嘉韻。」

嘉韻が息せき切って屋敷へ帰ると、維月が出迎えた。嘉韻は息を整えながら、言った。

「今、帰った。」と刀を取って、維月に渡した。「十六夜からは、夜だと聞いていたのに。」

維月は頷いた。

「ええ。でも、私、勝手に来ちゃった。だって待ってるの面倒だったのだもの。」

そして、並んで奥の間に入ると、慣れた様子で嘉韻の甲冑を解いた。そして、部屋着を嘉韻に着せかけると、頭を下げた。

「終わりましてございます。」

嘉韻はびっくりした。しかし、維月もびっくりしたようだ。

「あら、私ったら…どうしたのかしら、口から出ちゃったわ。」

嘉韻は維月の手を取って居間へと移動しながら、思った。やはりどこかで覚えているのではないのか…。


次の日、皇子の頃からの召使いなどを連れて、将維は月の宮へと移って来た。やはり王であったので、その数将維たった一人に30人と、間引いたにも関わらず多かった。それでも将維の対は維心の対と同じく大きかったので、充分収容出来た。

落ち着いてから、蒼は言った。

「どうだ、気に入ったか?」

将維は満足げに頷いた。

「ほんに落ち着くことよ。ここは奥まっておって静かであるしの。それに明るくて召使い達も喜んでおったわ。」と、表情を引き締めた。「蒼よ、父上のことであるが。」

蒼は驚いた。碧黎と大氣が記憶を操作して、あのことは将維も知らないはずなのに。何を言おうと思っているのだろう。

「維心様が、何か?」

将維は頷いた。

「我には、あんなものは効かぬ。」将維は言った。「父上と母上が、ご記憶を無くされておるのだそうだな。確かに我もおかしいと思うた…里帰りなされておるのに、一向に月の宮の話にならぬ。水を向けてみたが、何もご存知ない様子。これは何かあると、十六夜と月を通して話したのだ。なので知っておる。後であやつらが記憶を改ざんして回っておったが、我は知っておったらそれを防ぐことが出来るゆえな。それにしても、縁を切るとはこれほどに恐ろしいことであるのか。我は知らなかった。」

蒼は、傍の椅子に腰かけながら言った。

「いや、普通はこうじゃないらしい。段々に自然に離れて行くらしいのに、あれだけ縁が強いとそうもいかなかったみたいだな。だって、記憶があってあの維心様が、母さんから離れたと思うか?自然になんて、とても無理なんだよ。だからこうなったんだろうってことだ。」

将維は、維心そっくりに眉根を寄せて言った。

「母上はどうなさっている?」

蒼は言いにくそうに言った。

「ああ…母さんは、今十六夜がこの件でうろうろしてるから、その、ここでさ、母さんがもう一人出会ってるのは知ってるか?」

将維は不機嫌に頷いた。

「知っておる。父上が許されたと言っておったの。しかし、里帰りの間三日間のみと聞いておるが。」

蒼は将維が不機嫌なので、余計に言いづらかった。

「で、十六夜がそこへ預けると言ってたから、そこに…」将維は立ち上がった。「あ、将維!」

将維は出て行きながら、言った。

「なぜにそのような所に。我がここへ来るのはわかっておったであろうが。我が預かる。いくら父上のご記憶がないからと、そのようなことは許されるはずがないであろうが。」

蒼は慌てて後を追った。それは維心様うんぬんよりも、将維が腹が立っているんだろうが!

将維は、イライラとしていた。

いくら父上が許されたからと、そのような男に長く預けるなど…我が耐えられぬわ。

宮のすぐ横に位置する三つの屋敷のうちの一つに、維月の気配を見つけた将維は、そこへ降り立った。出て来た召使いに、将維が取り次ぐように言うと、相手は慌てたように入って行って、すぐに維月を呼んで来た。

