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決断

将維は、大氣の話を聞いているうちに、何か胸の内がつっかえるような感じがして来た。

しかし、大氣からは何の力も感じられない。なので、この神が何かしているとは考えられなかった。維月が横から、気遣わしげに将維を見た。

「王?どうかなさったのですか。」

維月の問いかけに応えようとして、将維は詰まった。声が出ない。

大氣が、異変に気付いてそちらを見て言った。

「将維殿?いかがされた?」

将維は、首を押さえた。なぜに声が出ないのだ。なんの波動も感じぬものを。もしかして…仙術か?

将維の視線は、大氣の隣の女に注がれた。女はベールの中でじっとして動かない。耳を澄ませると、何かを念仏のように唱えているのがわかった。

やはりそうか!

しかし、将維は声が出ないうえに、体が思うように動かなかった。封じようとしているのか、それとも殺そうとしているのかは定かではないが、これは確かに将維の力を抑えていた。

「その女ぞ!」神威の声が、突然降って来た。「将維、そやつと繋がっておる!」

阿久は発覚したのを知ると、ベールを取って手を上に上げた。仙術を完了させようとしている…将維が、息を詰めた。

「将維!」

維月が叫んで身を寄せる。臣下が慌てて軍神を呼び、外に控えていた数名がすぐに駆け込んで来たが、状況が読めず、手が出せずに居た。

「伏せていよ!」

刀を抜いた維心が、一瞬のうちに飛び出したかと思うと、阿久を真っ二つに斬った。途端に詠唱は途切れ、将維は詰まった息を長く吐き、力を抜いた。額には、玉の汗が浮いている。維月が将維の背を擦る中、維心が大氣を振り返った。

「…我は主など知らぬ。」

大氣は、穏やかに微笑んだ。

「さもあろう。しかし我は主を知っておる。」と、将維を見た。「惜しいことよ。この王も確かに優れた気を持ち、優れた性質であるのに。ただ、主と同じ龍であったゆえ…そして、王であったゆえ。こうして障害とみなされる。」

維心は大氣を睨んだ。

「何が障害ぞ。主は何者だ。」

「それは、気よ。」

その場に居た全員が見上げると、そこに碧黎が浮いていた。慌てて来たようで、着物が乱れている。大氣は目を細めた。

「地か。主はまた、遠回りしてしもうたの。思い出したか。」

碧黎は頷いた。

「思い出した。我の深い記憶であったので、そんなものがあったことすら忘れておった…主、なぜに今頃出て参った。今まで全て、我に任せておったものを。」

大氣は碧黎を見上げて言った。

「主には出来んようだったのでな。では、我がと思うた。」

碧黎は手を差し伸べた。

「参れ。話そうぞ。」と、回りを見た。「主らも来い。これでは、他の神の祝辞も聞いてられぬだろう。」

維心は黙って頷いて、将維を見た。将維はスッと立ち上がり、維月の手を取ると軍神達に下がるように言い、そこを出た。


将維の居間に落ち着いた皆は、碧黎と並んで座っている大氣に、視線を向けていた。大氣はそれをさして気にして居ないように、碧黎を見た。

「主が人型を取っておったのも知っている。此度は、主が地上の王をこの王座に就かせずにいるのを見て、では我がと出て参った。あの蛇の女は、先の戦の時に仙術で生まれ出る命達から気を奪っておった者。龍王を恨んでおるのを知っておったゆえ、利用させてもろうたのよ。だが、うまく行かぬの。主が困っておったのも、頷けるわ。」

碧黎は大氣を見た。

「別に困ってなどおらぬ。気よ、主が分からぬのも道理よな。我も、この命達の気持ちというものなど見ずに居た。それを、我が片割れに指摘され、こうして人型で神のふりをすることで、学んで行ったのだ。のう、我らが太古の昔に作った命は、今このように大きくなり賢くなった。意思を持ち、我らと同じように感じ、考えもする。なので、我はこれらの意思を聞いておるのよ。地上の王は、まだ王位に就きたくないと言う。ならばこのまま待てば良いかと思うておったのだ。」

大氣は、フッとため息を付いて碧黎を見た。

「地よ…だがしかし、困ったことが起こらぬと思うか?」大氣は言った。「王であらねば迅速に動けぬというのも、またこやつらの世の理ではないのか。我は、この地が荒れるのをもう見たくはない。我らが作って育んだ命達が、どんどんと散らされて行くなど、我には耐えられぬ。主が地上の王を作った時、我はようやったと思うた…こやつならなんとか出来ようとな。確かにそうであったではないか。再びこの世に戻したのも、そのためではないのか。」

碧黎は首を振った。

「そうではないのだ。あやつが望んだゆえに転生させたまで。別に地を統べさせようとは思うておらなんだ。しかし、生まれ出てみれば、やはりこやつは王なのだ。なので主の気持ちも分かる。しかし、今の龍王を殺してしもうても、解決にはならぬ。それが今の我には分かっておるのだ。」

