第二十三話 侵食 Erosion
健二視点
赤井さんを看取った俺たちは、そのまま屋敷の奥へと進んでいった。すると、赤井さんが言ったとおりの手前から二つ目の扉は、別館特有の、血なまぐさい雰囲気が弱いように感じられた。
「ここが赤井さんの言っていた部屋だね」
片山はそう言うと、手前から二番目の部屋を指差した。
「赤井さんが言う通りなら、ここなら少しは休むことができるはずだな」
桐生さんは、周りに注意を配るように辺りを見渡すと、扉のドアノブに手をかけた。
「みんな。中に入ろう」
俺たちは、桐生さんの言葉に頷き、部屋の中へと入っていった。
中は、少し広めの食堂のような部屋だった。部屋の奥には、部屋の内装にはそぐわないキッチンと、食料を貯蓄するためのボックスが存在していた。
此処なら少しは休めそうだと判断した俺たちは、そのまま、奥へと進んだ。
「それにしても何でキッチンまで有るんでしょうか?」
篠原は、奥を覗き込みながらそう言った。確かに言われてみれば不自然に感じるが、今は休んで体力を休むほうが優先だ。
「とりあえずは、奥のキッチンの方に何があるのかを確認してみよう。今までみたいに、簡易的な食呂があるとは限らないからね」
桐生さんがそう言うと、奥のボックスを開いた。中を覗いて見ると、今までによく見かけた簡易的な食料は少なく、食材が多く入っていた。
「調理済みの食料は少ないな。こうなると、誰かが料理をしないといけないわけだが……」
朝斗はそう言うと、そのまま黙ってしまった。
「私と桐生くんは問題ないけど他に料理出来る人いるかな?」
朝倉さんは、少し聞きづらそうにそう訪ねた。すると、それぞれが答えていった。
「悪い。俺はスーパーの弁当とかで済ませているから、ご飯炊くぐらいしか出来ねえ」
「私は、カレーとかならなんとか出来ますよ。でも、そんなに多いレパートリーはもってなくて」
俺は咄嗟に片山の発言にツッコミを入れた。
「おい待て。別にサンドイッチが作れるぐらいでそんなにレパートリーは必要ないだろ!?」
俺のツッコミを受けた片山は、一瞬固まった後、そのまましょぼくれ始めた。そんな片山を見た篠原は、俺を睨みながら口を開いた。
「ちょっと高本くん。何で春子をしょぼくれさせているんですか……」
俺は、慌てて篠原を止めた。
「おう。俺が悪かったからこの話は現実に戻ってからにしようぜ。なっ?」
俺の言葉を受けた篠原は、何処か納得いかない様子ではあるが、そのまま落ち着いた様子で口を開いた。
「確かに此処で口喧嘩をしても仕方がありませんね。後、あまり料理は出来ませんが、サンドイッチぐらいは何とか作れますよ」
篠原は、オカルト関連以外では普段あまり見せないような、何処か自慢気な様子でそう言った。
「おう。そうか、ちなみに俺は、全然料理出来ねえんだけど朝斗はどうだ?」
俺が話しを朝斗に降ると、ごく普通の事を聞かれたかのように答える。
「ああ。俺も家である程度は自炊をしているからな。サッドイッチぐらいなら俺も作れるぞ」
全員が特に意味があるのか分からないレパートリー発表合戦が終わったその時、扉をノックする音と同時に声がした。
「奏ちゃん。中に居るよね?」
その声を聞いた俺たちは、空気が一変した事を感じながらも部屋の入り口へと振り向いた。扉は赤を通り越して真っ黒に染まっていた。
「嘘、何で……」
朝倉さんはそう言うと、その場に蹲った。それを見た桐生さんが朝倉さんに駆け寄ると、そのまま扉の向こうにいる存在を睨みながら叫んだ。
「お前……何者だ! 何で朝倉のことを知っている!」
桐生さんの言葉を受けた扉の先に居る怨霊と思われる存在は、苛立たしい様子で答える。
「そんなくだらない問答なんてどうでもいいから、早く奏ちゃんを出しなさいよ。居るのは分かっているんだから」
怨霊の言葉を受けた俺たちは、そのまま固まって動けなくなってしまった。そんな中で、朝倉さんが立ち上がり、怨霊に声をかけ始める。
「岸部さんだよね? どうして此処に?」
朝倉さんの言葉を受けた岸部と呼ばれた怨霊は、嬉しそうな様子で答える。
「やっと出てきてくれた。あのね、地下道を通って奏ちゃんを追ってたんだけど、下で変なのが暴れてて通れないから、どうしようかって考えてたら、奥の建物から奏ちゃんの気配がしたから戻ってきたんだよ。あ、今そっちに行くからね」
そう言った岸部と呼ばれた怨霊は、何と扉を通り抜けて姿を現した。
その姿は、一言で言うなら真っ黒だった。全身が真っ黒な靄に覆われ、瞳も真っ黒に染まり、何処までが瞳孔なのかが分からない状態になっていた。
「さあ。奏ちゃん。一緒に行こう?」
その真っ黒な怨霊は、朝倉さんに手を差し出してきた。そこへ庇うかのように桐生さんが遮る。
「やらせない。お前に朝倉を連れてなんて行かせない。僕がお前を止める」
そんな桐生さんを見た真っ黒な怨霊は、不快げに顔を歪めながら口を開いた。
「邪魔するな。そうか、あんたがあの時言っていた奏ちゃんの友達なんだ。私の邪魔する奴らなんだ……」
そう言うと、手を前にかざして口を開いた。
「邪魔するならあんたも一緒に飲み込んでやる!!」
そう言った次の瞬間手からどす黒い靄が二人を飲み込もうとした。
「朝倉、逃げろ!」
桐生さんはすかさず、朝倉さんを小鳥遊さんの方に押して逃がそうとした。
「グアァァァ!!」
黒い靄は桐生さんの右腕を包むと徐々に他の部分へも広がっていこうとした。
続く
どうも、ドルジです。
今回は、間章では無く、今までの話の続きを書きました。至らない点もあると思いますが、よろしくお願いします。