第二十六話 血の部屋 Room of blood
健二視点
少年の姿をした怨霊が消えた事を確認した俺たちは、別館の一階の部屋の探索を終え、二階へと進む階段に向かっていった。
「やっぱり一階には何も無いか」
朝斗は、階段の上を眺めながらそう呟いた。
「二階に何かあるのかな? 今ならさっきの怨霊の男の子も居ない筈だから、今の内に二階を探索したほうがいいと思うんだけれど、どうかな?」
片山は、考え込むように首をかしげながらそう言った。
(確かにその方が良いかもしれないな。一階には何も無かったことを考えれば、今が二階を探索する唯一のチャンスかもしれないな……)
他の全員も、二階を探索したほうがいいのではないかと考えているようではあるが、同時に踏み切れていない様子でもあった。
「俺も片山が言うように、二回を探索するべきだと思う」
そんな様子を見ていた俺は、自然と口を開いていた。周りは、少し驚きながら俺を見る。
「うん。確かに今ぐらいしか、僕らが別館の二階を探索できる機会は無いだろう。時間がないことを考えれば、もう行くしかないだろう」
桐生さんは、侵食されている右腕を眺めながらそう言った。時間が残されていない事は、確かに明確であった。
「なら、もう進むしかねえよな。高本の言う通り、ここで悩んでいるよりもさっさと行こうぜ」
小鳥遊さんは、そう言うと、そのまま二階への階段を登っていった。俺たちもそのまま、着いて行く形で二階へと進んでいった。
二階に上がってみると、外見は、一階とは片方しか廊下がないことを除けば同じ構造であった。しかし……
「廊下の奥の方に何かある……」
「何ですかこの気配……気持ち悪い」
片山と篠原は、廊下の奥の方から感じているであろう気配に不快感を覚えているようであった。俺にとっても、この奥には、生きた人間が近づくべきではない、物がいるということは分かった。
「確かに……これは酷いな」
朝斗も気配を感じているのか、廊下の奥を直視しようとしなかった。
「やっぱり、この先の部屋に向かわないといけないのよね」
朝倉さんは、この奥の気配を明確に感じている三人を心配するような様子でそう言った。そんな様子を見ていた俺は、自然と体が動いた。
「俺が前に出ます。みんなは、俺の後ろから付いてきてください」
俺の言葉を受けた他の全員は、少し悩んだ後に、小鳥遊さんが前に出てきて口を開いた。
「なら、俺も前に出る。高本同様、俺もこの奥にいるやつの影響が少ないはずだからな」
高梨さんが出した今回の提案を、俺は、否定できなかった。
(流石に俺ひとりじゃ無理があるか。それに、今回ばかり霊感が無くて助かったぜ)
方針が決まった俺たちが前に進むと、そこには扉もない廊下が永遠と続いていた。
「おいおい。ずっと廊下ばかりじゃねえか」
俺たちがさらに廊下を進んでいくと、そこには一つのどす黒い扉が存在した。
「ここだよな……やっぱり」
俺が恐る恐るドアノブに手をかけると、何も異常が起きることなく、扉は開いた。
「ここがこの屋敷の主の部屋ね」
片山は、強がるようにそう言うと、部屋を俺の後ろから覗き込んだ
「片山、強がってネタに走っている場合じゃないぞ。見た所、東館の部屋よりも広いな。恐らく、この別館が館の主とその家族の居住スペースなんだろう」
朝斗は、あくまでも冷静に徹しながらそう言った。それだけ言うと、そのまま俺を追い越して部屋の中に入る。そのまま俺たちも部屋へと入っていく
「随分広いのね」
朝倉さんは、部屋の中を眺めながらそう言った。実際に部屋の中は広く、中世から近世の間に存在した西洋の貴族が住まうための部屋であった。
「あの奥にある蓋の扉はなんだ?」
部屋の奥を見ると、そこには、部屋と同じぐらいどす黒い扉と、まるで東館に存在した礼拝堂のように真っ白だった。今まで赤黒い色を見続けてきた目には、それが何処か痛々しいまでに白く感じられた。
「何だろうあの扉……」
二つの扉の存在に気がついた片山が、扉を方を注視する。他の全員も、探索している手を止めて、扉を見続ける。
すると、黒い方の扉が突然開いた。
「おいおい。いきなり開いたぞあの扉」
小鳥遊さんが、驚いた様子でそう言った。俺を含めた、周りの全員も似たような様子であった。
「勝手に開いたなこの扉……」
俺から見ても、これは罠にしか見えなかった。篠原は、声を震わせながら片山にそう尋ねる。
「春子から見て、この扉の先はどんな感じですか?」
片山は、今まででも見たことがない顔つきで答える。
「はっきりとは言い切れないけれど、この部屋の異常な気配の原因は、この黒い扉の奥にあると思う。でもはっきり言ってかなり危険だと思う。でも……」
「ここで先に進まないと、元の世界には戻れないと思う。最低でも一人が、この扉の先にある物を確認しないといけないと思う」
片山の言葉は、今までにないほど重く響いた。
「分かった。なら、俺が行く」
俺は、当たり前のことのようにそう答えた。
「待って高本くん。この部屋の奥には私が行くから」
片山が慌てた様子で俺を止めようとする。
「いいや。よく分からないけど、ここは俺が行くべきだと思うんだ」
俺が、自分でもあまり言葉に出来ないながらも、自らの意思を伝えると、片山は、複雑そうに口を開く。
「そっか。じゃあ私も付いて行くよ。どっちにしても、霊感がある人間もいないといけなかったから……」
片山は、複雑そうま様子でそう言った。その様子を見た俺は、最初から片山は自分がこの扉の奥へと向かうつもりであった事が分かった。
「お前、無茶ばっかりしやがって。分かったよ、二人でこの扉の奥に向かおう」
俺はこの時、心の中でこの少女を守りきろうと覚悟を決めた。
続く
どうもドルジです。
今回で少しは物語が進ませることができました。10月、11月は更新ペースが少し落ちるかもしれませんが、よろしくお願いします。