第十八話Bパート 本質 Essence
健二視点
騎士の思念らしき物を見せられた俺は、その場に座り込んでしまった。周りを見ると、他の全員が似たような反応をしている。そこへ俺たちに思念を見せた騎士が駆け寄って来る。
「大丈夫か、少年たちよ?」
俺は何とか大丈夫だと答えると、黒騎士は、安心したような様子で文字通り胸を撫で下ろした。
「済まない。少し気になることがあるんだが、いいか?」
明らかに驚いた様子で朝斗は、騎士に訊ねる。
「俺たちがさっき見た思念通りだと、この世界はおかしい。明らかに今俺たちがいる場所とは全くの別物じゃないと説明がつかない」
朝斗の言葉に続くように、片山が、体を恐怖に震わせながらも口を開く。
「私もそこで気になったのですけれど……あの怨念の塊は一体何ですか? あんなおぞましい怨念の固まり見たことがありません」
二人の言葉を受けた騎士は、これを待っていたかのように口を開く。
「そう、それこそ私が君たちに話したいこの世界の本質なのだ」
騎士はそれだけ言うと、被っていた兜を外した。兜の下の顔は、頬がややこけているけれども、明確かつ強い意思の宿ったものである兜を外した騎士は、今までよりも砕けた飄々とした態度で話を続ける。
「そう。この世界は本来、ありとあらゆる負の霊力や怨念がたまり渦巻き、迷い込んだ生者を飲み込み徐々に、しかし無限に巨大化していくだけの、文字通りの化物なのさ。元々は特定の意思や、明確な形なんて持ち合わせていないんだ」
騎士の言葉受けた俺を始めとしたほとんどが驚愕した。そんな中で、俺は、思念を見てからずっと疑問に思っていたことを騎士に訊ねる。
「ちょっと待ってくれよ。それじゃあ、今のこの屋敷何なんだよ!? 全く意味が分からないぜ」
俺の言葉を受けた騎士は、その疑問にも答える。
「そう。今のこの世界がある程度の形を保っているのも、この屋敷を形度っている【あの男】が原因だ。あの男が、この世界にたまり続ける怨念と同調して、その怨念と邪悪な霊力に明確な方向性と、ある程度の法則性を生み出したんだ」
俺たちはその言葉を聞いて驚愕した。この騎士の言葉が本当ならば、この屋敷の主は想像以上の、文字通り人間では太刀打ちできないほどの霊力の持ち主であるということである。
「すこし勘違いしているようだが、あの男の霊力の素養はずば抜けて高いわけじゃあないよ。ただその怨念がただ凄まじいだけだよ。それこそこの世の全てを呪うほどのモノさ。アイツを一度でも見れば分かる」
騎士は、まるで館の主を一度でも見たことがあるかのように答える。その点が気になったのか、篠原がその点を騎士に問いかける。
「あなたは館の主を見たことがあるのですか? まるで見てきたように語っていますけれども」
騎士は篠原の問いに対して答える。
「ああ。あれは、この世界にあの男が現れた時だ。あの男が現れると、今までのようにこの世界は、あの男を飲み込もうとしたが、あの男は、むしろ真逆にこの世界が意思を持たないことを見越して、この世界の怨念、引いてはこの世界そのものに対して明確な力の方向性と法則を与えた。その時に私もあの男を目にしたんだ。その時にあの男の全てが、私の頭の中に流れ込んできたのさ」
騎士はそう自虐的に答える。その後に一言付け加える。
「後、いくつか付け加えて起きたいことがある。第一に【この世界はあの男のモノとなって以来、それ以前のように形を多様に変化させることが、この屋敷の周辺に限ればなくなった。】これは探索する時においてはかなり重要なことだ。何せ、私の生前では遠くに行けば行くほど一度同じ場所を歩けばよほどのことがない限り同じ場所にたどり着くことはこんなんだからな。」
騎士の言葉受けた俺は、館の主とやらに襲われている事実に腹立ちながらも、館の主のおかげで、自分たちはここまで探索出来ている事実に驚愕した。
「第二に、これは私の推測に過ぎないが、この世界はおそらくあの男を成仏、または消滅させることで完全に消えることこそ無くとも、少なくとも現在の形は崩壊するだろう。その時こそが君たちが現世に戻る唯一の好機であると私は考えている。」
騎士のこの世界から帰れるかもしれないという発言に俺は驚きと喜びを隠すことができなかった。他のみんなも同じような様子である。喜びを抑えきれない俺は騎士に再度聞いた。
「本当なのか!? 俺たち、元の世界に変えることができるかもしれないのか!?」
俺の問いを受けた騎士は複雑そうに眉をひそめる。どうも只で帰ることが出来るわけではないらしい。
「確かに、あの男をどうにかすることができれば現世に戻ることができるかもしれない。だが、それをあの男が何もしないと思っているのか?ただ、その一点においても君たちは優れていると言えるだろう」
騎士の言う言葉の真意がうまくわからない俺はそのまま騎士の言葉を聴き続ける。
「君たちは、この世界の時間で言えば実に数日近く逃げ回っているはずだ。本来ならば並の人間でも半日もこの世界を探索すれば気が触れるか、怨霊に見つかって殺されるかのどちらかのはずなのにだ。もっとも、あの赤マントが君たちの味方になったことも大きそうだが、それでも、君たちが数日間も生き残っていることは、かなり大きい。同時に、あの男にとっては厄介なことでもある。」
俺が騎士の言葉に唖然としていると桐生さんが騎士に訪ねた。
「それはつまり、僕らが、屋敷の主にとっては厄介な存在ということですね? だからこそ、今みたいに怨霊の大軍を僕たちに押し寄せさせようとしている。違いますか?」
桐生さんの言葉を受けた騎士は少し驚いた様子で答える。
「驚いたな。今から話そうとしていることを先に言われるとは。これは恐れ入った」
騎士は飄々とした態度を崩すことなく答える。そしてさらにそこから続ける。
「そう。つまり、今の君たちは、あの男にとっては今までに現れたことのない最も目障りな存在というわけだよ。そら。早速奴らが来たようだ」
騎士の言葉を受けて、ふと自分たちが来た道を見ると、そこには、複数の怨霊がこの部屋の入り口に詰まっている光景があった。騎士は手に今まで持っていなかった剣と盾を持った状態で答える。
「思ったよりも早かったか。ここは私が抑える。私が来た方に進んで、そこから別館に行くんだ。今なら怨霊も少ないはずだ。そこであの男、屋敷の主にとってもっとも大切な存在を見つけ出せ」
騎士にそう言われた俺たちは、騎士がやってきた方の道へと進んでいった。
「振り返るな。この世界の呪いを終わらせて見せろ!」
続く
こんばんわ。ドルジです。
今回はこの世界の真実を描くことができました。これからも頑張って更新していきたいと思います。