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第三十四話  闇の釜 Kettle of darkness

健二視点


 地下道への扉を開く。そこにはかつて俺たちが通った時とはまるで異なる異業の空間が広がっていた。


「何だよ、これ?」


 健二は唖然としながら口を開く。扉の向うには黒一色の闇へと続いているかのような階段が続いていた。


「先に進むしかないな」


 朝斗は冷静にそう言うと、そのまま階段を下って行く。俺たちも後を追うように階段を下った。


「この階段、どこまで続いているのかしら?」


 朝倉さんは俺たちが別館に向かうために通った時とは異なる地下道の異常な状態に戸惑うように口を開く。


 実際に地下へと続く階段は、俺たちが別館に向かうときに通った時とは大きく異なり、ずっと深くまで続いていた。


「この先か……」


 俺がそんな風に考えていると、ポケットにしまっていた黒い日記帳が熱を帯びるように熱くなり始める。


「日記が変だな……」


 俺は困惑しながらも黒い日記帳の中を確認すると、先ほどまでは白紙だったはずの日記には血で書かれたとしか思えない赤い血で書かれた文章が浮き出ていた。


「何だよ、これ?」


 偶然俺の取り出した日記帳を見た小鳥遊さんは唖然とした様子で口を開く。


 日記に浮き出ていた文字には整合性は無く、ただ生きている人間への呪詛の言葉のみが延々と書き連ねられていた。


【死ね。生きていても不幸になるだけだ。人間は自分のためになら他人を裏切る。生きる価値なんかない。憎い。どうせ最後には誰もが自分のために仲間を売る。死んで楽になってしまえば良い】


 日記に書き連ねていた呪詛の言葉は、かつての黒騎士とも根本的に違う精神を汚染するおぞましい何かかが込められていることが直感的に感じられるものであった。


「これは……いくらなんでもひどすぎます」


 小鳥遊さんの狼狽するような声に気付いて日記帳を覗いた篠原も唖然とした様子で口を開く。その姿を見ていたほかの全員も日記帳を見た。


「これがあの男の生きている人間への恨みの強さなのか」


 桐生さんは目を疑うようにそうつぶやく。その姿には今まで見せなかった恐怖に打ち震える心情が俺には見て取れた。


 他の全員も例外ではなく、呪詛の言葉が書きなぐられた日記帳を見た全員が、震えるように体を震わせる。


「もう。私たちこのまま死んじゃうのでしょうか?」


 篠原はついに限界が訪れたかのようにそう言った。その様子はもはやすべてを諦めきったようにも俺には見える。


「こんな風にただ生きていることを否定されてまで私はもう嫌です。いっそのことこの世界で死んでしまえば……」


 篠原の絶望感に苛まれたかのような発言を聞いた俺は、何かが違うと心の中で思った。


「いいや違う。人間は確かに他人を裏切るかもしれない。けれど、だから死ねばみんなが楽になるなって言うのはただの現実逃避だ」


 俺はかみしめるように言葉を続ける。篠原は怒りに駆られたような表情で俺を睨みながら口を開いた。


「どうしてですか? こんな何故高本君はそこまで生きる希望を持とうとすることが出来るんですか!?」


 篠原の問いかけを受けた俺は、少し答えに困りながらも自分に思いつく範囲の言葉を何とか口にする。


「俺だって正直人が他人を裏切るかどうかなんてことを否定はしきれない。でもあの男がこうやって書きなぐっているのはただ生きている人間への嫉妬と、逆恨みを晴らすための八つ当たりにしか俺には思えない」


 俺の言葉を受けた篠原は、驚いたよう目を見開いた。


「やっぱり、最初に私たちが来た本館にあった本に書いていたように黒い表紙の本は危険だったみたいだね。情報も何かしら得られるかもしれないけれど」


 俺と篠原のやり取りを見ていた片山は、目を細めたままそうつぶやく。


「まさか、ボードゲームで見かける正気度チェックに近いものかしら?」


 朝倉さんがそう尋ねると、片山は嬉々とした口調で答えた。


「大体あってます。この本を読んだ人は、恐怖のような負の感情によって精神を蝕まれる可能性があるかもしれないということですよ」


 階段を下りながら片山は話を続ける。俺は、怖気が背中に走るのを感じながら日記を見つめてた。


「でも、この本はひょっとするとヒントになるような言葉が浮き出てくることもあるかもしれないから取っておいてもいいかもしれないです」


 階段の奥が見えてきたところで片山が俺を見ながら口を開いた。


「その日記に変化が有ったら私にまず教えてね。多分何か重要なことが出てきている筈だから」


 片山の申し出を断ることが出来なかった俺はそのまま首を縦に振って頷く。


「真紀ちゃん。この本を読んだ影響で弱気になっているのは分かるけど、私はここで死んでもいいなんて信じないよ。絶対にここから生きて帰る」


 片山の言葉には、普段の気弱な態度とは異なる確固とした主張が込めていた。


「正直まだ怖いですけれど、春子のためにも何とか恐怖を振り切ってみせます」


 篠原は手を震わせながらも決意を固めるように片山の手を握りながらそう言った。



「随分深く進んだけど、やっと先が見えてきたな」


 俺たちがさらにしばらく進むと先ほど別館に向かうときに【闇】の波にのまれかけた下水道に似たような場所に出る


「俺たちが通った時よりずっとでかいな」


 朝斗の言うように、その下水道は俺たちが通ったはずの下水道よりもはるかに広い物へと変貌していた。


「あと少しだな。あの野郎やっぱりさっきの傷で受けたダメージがでかいみたいだな」


 妖刀は愉快そうに笑う。俺は内心不快に思いながらも先にある闇の釜へと足を進めた。


                           続く



 こんばんわ。ドルジです

 来月はあまり更新出来ないかもしれません。

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