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第三十二話  僅かな休息 Slight rest

健二視点


 貴志さんが冷静にそう言ったその時、意識を失っていた仲間の一人が目を覚ました。


「さっきの男はもういないのか?」


 最初に意識を取り戻した桐生さんが俺に話しかけてくる。俺が答えようとすると、他の全員も意識を取り戻したらしく起き上がった。


「さっきの奴。命乞いとか言ってたと思ったら急に苦しみだしやがったけど、何が起きたんだよ、一体?」


 小鳥遊さんがふとそう言うと、他の全員も次々と口を開く。


「私にも命乞いしろって言ってきました」


 恐怖が抜けきれていない篠原は、肩を震わせながらそう言った。


「……まるで保身に走らせたいような感じだったな」


 朝斗は冷静にそうつぶやく。


「多分毛利君の言うとおりね」


 朝倉さんは少し落ち着いた様子でふと時計を見るように左手を構えた。すると目を見張りながら口を開く。


「何よこれ……?」


 震え上がった声を聞いた全員が、朝倉さんが眺めている左手に注目した。


 朝倉さんの左手には、痛々しい真っ黒な手の跡が存在した。


「これ、手形じゃねえかよ!?」


 目の前の光景に驚愕した俺は咄嗟に大きな声を出してしまった。


「まさかこれ、さっきの影響じゃないですか?」


 篠原が顔を青くしながら自らの推測を述べる。咄嗟に俺はその中で可能な限り普段は使わない頭を働かせていた。


(強い力で無理やり握ったような痕。やっぱり桐生さんの右腕についている呪いみたいな感じか!? いやまてよ俺は見た感じそんなのないし……)


 俺を含めた大半があたふたしていると、貴志さんが俺に話しかけてくる。


「落ち着くんだ。一人で考え込んでも答えは出ない」


 俺にそう声をかけた隆さんは、全員へと再度声をかけた。


「この状況は下手に一人で考え込むよりもみんなの知恵を集めるべきだろう。そうすれば今の状況と次に何をすべきかが分かるはずだ」


 隆さんの言葉を受けた俺たちは、お互いの顔をみ合いながらしばらく黙り込んだと思うと、片山が口を開く。


「取り敢えず、朝倉さんの右手についているような呪いがある人を他に確認しておこう。ちなみに私は大丈夫だよ真紀ちゃんに確認してもらったから」


 片山が「呪いを受けたのは誰か確認しよう」と提案すると、

4人の人物が前に出てきた。


「悪い。何か俺は首に手の跡がある」


 小鳥遊さんは気まずそうにそう言うと、首元が見えるように顎を上げる


「私の左手はもう分かってるよね?」


 朝倉さんは左手の黒い手の跡が見えるように前に掲げた。


「……二人よりは少し薄いけど俺もだな」


 朝斗は、そう言いながら右手の制服の袖をめくり上げる。そこには二人よりは少し薄い黒みがかった手形が存在した。


「僕の状態が一番悪いみたいだね。元々呪いがかかってたのもあったし」


 桐生さんはそう言いながら右手の元々呪いに犯されていた部分を出す。


 右手は以前よりも一層黒い部分が濃くなったことに加え、呪いに汚染されているであろう黒い部分が右肩近くまで登っていた。


「多分僕のこれはもうあまり長くは持たないと思う」


 自虐的に桐生さんはそう言うと、朝倉さんは泣きそうな顔を浮かべながら桐生さんの顔を伺う。


「おい妖刀。これ何とかできないのかよ?」


 俺はふと妖刀に尋ねると、妖刀はめんどくさそうに口を開いた。


「おいおい。ここの呪いが簡単に解けるわけがねえだろう。しかも俺からすればお前が呪いにかかっていない事の方が不思議だぜ」


「方法は、やっぱりあの館の主とやらを何とかするしかねえな」


 妖刀の言葉を受けた俺は、息を飲む。


「やっぱりアイツにもう一度さっきの剣を刺すしかないのか……それにもう時間も残ってないな」


「みんな。多分アイツはここに来る途中に見かけた地下室にいると思う。俺は全員でこの地獄から脱出したい。力を貸してほしい」


 俺がそう言うと、全員が真剣な面持ちで頷いた。



「取りあえずは、今までと方針自体は変わらないってことだよね。はっきりわかんだね」


 しばらくしてから、片山がふと周りを和ませようとでもするかのように口を開いた。一瞬空気が凍結したかと思った次の瞬間には篠原が慌てて片山の口を塞ぐ。


 その速度は明らかに手馴れてなければ無理な速度であった。


「馬鹿春子。こんな時に限って何てこと口走っているんですか! まずいですよ! そのネタ」


 篠原がある意味ここに来て一番慌てながらそう言うと、片山は大層嬉しそうに口を開く。


「真紀ちゃんも私のネタに乗ってくれてるし気にしなくていいんだよ」


「片山さん? そもそもそういう問題じゃないと思うのだけれど……?」


 朝倉さんが少し声を低めにそう言うと、片山さんは顔を青くしながら口を開いた。


「ごめんなさい調子に乗りました。現実に戻ったら何でもおごりますからぁ!」


「ん? 今何でも奢るって言ったわよね? だったら……」


 女子がそんな風に会話を続けているのを見ていると、朝斗が俺に話しかけてくる。


「この後は、最後の食事をここで食べた後に、そのままさっきの話し合い通り地下室に向かおう」


「ああ。そうだな」


 俺と朝斗が話していると、女子たちは少し落ち着いたのか、別館の一階で用意していた食事を広げ始めていた。


                           続く


 こんばんわ。ドルジです。

 今回は、少し遅めの更新になってしまいました。次あたりから一気に地下道まで戻ると思います。そこで何が起きるかはお楽しみということになります。

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