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第二十九話 暴君 Tyrant

健二視点


 朝斗の言葉を受けた俺たちは、そのまま白い扉の中へと進む事となった。


「この先に何があるか分からないけど、行くしかないよな」


 俺が朝斗の提案にそう返すと、周りの全員も同意するように頷く。


「それなら先に進もうぜ。もうあまり時間が無いはずだからな」


俺が後ろを警戒していると、小鳥遊さんが白い扉を開きながらそう言った。


「悪い小鳥遊。気を遣わせたな」


「気にすんなって。俺は、お前と俺の立場が逆なら同じことをすると思ってやっているだけだからな」


 桐生さんと小鳥遊さんはそんな風に会話をしながら白い扉の向こう側に進んでいった。


 そんな様子を見ていた片山は、小さなメモ帳らしきものに何かを凄まじい速度で書き連ねながら先に進んでいった。


「今の春子は放っておいて大丈夫ですから、先に進みましょう」


 篠原は苦笑いしながらそう言うと、そのまま奥へと進んでいった。


 そして、全員が白い扉の奥へと進んだのを確認した俺も白い扉を開いて中に入った。



 扉の向こうに存在した部屋の中は、東館の礼拝堂で見られたような白を基調とした澄み切った空間だった。


「あら。こんな所にあの人以外が来るなんて思わなかったわ」


 俺たちが今までの赤黒い空間とのズレを感じていると、部屋の奥から穏やかな女性の声が響く。


「誰だ!」


 俺が慌てて前に出ると、先ほどの女性が部屋の奥からこちらに歩み寄る


「私は貴方がたに危害を加えるつもりはありませんよ」


 奥から現れた女性は、柔和な笑みを浮かばせる。女性の顔を見た俺は、直ぐに目の前の人物が誰であるかが分かった。


「まさか……」


「はい。私がこの屋敷の主の妻だった人間の霊です」


 女性は先ほどの柔和な笑みを崩して口を開く。


「夫は最早人間霊の範囲を超えた暴君となってしまいました。今は、この霊界との狭間の怨念の溜まり場で力を蓄えているだけで、いずれは現世に干渉する可能性もあります」


 悲壮感が込められた顔で女性はそう呟いた。


「現世に干渉する可能性が有るというのは一体?」


 岡山さんが女性にそう訪ねようとしやその時、今まで珍しく発言を控えていた妖刀が話し始める。


「おいおい。動機に限れば簡単に想像できるだろうが。要するにこの空間の主は世界が憎んだろうよ」


 妖刀は面白おかしいとでも言いたいように続ける。


「まあ、世界を呪って全てを本当に飲み込もう何てする奴は初めて見たけどな。ともかく、もうソイツには話は通じねえってことだよ」


 妖刀はそれだけ言うと、言いたいことは全て言ったのか分からないが、それ以上はしゃべろうとしなかった。


「……その妖刀、正確には付喪神でしょうか? とにかく彼の言うとおりです。」


「私の夫は、最初こそ私をこの部屋に隔離することで、私が怨霊にならないようにしたりしてくれていましたが、今では私のことも分からない上に、息子を怨霊化させて利用するようにまでなってしまいました」


 女性は、悲壮感を込めた声でそう言った。


「息子……」


 片山がそう呟いたのを聞いた女性が口を開いた。


「貴方たちはもう合っている筈ですが……もうあの子も消えてしまったのね……」


 女性の言葉を受けた片山が明らかに落ち込んでいると、女性が片山に口を開いた。


「落ち込まないでください。怨霊化したあの子はもう戻れないところまで来ていました。むしろ消えた方が、怨霊となったあの子は苦しまなくて済むのですから……」


 女性の言葉を受けた片山は、一瞬顔を緩めたが直ぐに元のこわばった顔に戻ってしまった。


「……この世界に囚われた貴方たちや怨霊を救うことになることで、貴方達にお願いしたい事があります。」


 女性は仕切り直すようにそう言った。俺たちが彼女に注目したことを確認すると、女性は壁に立てかけられていた細身な剣を取り出して口を開く。


「この剣であの人を貫いてください。私の力を込めたこの剣であの人を貫けば、一時的に力を削ぐことができます。」


「その間にあなたたちが現世に戻りさえすれば、あなたたちが現世に戻ろうとする力の流れに合わせてこの世界の呪いが本来変えるべき霊界へと戻る事となります。出来ますか?」


 女性は剣を渡せるように両手で掲げながらそう言った。そして俺は迷うことな口を開く。


「ああ。この剣を突き刺せばいいんだな? 俺たちにはもう時間がないし、今こうすることが一番可能性が大きいならやるさ」


 俺の答えを聞いた女性は俺に剣を渡すと、思いつめるようにこわばらせていた顔をわずかに緩めて口を開いた。


「あなたたちだけが頼りです。よろしくお願いしますね」


                           続く


 お久しぶりですドルジです。

 今回は更新が遅くなってしまい、我ながら少し残念に思います。

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