第三十三話 地下室へ
健二視点
食事を終えた俺たちは、全員が周りにある使えそうなものを探していると、一冊の黒い本を見つけた。
「何だこれ?」
俺が本を手に取ろうとすると朝斗が俺に話しかけてくる。
「どうしたんだ? そろそろ出発するぞ」
朝斗に声を掛けられた俺は、黒い本を手に取ったまま口を開いた。
「いや。この本……がなんとなく気になってさ」
俺の言葉を受けた朝斗が口を開く。
「そうか。だったらその本も地下に向かう道中に読んでみよう」
朝斗はそういいながら荷物を背負った。俺もここで用意した荷物を背負い全員が出発するのに合わせる。
「静かですね」
廊下に出ると、篠原が呟いたように別館の廊下を静寂が覆っていた。
「それに、何だか廊下が短くなっているような……それに廊下の途中に窓が―――――」
片山が篠原に同意するかのように変化していた廊下の様子を述べようとしていたその時、片山は窓を見て口元を手で覆った。
「窓に血の手形が……」
口元手で覆ったまま恐怖で震えた声で片山はそう言いながらその場に座り込んでしまう。全員が廊下の窓を見ると、窓は血のとしか思えないような赤い手形で覆われていた。
俺が片山に駆け寄ろうとすると、一番近くにあった窓の手形が全て消えたと思うと、血で書かれたような文字が浮かび上がる。
【地下室で待っている。お前たちには人間の本性を教えてやる】
俺は不愉快な感覚を抑えながら片山に駆け寄った。
「片山大丈夫か?」
俺はどんな言葉を掛けたらいいのかも分からずに、見るからに大丈夫には見えない同級生に対して「大丈夫か」と聞いてしまう。
(見るからに大丈夫じゃないような奴に何聞いているんだよ!? こんなんのじゃ大丈夫って言わせてるようなもんじゃねえかよ)
俺が自分の心の中で悔やんでいると、片山が俺に対して声を掛けてきた。
「私は大丈夫だよ。それにこの廊下の変化や、唐突に表れたメッセージを考えたら、向こうは案外焦ってるみたいだし……」
立ち上がった片山の言葉を受けた俺は、何を言っているのかが分からずに頭をかしげていると、貴志さんが口を開く。
「これは推測だけど、多分あの館の主は健二君たちが存在していること自体が気に入らないと思っていて、その苛立ちが現れているんじゃないかな?」
再度俺たちが歩き始める中で補足するかのように妖刀が口を開いた。
「本来ならお前らの呪いを考えればほっとけば死ぬところだが、アイツからしたらお前らはあいつ自身の手でどうにかして消したいんだろうな」
先程までと比べると珍しく憎まれ口が少ない妖刀はそのまま続ける。その様子は何処か消耗でもしているようであった。
「今のアイツは乱れている霊力を回復させるために奥に引きこもらないといけない状態だ。今以外にはあの野郎をどうにかするチャンスはねえな」
妖刀はそう言うと、そのまま黙りこんだ。話をしながら進んでいると、いつの間にか別館の階段まで到着した。
「こいつもう黙るのかよ!?」
少し意外そうに小鳥遊さんがそういうと、貴志さんが答える。
「館の主と対峙した時に霊力を大きく消費したからね。ギリギリまで休ませて霊力を回復させているんだ。」
貴志さんは腰に収めている妖刀を撫でながらそう言った。
「……もうここに来てからはずっと非科学的なことばかりだな。そういえば健二の見つけた本には何が書いていたんだ?」
俺たちが別館の階段を下り終えると、朝斗が先ほど俺が拾った本について尋ねる。
「そういえばまだ見てなかった。ここで見てみるか?」
俺がそう尋ねると、他の全員が俺の持っている本の方に集中した。
「高本くん。開けてみてくれるかな?」
朝倉さんに促された俺はそのまま本を開いてみる。
「おいおい。何も書いてないじゃねえかよ!?」
最初の数ページを見ても、古ぼけた何も書かれていない紙だけで文字が掛れていなかった。
「あの部屋にある黒い表紙の本だから怪しいと思ったんだけど、外れだったかな?」
俺は少し残念ではあったが、そのまま本をポケットにしまう。
この別館に入るための地下道への扉へと延びている廊下を通りながら地下道への入り口である扉まで到着した。
「着いたのか。扉を開けよう」
桐生さんはそういいながら、地下道への扉を開いた。
続く
こんばんわドルジです。
今回は重要な局面へのつなぐための話となります。