表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/59

第二十八話 無慈悲 Ruthless

健二視点


 俺が目の前に立っている怨霊に懇願するように叫んだ次の瞬間、片山に何かをしようとした怨霊の少年の腕から赤黒い何かが飛び出した。


「何これ?」


 怨霊の少年は、唖然とした様子で自らの腕を眺めていると、赤黒い闇が怨霊の腕を侵食していく。


「やめて、どうして僕だけがこんな風になるの?」


 少年の姿をした怨霊は、その場にうずくまり、徐々に侵食されていく腕を眺めながら呟いた。


「それは、君がいっぱいいろんな人を苦しめてきたからだよ。自分だけが苦しいと思って他の人を殺したりして楽しんできたんだから、それだけの対価は払わないといけないんだよ」


 蹲っている怨霊を見下す形になっている片山が、今まで俺が聞いたことのないほど冷めた口調で言い放った。


「何でだよ……僕はお母様を苦しめようとした連中やヘラへラと幸せそうにしている奴らに僕の気持ちを教えてやっただけなのに」


「それはエゴだよ。他人を苦しめたり引きずり下ろしてまで自分だけ楽になりたいなんて間違ってるよ。だから、そうやって魂が潰れそうになっているのでしょう?」


 片山は、淡々と右半身が黒く侵食された少年に言い放った。


「ふざけるな……僕は悪くない、悪くないんだ!」


 左半身も侵食され始めている少年の姿をした怨霊は、悪鬼の如き形相で片山に掴みかかろうとした。


「てめぇ何してやがる!」


 頭に血が昇った俺は、さっき怨霊を殴ろうとして呪いに犯されたことを忘れて、少年の顔面を殴った。


 すると、さっき殴ろうとした時にはすり抜けた筈の拳は、少年の姿をした怨霊の顔面を捉え、そのまま部屋の壁まで殴り飛ばしていた。


「ガハッ!」


 少年の姿をした怨霊は、壁に激突した次の瞬間、体を侵食していた部分がガラスが割るかのように砕け散った。


「えっ? 何が起きてるんだよ!?」


 殴り飛ばした俺自身も状況が飲み込めずに唖然としていると、片山が血相を変えた様子で俺に駆け寄ってくる。


「片山くん何てことしてるの!? 右腕見せて」


 片山に言われるままに右腕を見てみると、俺の右腕を覆っていたはずの黒い呪いは消え去っていた。


「治ってる?」


 片山が俺の右腕を見て驚いていると、さっき少年の姿をした怨霊を殴り飛ばした壁の方から掠れるような声がした。


「助けて……誰でもいいから僕を助けてよ、お母様――」


 体がほとんど消えていた怨霊はこちらに手を伸ばすしながらそう言うと、そのまま跡形もなく消え去った。


「やっぱり消えちゃったか」


 片山は、少し寂しげな様子でそう呟いた。俺は、ふと頭によぎった疑問を片山に尋ねる。


「片山は、あの怨霊が消えるって分かっていたのか?」


 俺がそう言うと、片山は、複雑そうな様子で口を開いた。


「過程が少し違うけど、大体はそうだよ。此処に来てからの私の言動でわかったと思うけど、小さい頃から私は幽霊が見えるんだ」


 片山は、淡々と語り続ける。


「だから、あの怨霊がさっき出てきた女性の怨霊みたいに飲み込まれるんじゃないかなって思っていたんだ。日記を読んで確信したんだけれど、多分あの怨霊は、生きた人間を殺すことで自分を保っていたんだと思う」


「だから、最初は遊んでいたつもりだったのに、私たちをなかなか殺せなかったから、その負荷が呪いになって現れたんだよ。少なくとも、もう輪廻の輪には戻れなくなっている筈だよ。」


 片山は、口調こそ淡々としているが、何処か悲しげな様子でそう言った。


「お前、無理するなよ。見てるこっちが痛々しいぐらいだぞ」


 俺の言葉を受けた片山は、少し驚きながら口を開いた。


「ごめんね、急に変なこと言って。ただ、あの怨霊には隙を見せちゃいけないって思ったのに消えるのを見たら……っ!」


 片山はその場に蹲り泣き崩れた。俺が駆け寄ろうとすると、片山が泣きながら俺を制した。


「今は泣かせて。ごめんね」


 俺は、何も出来ない無力感を噛み締めながら、同い年の少女が泣き崩れているのを見続けていた。



 片山が泣き止むをのを待った俺たちは、怨霊の少年が言った言葉を思いだし、慌てて部屋に戻ると、そこには、無事な全員の姿と、途中で別行動を取っていた筈の岡山さんの姿があった。


「岡山さん。無事だったんですか?」


 俺が声をかけると、岡山さんは、笑みを浮かべながら口を開いた。


「ああ。桐生くんたちを襲おうとした怨霊は大体片付けたけれど、君たちの方は大丈夫だったかい? 僕がここに来た時には怨霊の気配が、僅かに二人が出てきた部屋からしていたんだけれど」


 岡山さんの言葉を受けた俺は、問いかけに答える形で口を開いた。


「はい。俺たちを襲おうとした怨霊は呪いに飲み込まれて消えました」


 俺の言葉を受けた岡山さんが複雑そうな顔をしながら考え込み始めた。すると、朝斗が口を開いた。


「恐らくは、この白い扉の先にある情報を除けば、後は地下道の途中にあったあの部屋に行かなければならないだろう。もう時間は無いはずだ。進もう」 


                           続く


 お久しぶりですドルジです。

 今回は11月ギリギリの投稿となってしまいました。次の更新は12月の中頃となると思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