「将維様?」

維月は、こちらを見て、そう言った。後ろから、蒼が空から降りて歩いて来る。

「迎えに参ったのだ。宮へ戻ろうぞ。」

維月はびっくりした顔をした。

「まあ、将維様、私はここに滞在するよう十六夜に言われておるのですわ。」

将維は、驚いた。まるで、母は自分を前世の子と覚えていないかのように…。困って蒼を振り返ると、蒼は言った。

「母さん、これが誰か知ってる?」

維月は不思議そうな顔をした。

「前龍王の、将維様よね?何度かお会いしたわよ。」

蒼は将維と顔を見合わせた。

「で、誰の子?」

維月は眉をひそめて首を傾げた。

「前龍王と、妃の誰かでしょう?そこまで知らないわ。私、そんなに龍族に詳しくないもの。」

将維と蒼は呆然と維月を見つめた…そうか、維心様の記憶が消えるってことは、その間の子のことも消えるのか。

「ごめん、また来るよ。」蒼は言って、将維の袖を引いた。「とにかく、母さんはここで十六夜を待ってて。」

維月は怪訝な顔をしたが、最近はこんなことばかりなので、もう慣れた。なので、言っても無駄だとあきらめたように頷いた。

「ええ。じゃあね、蒼。」

蒼はそこを後にして、まだ呆然としている将維を引っ張って飛びながら思った。

これは結構奥が深い。どこまでどうなってるのか、整理しないとこのまま生活するのに支障が出てしまうじゃないか。

蒼は十六夜が早く帰って来ないかと思って空を見上げた。


蒼がやきもきしながら待っていると、一週間ほどして疲れ切った表情の十六夜がやっと帰って来た。

「やっぱりそうか。将維のことを自分の前世の子だって知らねぇんだな。」

蒼は頷いた。

「まるで他人だ。龍自体をあんまり特別視してないみたいだな。龍との交流とか全く覚えてないんだから仕方ないけど。」

十六夜はふーっと長いため息を付いた。

「やっぱり駄目だな。維心は、ほんとにストイックなヤツでよ。いくらこっちへ来るように言っても宮から出ないし、縁を繋ごうにも全く夫婦の縁が繋がらねぇんだよ…おそらく、繋ぎたくないって強い意思があるから、あいつの力はそれを無意識に切っちまうんだよな。これまでだってそうだったんじゃねぇか?ただ、維月との縁は、どこかで自然に決められて繋がったものだったから、あそこまでもって、で、あいつの意思もあってああやって成長してただけで…あれも言わば、奇跡に近いと今はオレも分かる。あいつは本当に駄目だ。」

蒼は絶望的な顔をした。確かに、独り身で居た維心様ならいくら繋ごうとしても駄目だろう。

「碧黎様でも無理だったのか?」

十六夜は頷いた。

「そうだ。それで大氣も落ち込んじまってよ…自分が何をしたか、やっと分かったみたいで。でも、取り返しが付かねぇ訳だ。何しろ、それが専門の神威が繋いでもスッと消えちまうんだぞ?もうお手上げだ。オレもこれ以上どうしようもねぇ。あとは駄目元で維月をあっちへ連れて行って、さりげなく維心の目に付くように歩かせて見るしかないな。でもよ…オレの嫁なのに、以前の維心みたいに寄って来るなんて考えられねぇんだよ。とにかく、全く女になんか興味がねぇ。というか、面倒だと避けてやがるからな…。」

「では、知らなければどうだ?」声に振り返ると、将維がそこに立っていた。「我が宮へ少し用事でも作って帰る時、連れて参れば良いだろう。さすれば父上も、目にすることが出来る。それをその時、十六夜の妃だと言わねば良いのだ。ま、見ただけでどうのないであろうがの。とりあえず、何かの縁は繋がるやもしれぬ。あくまで可能性だがな。」

十六夜はその案に飛びついた。

「それで行こう!明日連れて行け!」

将維は驚いた。

「明日?また急よな。」

十六夜は椅子の背に身を預けながら言った。

「あのな将維、オレがこの一週間、どれほど頑張ったと思ってるんでぇ。もうオレはフラフラだ。バトンタッチだ。頼んだぞ。明日の朝、迎えに行って来るから。」

十六夜が伸びをすると、将維は畳み掛けるように言った。

「今だ。」十六夜がびっくりしたように将維を見た。「明日まで待たずとも良い。今、連れて参れ。」

蒼は困ったように十六夜を見た。将維はどうしても、自分の知らない龍の所に母さんが居るのが、許せないらしい。十六夜は大儀そうに立ち上がった。

「はいはい、維心が居ないと、将維かよ。別に一晩ぐらい構わねぇじゃねぇか、減るもんじゃなし。」

将維は憮然として言った。

「我は何かを失っておる様に思えるわ。」十六夜はまたびっくりした。以前、維心が同じことを言ったからだ。「それに一晩ではない。もう七日ぞ。早よう連れて参れ。」

十六夜は将維に急かされるように蒼の居間を出て、維月を迎えに行った。

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