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前世の姿へ

図書館には、いろいろな本があった。

数百年前からパソコンというものも無くなり、今はマザーコンピューターがこの図書館を管理している。本を読むことも出来たが、コンピューターに聞けばいくらでも教えてくれる。維月は、机の一つに向かって椅子に座り、そこのコンピューターに問いかけた。

「コンピューター、維心と維月の事について教えて。」

コンピューターは言った。

『該当は二件ずつあります。年代を指定してください。』

維月はちょっと考えた。

「年代は古い方でお願い。」

『はい。』

そこで、後ろに気配を感じ、振り返った。維心がそこに立っていた。

「維心様…。」

維月が振り返ると、維心は言った。

「良い。主がまた一人で飛び立って行くのが見えたので、追って参っただけのこと。調べておるのか?」

維月は頷いた。

「この、指輪を持っていたのは前世の維心と維月であると思って…どのような方達だったのか、知りたいと思いました。」

維心もこちらへ寄って来る。コンピューターが話し始めた。

『維心。龍王。歴代最大の力を持っていた王。1800歳で没。200歳から1800歳までの1600年間、王として君臨する。1700歳で正妃を娶り、将維、明維、晃維、亮維、紫月、緋月と子を6人成す。地を平定し、太平の世を作り上げた。』

維月は真剣に聞いていて、眉を寄せた。これだけじゃ分からないんだけど。コンピューターは続けた。

『維月。龍王妃。人として月の力を使える者として生まれ、その後40歳で陰の月の命を与えられて月となる。月の宮の王、蒼の母。龍王に強く乞われて嫁ぎ、6人の子を成す。122歳で没。』

維月はますます眉を寄せた。

「これだけじゃ分からないわ。」

維心は苦笑した。確かに。意外にもコンピューターが答えた。

『詳しい資料をお望みですか?』

維月は頷いた。

「なんでもいいから、残っているものをお願い。画像とかない?」

『はい。』

目の前に、立体画像が浮かび上がった。二人はびっくりした…その維心は、今の維心そのものだったからだ。びっくりしていると、その画像は何かに向かって語り掛けた。

『このようなものを残して何になるのだ、蒼?』その維心は言った。その維心は困ったような顔をして、誰かに手を差し伸べた。『我一人など。主も来い、維月。』

維心が見ている先から、誰かが新たに立体画像で歩いて来た。それは、少し年上に見える維月そのものだった。維月は、穏やかに微笑みながら、維心の手を取った。維心は、ホッとしたような顔をして、維月を引き寄せて抱き締めた。維月が困ったようにこちらを見た。

『まあ維心様、カメラに映っておりまするわ。これが後世に伝わるのですわよ。恥ずかしいでしょう?』

その維心は、嬉しそうに笑った。

『良い。我らが仲睦まじいことを、後の世の者はうらやむと良いわ。それに、これを見るものなど居らぬのではないか?…だいたい、我らはなかなか死なぬのだからの。』

維月は呆れたように笑って、維心の頬を両手で挟むと愛おしげに見た。

『維心様ったら…。』

維心は、維月に口付けた。蒼の声だけが聞こえる。

『ストップ!ちょっと母さん、これ、残るんだよ?しかも立体画像で。』

維心がちらりと目を上げた。

『良い。そういう趣味の者だけ見れば良いわ。』

そして口づけ続けた。蒼の呆れた声が聞こえる。

『…あーあ、これは正式資料から外さなきゃなー…。』

そこで、画像は現れた時と同じように突然に消えた。消える直前、維心は二人の指に、間違いなく自分達が手にしているのと同じ指輪が嵌められているのを見ていた。

こんなこともあった…。維心は懐かしく思い出した。蒼は、こうして見るために、あの日ここへ立つように言ったのか。

「…維月、この時…。」

維心は言って維月を見た。そして、驚いて言葉を止めた。維月は大量の涙を流していたのだ。

維心は、維月の肩を抱いた。「維月…どうした?」

維月は維心を見た。

「維心様、私…」維月は顔を手で覆った。「何か思い出しそう…。私、愛しておりますわ。間違いなく、とても深く、維心様を…。私…何かが心の中から湧き上って来て…。」

維心は慌てて維月を抱き留めた。維月が記憶を戻そうとしている。維月はふらふらと維心の腕の中へ倒れ込んだ。

…主の記憶が、戻るのか。

維心は維月を抱き上げると、急いで自分の対へと飛んだ。維月の記憶が戻るかもしれない。


「十六夜!」維心は叫んだ。「十六夜、ここへ来い!」

維心は、自分の対の寝台へ維月を寝かせながら、気遣わしげに維月の額に手を乗せた。熱がある…。

維月は、苦しげに息を乱して目を閉じていた。

十六夜が瞬間的に現れた。

「なんだ維心?」そして、寝台を見て、慌てて維月に駆け寄った。「なんだ、何が起こった?!」

維心は十六夜を振り返って言った。

「学校の図書館で、維月は前世の我らのことを調べるとコンピューターと話しておったのよ。そこで、我らが前世に録った立体画像を見た。その後、何か思い出しそうと言って、倒れたのだ。」

