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第二十一話 人食い部屋 Cannibal room

健二視点


「拠点になりそうな場所ですか?」


 桐生さんの言葉を受けた篠原は、そう答えた。


「そうだ。ひょっとすると、どこかにこの別館の間取りに関係した情報があるかもしれない。今の僕たちには別館に関する情報が全くないことを考えると、そうするしかないと僕は思うんだ」


 桐生さんがそう言うと、周りは納得したように頷いた。


「ただ、現状だとまずはその拠点そのものを見つけないといけない状況なんだ。今は一つ一つ部屋を確認していくしか方法がない。その間にさっきの怨霊や【闇】が追いついてくるかもしれないからね」


 桐生さんはそう付け加えると、進もうとさらに言いそのまま先に進んでいった。


「慎二。お前少し、冷静になれって。さっきから無理して俺らを引っ張ろうとしてるように見えるぞ」


 先に進もうとした桐生さんを小鳥遊さんが止める。


「大丈夫だよ。小鳥遊」


 桐生さんは、そう言うとそのまま進もうとした。


「いやいや。お前どう見ても無理してるだろ。まとめるのとかは俺だって出来るんだし、お前は少し頭冷やしてみろって」


 小鳥遊さんは、彼が思いつくであろう空気を悪くしない限界であろう言葉を桐生さんに言った。


「そうだな、今の僕は、少し焦りすぎていたかもしれないかな」


 意外にも、桐生さんは特に不快な様子を見せることもなくそう言った。その様子を見ていた片山がふと口を開く。


「前からずっと思っていたんだけど、二人ってひょっとして薔薇だったりするのかな?」


 片山の呟くような言葉が廊下に響き渡った次の瞬間、先に進んでいた桐生さんと、小鳥遊さん以外が固まった。


「片山。お前は何を言っている」


 朝斗の言葉を皮切りに俺以外の全員が口火を切る。


「ちょっと春子? こんな所で何言っているんですか!?」


「あなた腐っていたのね」


 女子二人の言葉を受けた片山は、顔を青くしつつ、俺の顔をすがるような様子で見つめてきた。


「高本くんは分かるよね?」


「悪い……俺にはそっちのネタは、よく分からねえ。ただ、俺はあんまり気にしないぜ」


 俺の言葉を受けた片山は、今にも泣き出しそうな顔をしながら話し始める。


「だって小鳥遊さん、会ってすぐの時も何気ないところでも桐生さんのことをいつも気にかけているし、今の様子だと、桐生さんも、そんなに嫌ってわけじゃなさそうだったし……」


 片山は言い訳がましくそう言った後、そのまま先に進んでいる二人を追いかけていった。その時、朝倉さんが何かを考え込むかのように、歩きながら話し始めた。


「そういえば、私が桐生くんたちとはぐれている間に、片山さんたちは、桐生くんたちと遭遇したよね……」


 片山さんは、考え込みながらさらに続ける。すると、片山が心配そうな様子で声をかけた。


「何か気になることがあるのですか?」


 片山に声をかけられた朝倉さんは、疑問に思っているであろうことを答える。先に進んでいた桐生さんと小鳥遊さんにも既に追いついていたのか、二人も話を聞いている


「実は私、二人とはぐれている間に生存者【だった】人を見つけたことがあるの」


 朝倉さんの言葉を受けた俺たちは、驚きながらも聴き続けた。


「その時の段階で、私たちがここに来てから、この世界で一週間ぐらいは経っているはずなのよ。それなのに、その生存者は、私とほとんど同じぐらいの年齢の女の子なんだけど、私に会った時に、【今まで一度も人と会えなかった】って言っていたのよ。その子と情報を交換したときに、この世界に来たのは私と同じぐらいだって言っていたのよね」


「でも、それだとどうして今まで一度も私に合わなかったのかが分からないのよね。もうその子は死んじゃってて、死体も見つけてしまっているんだけど」


 朝倉さんの言うことは、確かに異常な現象である。つまりその少女は、朝倉さんに遭遇するまでの一週間、最初の双子の幽霊を除けば、誰とも会うことなく過ごしたということになる。


「ちなみに朝倉、その女の子とはどこで会ったんだ?」


 桐生さんは、確認するかのように朝倉さんにそう聞いた。


「確か、怨霊に遭遇した後に何処か隠れられそうな部屋を探していて、三人で探索していた時に偶然見つけた鍵で開く部屋が有ったから、その鍵を使って入った部屋で会ったのよ」


 朝倉さんの言葉を聞いた桐生さんは、複雑そうな顔で答える。


「あの時の鍵か……そういえば、本館の一階で拾った鍵だったよね、アレ」


 そんな風に桐生さんが考え込んでいると、どこからともなく、一人の子供が現れた。


「それは、この屋敷の用意されているお父様の家畜小屋だよ」


 俺たちが声をした方向を振り向くと、そこには一際赤い光を帯びた男の子が立っている。


「あ。そんなに身構えなくても僕は何もしないよ。だって、僕が何もしなくても君たちは死ぬんだから」


 少年は、そう言うとさらに続ける。ふと顔を見ると、その姿は、東館のあの部屋で見た思念にいた、館の主の子供と同じ顔をしていた。


「そこのお姉ちゃんが気にしているのは、僕のお父様が、生きたこの屋敷に適した人間を捉えて、呪い殺すための一瞬の罠ってなんだよ」


 少年は、さも面白いことを言っているかのようにそう言った。


「話しに出ていたお姉ちゃんの方は、すごくここと適応したんだね。一週間ずっと自分の殻にこもり続けるなんて僕も驚きだよ」


「あの部屋にこの屋敷の呪いを構成するのに適したマイナスな感情の強い人が入ると、ほとんどの可能性で出てこられなくなってそのまま、この世界の一部になるんだ」


 少年は笑いながら続ける。


「でも、二人共呪いそのものにはならなかったみたいだね。最後に何かの拍子で部屋から出られたみたいだし、片方はただの怨霊になったみたいだけどね。怨霊に軽く呪われたせいで、食事が胃に通らなくなって餓死なんて今時する人間を見たのは始めてだったよ」


 その言葉を聞いた瞬間、咄嗟に俺はその少年に飛び掛かった。しかし、それは小鳥遊さんに後僅かのところで止められた。


「止めとけ。アイツ、俺でも何となくだけど、やばいって分かる奴だ」


 その言葉を聞いて、俺は冷静になることができた。そんな俺たちのやり取りを意に介していないかのように、少年は話し続ける。


「まあ。お姉ちゃんは、一応はあの【人食い部屋】から逃れることが出来たのは事実だけど、所詮は僅かな延命なんだよね。ちょうど良い怨霊が一体残っていたからそっちに向かわせたから、バイバイ」


 少年はそれだけ言うと、その場から去っていった。俺は、その光景を見ながら、とてつもない無力感に苛まれた。



続く



 どうも、ドルジです。

 今回は、新キャラが出てきました。詳細は、後日追加投稿したいと思います。


6月19日追加

用語説明

【人食い部屋】

 屋敷内に存在している危険度の高い部屋。

 この部屋には【屋敷の主】との強いつながりが存在し、この屋敷の呪いを強めるため素質のある人間を部屋に引き寄せた上で、精神を蝕むことによって殺害し、魂を取り込むようになっている。

 現在のところ、この部屋に入り込んで生き延びた人物は朝倉飲みのようであり、この部屋の存在もほとんど知られていない。

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