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維心は、自分の対の居間で空を見上げていた。

碧黎はそのまま何も言わずに帰って行き、神威は将維について、切っても少し経てばまた繋がれる縁を、根気強く消し続けてくれていた。

維心は時をくれと言い置いて、その場を出ていた。王…。前世、就きたくて就いたのではない王座。父を恨んで殺した結果ついて来た、自分への終わることのない罪の罰だと思っていた。

ゆえに、その責務を果たすべく、他に目をくれず自分を殺して王として振る舞い、地を平定して行った…しかし、それが何かに動かされたゆえのことだったというのか。

維心がじっと空の月を見つめていると、維月が入って来て声を掛けた。

「維心様…。」

維心は驚いた。ここでは、維月は龍王妃。皇子の居間へなど、簡単に入って来てはいけないのだ。

「維月、以前とは違うのだぞ。ここへ来てはならぬのに…。」

維月は首を振った。

「将維がそのように。良いのです、維心様。私は維心様の妃ではありませぬか。」

維心は、表情をゆるめて、維月を引き寄せた。

「そうであるの。主は我の妃であるな。」

維月は維心の胸に寄り添いながら、維心を見上げて言った。

「維心様…王とは、それほどに嫌なものでございまするか?」

維心は、驚いて維月を見た。そして、しばらく黙ってから首を振ると、言った。

「そうではないのだ。維月、我は前世、王であることが自分に対する罰だと思うておった…父を殺したゆえについて来た、我へのあれが代償であるとな。」と、維月を抱き寄せた。「主に出逢って娶るまで、我は王になって良かったなどと思うたことは一度もなかった。王であることは、大きな責務も負っておる…全ての眷属の命を背負っておるのだからな。その上に妃を娶れだの自由もきかぬ、本当に面倒な地位であるのだ。己の希望など、ないようなものよ。我はそれだけは決して譲れぬと思うておったゆえ、長きに渡り独り身を通したが、本来なら許されるものではなかったのだ。」

維月は頷いた。

「はい…私も前世、それを学びましてございます。王とは本当に窮屈なものでございまするわね…。」

維心は、また月を見上げた。

「のう維月…我とは、いったい、なんだったのであろうな。」維月は、びっくりして維心を見つめた。維心は続けた。「好んでこのような力を持って生まれついたのではない。であるのに、地を平定するものとして王座に就くことを定められ、そして恐らく父を恨むように持って行かれておったのであろう…父を殺したことさえ、我の意思を誘導されて成したことのように思えてならぬ。全ては、我に地上を治めさせるため。なぜに我でなければならぬのか。此度は、我は主とゆっくりと過ごそうと思うておった。しかしやはりそれは許されず、成人して落ち着いたと見るや王座に就く様子の無い我を、またその位置へ持って行こうと将維を滅しようとする。」維心は、息を付いた。「…我は、普通の神のように生きることは許されぬのか。我はこれほどに大きな力など要らぬ。王になどなりたくはない。主と二人、誰かに仕えて生きて参るのでも良いのに。転生したこの新しい生でさえ、我には自由にならぬのか。我は生まれ出るたびにこの気の力で誰かを殺し、そしてその代償のように王座に就かねばならぬと言うのか。…我は、転生を軽く考えておったのかもしれぬ。ただ、主と離れとうなかっただけなのに…。」

維月は、維心を抱き締めた。このような運命を背負って生まれた命。しかしおそらく、この地を平和に保つためには、こんな命も必要であったのだ。そうやって生み出された命が、維心であったのだろう。

維月は、言った。

「維心様…私が居りまする。どのような境遇になっても、私は維心様と共に。そして、またこの世を去る時は、共に参りましょうね。次は、父にも考えてもらって…私も、ただの神か人として、維心様と生きても良いではないですか。維心様は、それでも私を見付けて、きっと愛してくれまするし。維心様と二人、どこかで…。」

維心は笑った。

「二人は無理であろうの。いつなり十六夜がついて参る。しかし、それでも良いわ。主と共に居れるなら、我は良い。」と、維心はまた月を見た。「そうであるな…主が居る。此度は王になる前からこうして傍に。ならば長い生を生きて王であっても、我は耐えられるやもの…主は我を常に癒してくれるゆえに。」

「維心様…」

維月は背伸びして、維心に口づけた。維心はそれを受けて、維月を抱き締めた。

「…そうよ。なんと幸福な生であることか。主がこうして、早くから共に生きておるのに…。前世など、比べ物にならぬわ。」

二人はそうして口づけながら、長く抱き合っていた。王にならねばならない宿命…そんなものを背負っている、維心をずっと助けて行こうと、維月はその夜、心に刻んだ。


「ほんにきりがない。」次の日の朝、居間にたずねた維心と維月に神威は言った。「いくら切っても復活して来よる。どうしたものか…早く碧黎が何とかしてくれれば良いがの。」

将維がため息を付いた。

「しかし、今日も祝いに来る者がおるゆえ」と、神威を見た。「我は謁見の間に参らねばならぬ。ま、すぐにどうこうないであろうしの。案ずる事はないわ。維月、支度を。」

特に気にする風でもない将維に、維月はためらいながらも、頷いた。維心は何も言わずに、出て行く維月を見送った。


一方、十六夜は月の宮で、碧黎に言った。

「あのなあ親父、何でもオレだけに押し付けるな。確かにそれは緊急事態かも知れねぇが、こっちも緊急事態なんだぞ。」

碧黎はうんざりしたように言った。

「維月が呼ぶのに行かずにおれぬ。で、そちらはどうであったのだ。」

十六夜はまだ憮然として言った。

「やっぱり親父の読み通りだ。あそこに居た女は蛇で、己多からの命を受けて、生まれ出る子から気を奪う仙術を掛けていたのはあいつだな。巻物を3つ見付けてとって来たが、そこにあった。解き方は、あの女に死んでもらわなきゃならねぇな。」

碧黎はやはり、という顔をして、身を乗り出した。

「我は直接手を下せぬ。主らがどうにかせねばなるまいて。将維の縁も気になるの…繋がる先を探さねば。」

十六夜は言った。

「おいおい、オレは無理だぞ。縁が見えねぇんだ。維心か神威に手伝わせな。」

碧黎は憮然として十六夜を見た。

「見ようとせぬだけだ。主にも見えるはずぞ。とにかく、探して参るゆえ。陽蘭に、今夜も帰らぬと言っておいてくれ。」

十六夜は慌てて言った。

「おい!まだ昼だろうが!オレがおふくろに文句言われるってのによ!親父!」

碧黎はスッと消えた。

十六夜は肩をすくめた…間違いなくオレの親父だ。やることがそっくりだもんな。


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