十六夜は維月の額を触った。

「なんてこった、熱がある。オレ達はエネルギー体だから、生まれてこのかた熱なんて出したことはねぇ。生物学的にどうのではなく、命そのものが熱を持ってるってことだ!」

維心は驚いて維月を見た。ただの風邪とは訳が違うのか。

「どうすれば良い?それでは、冷やしても駄目であるな。」

十六夜はしばらく黙ったが、叫んだ。

「親父!維月が熱出してるぞ!」

また、瞬間的に碧黎がそこへ現れた。そして続いて陽蘭も来た。維心はそれに慣れねばと思った…おそらくこの家族には、これが普通のことなのだ。

「おお我が娘が」陽蘭がおろおろと維月の手を握った。「碧黎、なんとかして!」

碧黎は維月の額に手を置いて何かを探った。そして、言った。

「…記憶が戻るのだ。だが、維月は維心と違ってそう何回もこんなことに耐えられる精神力がない。なので、命がそれを補佐しようと熱を持っておるのよ。」と空を見上げた。「…月も、補佐しようと力を降ろし始めている。つまりそれだけ危険だということだ。」

維月が薄っすらと目を開けた。

「お父様…」

碧黎が慌てて維月を見た。

「おお維月、ここに居るぞ。父がおるゆえ、案ずることはない。」

維月は力なく微笑んだ。

「大丈夫でございます…維心様と、十六夜、私、思い出しましたの。私…心を、繋いで…。」

維月が目を閉じた。途端に青白い光が一気に維月に降りて来てその体を満たして行く。十六夜は空を見上げた…昼間なので見えないが、月が維月に力を降ろしている。この青白い光は、維月の方の力だ。

「…いよいよ、危ないと見たか。」と碧黎が空を見上げた。「月が、維月を助けようとしておるのだ。」

十六夜が手を上げた。途端に真っ白い光が降りて、同じように維月を包んだ。

「オレにはこれしか出来ねぇ。安定させねぇと、意識そのものがなくなって、真っ白になってしまう。せっかく戻った記憶すら、無くなってしまう…。それどころか、赤ん坊みたいに戻っちまう。」

維心はなす術なく維月を見た。光に包まれて息を乱すその顔は、段々と蒼白になって行くように見えた。この様子、どこかで見た…。

「…命が、ずれておった時も、こんな感じだった。」維心は、記憶をたどった。「前世で、維月に月の命を与えた時、合っておらずに我が調整したのだ。その時も、受けた感じはこういうものだった。あの時は、心を繋いで我が誘導して固定させた…。」

碧黎が、維心を振り返った。

「おおそうよ!主は心を繋ぐことが出来るのだったな。主の精神力を維月に分ければよい!」

維心は、頷いて維月に歩み寄った。あの時のことが、今役に立とうとは。我が先に記憶を戻しておってよかった…。

「維月…すぐに楽にしてやるゆえ。」

維心は維月に口付けた。すると維心から光が立ち上り、維月に流れ込んで行くのが見える。十六夜は思い出した…あの頃はまだ、維心のことが許せなくて、この様子を見ることが出来ず、自分は何日も月に戻って維月と顔を合わせることもなかった…。あれから考えると、自分はなんと成長したものか。

しばらくそうしていると、月からの光がスッと消えた。それに伴って維月の呼吸がゆっくりとしたものに戻り、穏やかになり始めた。

維心が唇を離した。手を握っていた陽蘭が、言った。

「手が暖かくなり申した。あれほどに熱かったものを。」

碧黎が額に手を置いて、頷く。

「命の熱が引いたの。驚かせおって…もう大丈夫ぞ。」

維心がホッとしたように言った。

「中でバラバラになろうとしておった記憶を、我のものと合わせて元へ戻したのだ。しばらくは調整せねばならぬが…しかし、すぐに固定するであろう。命が離れようとしておった時と、同じ状態よの。」

十六夜は頷いて、維月を見た。

「…成長してやがる。」

三人はハッとして維月を見た。維月の姿は、前世の生前と同じ姿まで成長していた。記憶に従って、月がこの形を作ったのだ。

「前回とは違った反応よの。」碧黎が気遣わしげに言った。「前は姿までは変わらなんだものを。」

十六夜は苦笑した。

「維心に合わせたんだろうよ。こいつはいつだってそうだ。前世でも維心に教えられるままに神として成長してああなっていた。それであっちこっちの神が寄って来て、維心は難儀してたじゃないか。維月だって迷惑してたんだぞ、自分は維心が望むように成長しただけなのに、やたらめったらあっちこっちの神が維月維月と寄って来るから、それで維心は怒るし、維月は寄って来る神達の必死な様子に突き放せない性分だしで。維心にとっちゃあ自業自得でも、維月にとっちゃあいい迷惑だったんでぇ。ちなみに、オレにもな。」

維心は、ばつが悪そうに言った。

「そうは言ってもの…維月がまさか我に合わせて成長するとは思わなんだしの。」

十六夜はフンと横を向いた。

「源氏物語読んでないのか。光源氏は紫の上を育てたんだぞ。子供の時にさらってさ。同じじゃねぇか。維月はあの時、神としてはほんの子供だったってのに、お前が娶ってよ。」

碧黎は割り込んだ。

「まあまあ、仕方ないではないか。そうなってしまったものはの。主も同じではないか。維月が生まれた頃から一緒なのは、前世でも今生でも同じであるのだからな。」と維月をちらと見た。「今生ではそれほど大したことはなかった気が、記憶を戻して今、戻って来ておる。これはまた、維心が大変だの。」

維心は慌てて維月を見た。維月から、あの懐かしい気が湧きあがっている…それは、確かに今生で出会った時より、前世のものに近付いて大きく強くなって来ていた。誰をも惹きつけてしまっていた、あの気…。

十六夜が、ため息を付いた。

「知らねぇぞ。オレは上から見てたがな、嘉韻に別の女を探す間はと、里帰りの三日間だけ維月を許したみてぇだが、これだと生涯無理だな。前の維月にでもあれほどゾッコンだった嘉韻なのに。」

維心は、横を向いた。確かにそうだ。

少し後悔したが、仕方がないとため息を付いたのだった。


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