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第二十四話 呪い Curse

健二視点


 黒い靄が桐生さんの腕を侵食しようとした次の瞬間、真っ黒な怨霊が、突然苦しみ始めた。


「ガガガガガ」


 おぞましい奇声を発しながらその場にうずくまると、先程まで桐生さんに襲いかかろうとしていた黒い靄が、怨霊を包み込んでいた。


「嫌だ。飲まれたくない……助けて奏ちゃん。助ケテ……」


 全身の所々を黒く汚染された怨霊は、必死の形相で、朝倉さんに手を伸ばそうとしていた。この光景を見ている俺から見ても、それはあまりに異常なものであり、まるで黒い靄が、怨霊を取り込もうとしているかのようであった。


怨霊の近くにいた、朝倉さんが怨霊に駆け寄ろうとするのを、桐生さんがすかさず止める。


「駄目だ、朝倉! もうこの怨霊は、助からない!!」


 桐生さんに引き止められた朝倉さんは、静止を受けて止まった。そしてそのまま黒い靄に飲み込まれ尽きそうになっている怨霊のことを悲しげに見ていた。


「タスけてカナちゃン……タスケ――」


 そして、怨霊は黒い靄に飲み込まれ尽くされ、屋敷の床へと沈んでいった。


「そんな……岸部さんが……私のせいで」


 朝倉さんがそう言うと、そのままこの部屋から走り去ろうとした。


「待て、朝倉。一人で行動しても死ぬだけだぞ」


 それを桐生さんが、【左手】で朝倉さんを引き止めた。


「でも。此処にいても安全じゃないかもしれないし……それだったら早くここから出なきゃ」


 明らかに朝倉さんは、錯乱しているようだった。小鳥遊さんも、二人に駆け寄り引きとめようとしている。


「待てよ。ここが安全じゃないかもしれないってのは、確かに正しいかもしれねえけど、だからって一人で行動するのが安全なわけじゃねえぞ!」


 小鳥遊さんの言葉を受けても、朝倉さんは納得できた様子ではなかった。その様子を見ていた俺には、どんな風に声をかけたらいいのかが分からなかったが、それでも何かを言わないといけないような気がした。


「僕は、朝倉に生きていて欲しいんだ。だから絶対にこの手を離したりはしない。僕がお前を守ってみせる!」


 桐生さんは、自らの決意を叫ぶようにそう言った。


「桐生くん、どうしてそこまで私を気にしてくれるの? 私が逸れた時も、私のことすごく心配してくれたって聞いたし、あの時も私が邪魔になってるのが悪かったのに……」


 朝倉さんは、自虐的にそう言うと、篠原が朝倉さんに近づいて口を開いた。


「桐生さんにとって朝倉さんが、とても大切な人だってことですよ。見ていて分かります」


 片山の言葉を受けた朝倉さんは、驚いたような様子で口を開く。


「桐生くん。それってひょっとして」


 朝倉さんの問いかけに対して、桐生さんは、すかさず制した。


「待った朝倉。頼むから、今は何も聞かないでくれ。ここを脱出したらちゃんと言うからさ」


桐生さんは、はぐらかす様にそう言った。それを見た篠原が、朝倉さんに小声で話しかける。


「朝倉さん、ここではぐらかされたままでいいんですか!?」


 篠原の問いかけに、だいぶ落ち着いた様子で、朝倉さんは答える。


「ええ。桐生くんには、ここをみんなで脱出した後に聞くようにするから大丈夫よ。意味はちょっと分からなかったけど、それでも、何だか少しだけど安心することが出来たから大丈夫よ」


 朝倉さんはそう言うと、近くにある椅子に座った。俺は、今まで何があった時に何も出来ていない自分に、歯がゆさを感じていた。



 それから十分ほど休んでいると、片山と朝斗が、桐生さんの方に近づいて話しかける。俺を含めた周りもその光景を注視していた。


「すみません。右手の方はどうなっているか見せてもらえますか?」


 朝斗がストレートにそう言うと、桐生さんは、少し顔を青くしながら口を開く。


「ああ。確かにこれは見せておかないといけないよな……」


 そう言うと、机で隠していた【真っ黒に染まった】右手を取り出した。


「嘘、これって……」


 片山が、口を手で覆いながらそう言うと、突然別の声がした。


「何だ。アレは勝手に屋敷に飲み込まれたのか」


 後ろを振り向くと、別館に入ってすぐに出てきた、怨霊の少年がこの部屋のキッチンに佇んでいた。


「ああ。今は逃げなくても大丈夫だよ。僕からは君たちを襲ったりしないから」


 怨霊の少年は、一見すれば人畜無害に見えるような笑みを浮かべながら、そう言った


「そこの背の高いお兄ちゃんと、腐てるお姉ちゃんが推測しているとおりだよ」


 怨霊の少年はさらっとそう言った。すると片山が立ち上がって少年に話しかける。


「それって、やっぱりさっきの怨霊はこの館の呪いに取り込まれたってことなの!? まさか、呪いが生きた人間にも映るってことなの!?」


 普段のおとなしい様子からは想像もできないような様子で、片山はそう言った。その様子は、明らかに怒りが混ざった物であった。


「おい、落ち着け片山」


 朝斗がそう言うと、片山は肩で息をしながら机に座った。


「腐ったお姉ちゃんはやっぱり変わってるな。そうだよ。僕が送った怨霊は、この世界に同調しすぎて飲み込まれたのさ。しかも、この世界の呪いは、生きた人間にも適応されるし、これを解く方法は、この世界から離れるしかないよ?」


 怨霊の少年は、楽しいことを話すかのように続ける。


「まあ、生きた人間でも五日後には呪いに飲み込まれきるかな? それまで精々仲間ごっこをしてたらいいよ」


 怨霊の少年はそれだけ言うと、そのまま姿を消した。


 怨霊の少年が立ち去ったことを確認した俺たちは、桐生さんの右手を再度凝視した。


「そんな……私を庇ったせいで」


 朝倉さんは、涙を流しながらそう言った。


「大丈夫だよ、これは朝倉が悪いわけじゃないからさ」


 桐生さんは微笑みながらそう言った。しかし、その様子は、何処か無理しているようにも見えた。


「でも、これでもう俺たちに残された時間はもう残り少ないってことは分かりました」


 朝斗は冷静にそう言った。他の全員も分かっているようであった。


「それなら、もう十分に休んだことも考えればもうそろそろ移動しよう」


 俺は何とか声を出して意見を言うことが出来た。


「そうだね。そろそろ行動を起こさないと、流石にいけないよね」


 片山がそう言うと、他の全員も頷いた。


「それじゃあ、最低限の食料を用意したら、別館の探索を本格的に始めるってことでいいか?」


 小鳥遊さんがまとめるようにそう言った。桐生さんが少し驚いた様子で、小鳥遊さんに声をかけた


「おい小鳥遊。流石にお前に指示するのを押し付けるのは流石に……」


「いやいや。お前は呪いを受けてるんだから、あまり無理するな」


 小鳥遊さんの言葉を受けた桐生さんは、納得したように頷いた。


 それから俺たちは、急いで最低限の食料を用意し始めた。


続く


 どうもドルジです。

 次からはやっと行動開始です。稚拙ながらも、続きを書いていきたいと思います。

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