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最終話  エピローグ 平穏な世界へ。終わらぬ輪墓

健二視点


 俺たちは現世へと続くであろう一筋の光で出来た道を走り続ける。


「高本君。道の向うを見て」


 片山の言葉を受けた俺は、奥に目を見張ると、そこには俺たちがこの世界に引きずり込まれる直前に歩いていた通学路が僅かに姿を見せていた。


「あと少しだ。みんな急ごう」


 俺は目の前に見えた元居た世界に希望を抱きながら走り続ける。


「桐生君の右腕についてた黒いモヤが薄れてる」


 しばらく走り続けていると、朝倉さんは桐生さんの右手に目を見張らせながらそう言った。


「ああ。多分、館の主が消えたことに加えて、元の世界に戻ろうとしていることで、呪いが解けかけているんだ」


 桐生さんは、少し嬉しそうにそう続ける。


「多分これで全員が助かる。僕たちは全員で生きて帰ることが出来たんだ」


 桐生さんの言葉を受けた俺を含めた全員が、嬉しそうに頷いた。


「そうだ。高本君たちにこれを渡しておこうと思っていたんだ」


 桐生さんはそう言いながら、ズボンのポケットからメモ用紙を取り出す。


「あの、これは?」


 俺は渡された紙が何かを尋ねた。


「これには僕ら三人の連絡先が書いてある。せっかくこの世界から一緒に脱出するんだ。元の世界に戻ってからまた会おう」


 桐生さんは、全員で生きて枯れることが出来たことの喜びを顔に浮かべながら、俺たちに三人分の連絡時間が書かれたメモ用紙を手渡しする。


「ありがとうございます。ただ、俺らは今紙に連絡先を書いてないですよ」


 俺は、自分や朝斗達を含めた四人の連絡先を紙に書いていないことを思い出して咄嗟にそう言うと、今まであまり口を開いていなかった篠原が口を開いた。


「私たち四人分の連絡先なら私がメモ用紙に控えてあります。これです」


 篠原はそう言いながら俺たちの連絡先が書かれていると思われるメモ用紙を、三人の中で一番近くに居た朝倉さんに手渡す。


「真紀ちゃんいつの間に用意していたの!?」


 片山が少し驚いた様子でそう尋ねた。


「館の主を一度追い払った後に、脱出した後のことも考えて用意しておいたんです。」


 篠原がそう言うと、少し自慢げに続ける。


「毛利君に何かあった時のために私たちの個人情報を書いたものを無いか残しておくと良いって言われていたんですよ。春子も私たちが仮に助からなくても後にあの世界に囚われた人たちに情報を残せるように、色々他にもメモを残してあるんですよ」


 得意げな様子で篠原がそう言った後に、朝斗が付け加えるように口を開いた。


「メモは俺埒が通った道にそのままおいても置いた。篠原には主に、片山が書いたメモを置いてもらっていたんだ」


「おいおい。何もしてねえの俺ら高校生組の中じゃ俺だけじゃねえかよ」


 俺は内心焦りながらそう口にすると、今度は片山が口を開く。


「それは違うよ。高本君の行動力のおかげで、あの世界を能動的に探索することが出来たんだよ」


「いや。それだって、ただたんに運が良かったり、ヘンテコな偶然が重なっただけだろう? 俺ボクシングもやってたのに対して役にも立たなかったし」


 自分の役割に自信を持てていない俺の言葉に対して、今も現世に続いているであろう道を走り続けている片山は少し優しげな口調で答えた。


「大丈夫だよ。高本君が居なかったら私は何回死んでたか分からないし……」


 片山は優しげながらも意思の込められた口調で続ける。


「それに、高本君は運が良かっただけなんて言うけど、今私たちが生き残っていることは、高本君を含めた私たち全員の努力の結果なんだから」


 片山の言葉を受けた俺は、心の中に残っていた膿が掻き出されたような感覚を覚えいた。


「もうそろそろ出口みたいだね。続きは元の世界で話そうか」


 片山がそう言うと、先ほどまで見えていた通学路がすぐ眼の前まで近づいていた。


 そして、俺たちが目の前の通学路に手を伸ばした次の瞬間、俺たちの体を光が包んだ。



 貴志視点


「これで最後だな」


 僕は切り殺した最後の怨霊の残骸を妖刀から抜き取る。次の瞬間、世界が大きな悲鳴を上げるように軋んだ。


「とうとうあの館の主が消えたみたいだな。お前もやっと成仏できるぜ」


 妖刀は小憎たらしい口調でそう言う。


「ああ。そうだな」


 僕がそう返すと、館は透明になって消えていく。


「お前はどうするんだ?」


「俺は現世に帰るぜ。俺は元々は鎧とセットの付喪神だからな」


 僕の問いかけに妖刀は当たり前のことを答えるようにそう言った。


 妖刀の問いかけを受けた僕は自分自身の霊体が上空へと登って行くのに気付いた。


「じゃあな。精々あの世では達者でな」


 妖刀はそういうと、高本君たちが向かって行った方向へとひとりでに飛んで行った。


「あいつも素直じゃないな」


 天上へと登って行く僕は、そう呟きながらふと館がかつて存在した場所を眺めていると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「嘘だろ!?」


