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第三十一話  答え Answer

健二視点


「さあ。お前も命乞いしてみろ!」


 館の主が愉快げにそう口にした時には俺の答えは決まっていた。


(コイツは俺が朝斗達を見捨てる所が見たいんだ。第一俺がこいつの言うことを聞いてもそれで開放するようには思えない)


 一瞬頭の中で自らが言うべき言葉をまとめた俺は、相手への返答を行った。


「……断る。俺は仲間を見捨てることはできないし、第一お前が約束を守るようには思えない」


 館の主は、一瞬目を見開くと、自らを落ち着かせるように俺に話しかけてきた。


「本気で言っているのかい? 一応私は嘘をつかないつもりなのだがね?」


 俺は体に重くのしかかっている重圧を無視して口を開いた。


「ああ。お前の力を借りるまでもなくみんなでこんな血塗られた世界から脱出するんだ!」


 俺がそう言うと、屋敷の主から感じていたドス黒い重圧が膨れ上がる。


「綺麗事を抜かすな。貴様らのような欲に溺れた人間どもは私に飲み込まれればいいのだ」 


 館の主そう言った次の瞬間、この良く分からない空間を作っているであろうドス黒い影がより濃くなろうとする。


「っくそ!イチかバチかどうにでもなりやがれぇ!」


 俺は咄嗟に足元に転がっていた女性からもらっていた剣を取り出し地面に突き立てる。


 俺が剣を地面に突き立てると、館の主は苦しげに顔をしかめる。


「貴様!? その剣を何処で……!?」


 館の主は胸元を抑えながらそう喋った。


 辺りを見ると。俺と館の主を覆っていた影は徐々に薄れていくのが分かった。


「おのれ……まだだ。せめて貴様だけでも――」


 館の主が俺に手を伸ばそうとした次の瞬間、黒い腕が刀のようなもので切り落とされた。


「っけ。間に合ったようだな」


 柄の悪そうな声が響いたと思うと、俺の周辺の影が完全に壊れ、そこには赤い甲冑を纏い妖刀を手に持った貴志さんが佇んでいた。


「よかった。どうやら間に合ったようだね」


 鎧のようなものを纏った貴志さんは刀を館の主の方に向けながら口を開く。


「影だけで僕を飲めると思っていたことと、健二くんに関心を持ちすぎたことが失態だったな。」


「おのれ……貴様、霊力で編んだ鎧で身を守ったか」


 館の主は忌々しい様子で口を開く。


「ええ。貴方が彼に関心を強めていたおかげで他の全員へのダメージは少なく済みましたしね」


 貴志さんの言葉を受けて後ろを振り向くと、皆が倒れていた。


「コイツらは意識は失っているが全員生きているぜ。お前よりも精神に受けた侵食は格段に軽度だしな」


「何よりお前がこいつの本体に直結している影にさっきお前がもらった剣とやらを刺したせいかしらないが、思ってたよりも妖力が弱まってやがる」


 貴志さんの持っている妖刀がゲラゲラ笑いながら口を開く。口調こそ少し馬鹿にしているようだったが、【全員が無事であるということ】と【さっきの女性にもらった剣を影に刺した影響が大きい】という事は分かった。


「余計なことをしてくれたな……覚えていろ。次は殺す」


 今までよりも体を覆う黒い影が薄まった館の主は俺の方を睨みながら一言だけつぶやき影に飲み込まれるように消えていった。



「おいおい坊主。とっさの行動とは言え対したもんじゃねえか」


 妖刀が愉快げに口を開くと、鎧を解除した貴志さんが俺に声を掛けてきた。


「本当に驚いたよ。あの影に覆われたら僕もあまり長くは持たないから、正直このままダメかと思ったんだけど健二くんが咄嗟に影にさっきの女性からもらった剣を突き立ててくれたおかげで影を切り払えるようになったんだから」


 貴志さんは、少し顔を青くしながらそう言った。


「あの女に貰った剣は、間違いなくあの男の生前の持ち物にあの女自身の霊力を数百年単位で込め続けて作った代物だ。それぐらいあの館の主とやらと縁が強いものじゃないとあそこまで効果は無かっただろうからな」


 妖刀が自分に言い聞かせるようにそう言っていた。俺は何を言っているのかイマイチ分からずに貴志さんに先ほどの剣の効果を尋ねた。


「貴志さん。さっきの剣は一体どういう効果が?」


 俺の問を受けた貴志さんは少し考え込むように黙り込むと、僅かに間を置いて口を開いた。


「ああ。あの剣は簡単に言えば、あの領主が数百年かけてこの世界で貯め続けた怨念とは正反対のおそらくあの女性の館の主への思いが宿っていたんだろ思う」


「もっと噛み付いて言うなら思いやりや慈しみのような相手を思いやるような感情を込められ続けて出来た擬似的な妖刀に近いものだよ」


 特定の対象への思いによって力を発揮する武器と言われると不思議と俺は納得できた。


(つまり、あの女性のあの男への思いやりが強いほどあの黒い影を弱められるってことだな)


「最も、幾千もの呪いを束ねたあの男の怨念を完全に払うにはあの女性ひとりの念では足りないと言うことだけどね……そこをなんとかしないといけないかな」


 貴志さんが冷静にそう言ったその時、意識を失っていた仲間の一人が目を覚ました。


                          続く



 おはようございますドルジです。

 今回は前回主人公が館の主に問いかけられた問いへの答えと、この世界を抜け出すための重要な要素への導入で終わります。

 前回も含めて書いていて思ったことは、読者が同じ状況になった時に、自分を有せうするか、他人を優先するかです。僕は他人を優先することはかなり勇気のいることであると考えていますが、それと同時に他の誰かを救うことも出来たらそれはそれでいいことではないかなと思います。

 ただ、現実ではそのようなことは難しいとも考えています。この答えだけが正解ではあるとは、書いた立場でありますが言い切れません。

 長々と失礼しました。

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