大氣は、顔をしかめた。

「…わからぬの。しかし、王が王座に就かず、いったい何の役に立つのだ。あれを生み出す為に消えた命は、なんのためにそうなったのだ。王に己など無い。その生は、ひとえに地上全てを平和に保つためにある。地上に意味の無い命など要らぬ。そんなものまで、我は面倒を見ぬ。」

維心は、視線を落とした。自分の命は、己のためでは意味がないのか。生きることすら許されない…確かに、地上の全ての命は何かしら責務を負っていて、それを果たさぬのなら死して行く。我は、結局はそういう命なのか。

碧黎が、ため息を付いた。

「気よ、では我らとしばらく過ごしてみぬか。主だってまだ学べることぐらいあるであろうが。それからでも遅くはないであろう。我の子の宮へ参ろうぞ。」

大氣は、驚くほど明るい表情をした。

「おお、やっと主の子に会えるか。主が我を忘れておるゆえ…我もなかなかに出て来れなんだ。」

碧黎は、十六夜と維月に手を差し伸べて、自分の傍に呼んだ。二人は、ためらいながらもその近くに立って、大氣を見た。

「こちらが娘の維月。」と、維月の手を取って、碧黎は言った。「こちらが息子の十六夜。二人とも月にした。我の名は碧黎。この娘に付けてもらった名ぞ。」

碧黎が、心なしか誇らしげに言うのを聞いて、大氣は胸を逸らせた。

「我にだって名はあるぞ?大氣だ。我が、自分を大気(たいき)だと言ったら、向こうが聞き間違えて大氣(だいき)と申した。面倒だし、それを名にした。」

十六夜は息を飲んだ。

「え…気って、お前は大気なのか。この、空気だってのか?!」

大氣は頷いた。

「そうよ。ゆえ、我と地で命を作ったと申したのよ。こやつは目覚めたばかりの頃だったゆえ、ついさっきまで忘れておったようだがの。しかし月達よ、主らの気は、やはり我らと似ておる。我らは縁戚のようなものよな。しばらく頼むぞ。それから、考えようぞ。」と、将維を見た。「主は確かに王であるが、地上の王ではない。維心が死した後は、間違いなく主が地上の王であったが、維心が戻った時点でそれは維心になった。主が譲ると言っておるのは知っておった。だがこの維心が渋っているゆえに、我は主をあの世に送って維心を王に戻そうとしたのよ。しかしの…我や地が手を下さずとも、いずれそのようになる。これは地も知っておるはずよ。」碧黎は、居心地悪げに下を向いた。大氣は続けた。「世の理とは、そう言ったもの。主はこのままでは長生き出来ぬ。老いが来るのが早いであろうて。寿命を決めておるのは、何も我らだけではないということぞ。」

碧黎が黙っているので、維月は言った。

「お父様…それは本当ですの?」

碧黎は、渋々といったように頷いた。

「主らが不安がるかと言わずに置いた。我らもまた、管理されておるのを昔から感じておる。我も大氣も、あまりに主らに干渉し過ぎると力を失う。あれは、何によって成されておると思うか。」

維月はハッとした。確かにそうだ…。では、将維は…。

維心が、不意に立ち上がった。

「維心…。」

十六夜が気遣わしげに言う。維心はしばらく黙った後、維月を見た。維月はその目をじっと見返した。

維心は小さく維月に頷くと、言った。

「将維、臣下と軍神を集めよ。」維心はしっかりした口調で言った。「我が転生して記憶を戻した事を、広く神達に知らせよ。我は王座へ戻る。」

将維は立ち上がって頭を下げた。

「はい、父上。仰せの通りに。」

そして維月にホッとしたように微笑み掛けると、将維は出て行った。

維月は維心に歩み寄った。

「維心様…。」

維心は維月の頭を撫でた。

「…これで良いの。我は王よ。これが宿命ならば、受けねばならぬ。」

碧黎と大氣が、満足げに見ている。大氣が言った。

「…なんと、面白いの。神とはいろいろと複雑ではないか?個別に見ていると退屈せぬわ。のう碧黎よ、我もしばらくは、主の居る宮で眺めようぞ。」

碧黎は眉を寄せた。

「…変な事はするでないぞ。」

碧黎が窓へと歩いて行く。大氣はそれを追いながら、顔をしかめた。

「なんだ、まだ我があの時、勝手に人と神を分けた事を怒っておるのか?違う種類の命があった方が面白かろうが。こら、碧黎!」

碧黎は飛び立った。大氣がそれを追って行く。十六夜はため息を付いた。

「また厄介な奴を抱えちまってよ。オレは蒼に話して来るよ。維月、また詳しい事は里帰りの時に話そう。」

維月は頷いた。神威が伸びをした。

「我も月の宮へ帰る。あそこのほうが寛げるしの。ではな、維心、維月。」

維心は呆れたように言った。

「神威、主の王なら自分の宮へ帰らぬか。いつまでも月の宮へ居るのではないぞ。」

神威は顔をしかめた。

「ま、そのうちにの。」

神威は飛び立った。維心と維月は、それを王の居間の窓際に並んで見送った。

二人でここに立ってこうして眺めるのは、前世以来のことだった。

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