 僕が視線を向けた先では、館の会った場所に溜まっていた呪詛や怨念が消えることなく、成仏しようとする幽霊の一部を無理やり飲み込んでいる。


「まさか、館の主が居なくなってもあの怨念の塊その物は消えないのか!」


 僕は憤りを感じて、少しでもないか出来ないかとあがこうとしたが、既にあの怨念の影響を受けないところまで上っていた僕にはもはや何も出来なかった。


(僕には何も出来ないのか……あの七人を逃がすことが精一杯だったのか)


 失意の念に苛まれながら僕は、そのまま天へと上り終えた。



慎二視点


 僕たちが気が付くと、そこは良く見慣れたオカルト研究部の部室だった。辺りを確認すると、小鳥遊と朝倉も無事に戻って来ている。


「戻ってきたのか?」


 小鳥遊は当たりを見渡しながら確かめるようにそう口にした。


「どうやらそうみたいだ」


 僕は、生きていることを心の中で実感しながらそう答える。


「桐生君。片山さんたちも無事に戻っているかしら? ちょうど連絡先も分かるから連絡してみようよ」


 朝倉はバッグから携帯端末を取り出しながらそう言った。

「ああ、僕もそこは気になるし、連絡してみよう」


 朝倉の提案に賛同した僕は、早速彼女からメモを預かると、書かれていた連絡先の一つに電話をかける。



 健二視点


 気が付くと、俺を含めた四人は夕焼け空の通学路に座り込んでいた。


「俺たちは助かったのか」


 朝斗は、夕日に照らされた血のように赤くない普通の世界を確かめるように、建物の壁を何度も触り続けている。


「本当に助かったんですね。私たち」


 篠原が、感慨深い様子でそう口にした。


「おう。俺達、全員生きて帰ってこられたんだな」


 俺も同意するようにそう言葉を返す。


 俺たちが生還した喜びに浸っている中で、片山は一人だけ何かを考え込んでいた。


「どうしたんだよ? そんな風に考え込んでまだ何か起きるかもしれないのか?」


 俺の問いかけに、片山は我に返ったように慌てた様子で答える。


「大丈夫。何でもないよ」


 片山の抽象的な答え方を不審に思った俺が、さらに問い詰めようとした次の瞬間、片山の携帯が鳴り始めた。


「この番号って。メモに書かれていた桐生さんの番号だよ。三人ともきっと無事なんだ」


 片山は、先ほどまでとは異なる明るい表情でそう言いながら電話に出る。


「はい、片山です。桐生さんですか?」


「よかったそちらも無事だったんですね。はい私たちも四人とも全員無事です」


 片山は嬉しさのあまり興奮したように話を続けていた。


「良かった。はい、また改めて落ち着いてから連絡します」


 片山はそういうと、電話を切って俺たちの方に顔を向けて口を開く。


「えっと。桐生さんたちも無事だって、後日落ち着いていから連絡し直すことになったの」


 俺を含めた三人にそう説明した片山は、今度は俺に顔を向けながら再度口を開いた。


「さっき気になってたのは、桐生さんたちが無事かどうかだよ。こっちに戻る直前に不穏な気配を感じたから……」


 先ほど俺が聞こうとしていたことに答えた片山は、話を続ける。


「私たち、さっきまで一度も後ろを振り向いてないでしょ? だから、館の会った後ろの方から不穏な気配を感じて少し心配だったの」


「そうだったのか。けど、三人とも無事なら問題ないよな」


 俺がそう言うと、片山は無言で頷いた。


「なら、今日はとりあえず帰りましょう。みんなあんなことがあって疲れているでしょうから」


篠原は場をまとめるようにそう言うと、全員が頷いてそのまま家の方角へと歩き始める。


 俺は、片山が言っていた違和感を少し気にしながらも、今は元の世界に戻ってきたことだけを意識して見ないようにした。


例えそれがその場しのぎに過ぎないと分かっていても、戻ることの出来た日常をすぐに捨てるようなことは、俺には出来なかった。



                          終わり


 どうもドルジです。

 今回の更新でこの小説は完結となります。以前からこの小説の舞台となっていた世界そのものは消えないけれども、主人公たちは何とか生存するという結末にしようと思っていました。

 今になって思うと、この連載を書き始めて二年以上が経過しています。最初にこれを書こうと思った時は、一人称だったので、現在まで可能な限りこの形式を崩さずに書くのはなかなか大変でした。

 それでも、何とか完結することが出来たことは幸いだと思います。

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