第十七話Aパート 決戦 Decisive battle
赤井視点。
最後の一体から霊力を吸い尽くした私は他にはもう邪魔者がいないかどうかを確認するために周りの気配と霊力を改めて探知した。
「どうやら周りにはもう黒騎士以外は居ないようですね。なら後は……」
私はそこから先をあえて口に出さなかった。特に理由はなかったけれども、強いて言うならばただ口に出してはいけないような気がしたからだ。
(やはり少々彼らに影響を受けすぎたのでしょうかね……)
私は心の中で自虐的にそう呟いたあとに別館への扉に手をかけた。
「黒騎士デュラハン、これでケリを付ける」
別館に入るとかなり中は血のように赤黒い色をしていた。私はそのまま奥に進むとすぐ目の前に世界を漆黒に染め上げながら立っている黒騎士を見つけた。
「ようやく来たか赤マント。少々待ちくたびれたぞ」
黒騎士はくぐもった声でそれだけ言うとついさっきまでは持っていなかったはずの槍と剣をそれぞれ手に持っていた。
「黒騎士。お前との因縁もこれまでだ。沙織を殺した分も全て此処で贖ってもらうぞ」
私は少々荒めの口調でそれだけ言った後に両手にそれぞれ一本ずつ血刀を構えた。それを見た黒騎士は愉快そうな様子で口を開いた。
「ほお。いきなり斬りかかってはこないのか。これなら前よりもよく斬り結べそうだ」
黒騎士はそれだけ言った次の瞬間こちらにとびかかってきた。私はそのまま振り下ろされようとしている剣を力で受け止めるのではなく技で受け流した。黒騎士は一切慌てる様子も無く今度は槍をなぎ払ってきた。私はそのまま今度は上に飛び上がり両手に握っている血刀を刃の状態にして黒騎士に向けて投げつけた黒騎士は素早くなぎ払ったはずの槍を引き戻し回転させて刃を弾いた。弾かれた刃は黒騎士の後ろに飛んでいった。
「どうした赤マント。それで終わりか?」
黒騎士のその言葉を聞いた私は心の中で笑みを浮かべた。槍特有の引き戻しの隙を一切見せる事の無いこの漆黒の騎士との戦いに私自身もどこか楽しみを覚えているようだった。
「来い!」
私が叫んだ次の瞬間黒騎士の後ろにはじかれたはずの刃が黒騎士越しに私に向かって飛んできた。それに気付いた黒騎士は慌てて回避しようとしたが間に合わず両腕を切断された。私の所まで戻って来た刃は私を切り裂くことなく血刀に戻った。
「その様な奇襲ができたのか」
黒騎士は少し驚いた様子で腕を再生させながらそう言った。腕をまたたく間に再生させた黒騎士は再度剣と槍を構えた。
「今度は此方から行きますよ」
私はそれだけ言うと黒騎士との距離を詰めた。黒騎士はすかさず槍を使って連続で刺突を繰り出して来た。それを血刀で受け流し黒騎士に斬りかかった。一撃目こそは黒騎士の霧の盾と剣で受け止められたけれども、二擊目は黒騎士の脇腹を切り裂いた。
「動きがまるで違う……そうか、力で私を潰そうとするのではなく、速さと技で私を切り落とそうとしているのか……」
黒騎士の淡々としつつもどこか喜びがこもっているような言葉に私は淡々と少し長めに返した。
「いいえ。これが本来の戦い方ですよ。今まではいささか頭に血が登りすぎていただけですよ。あなたも先ほど言っていましたが刀というのは西洋の剣とは違って力で相手を叩き潰すのではなく速さと技で相手を斬ることが本来の使用方法ですから」
「そうか……東洋の刀とは随分と面妖なモノだ。ならばこちらもそれ相応の手品を見せてやろう」
黒騎士はそう呟くと距離を取った。私は距離を詰めようとしたその時私の直感が自分自身に警告した。
今不用意に近づけば防ぐことも出来ずに切り捨てられる。
「行くぞ赤マント。ここよりは命の削り合いだ……【霧剣】【霧槍】……!!」
次の瞬間黒騎士を覆っていた黒い霧が手にある剣と槍に集まっていった。黒い霧を纏った剣と槍は明らかに今までとは全く異なる異質な妖力を放出していた。
「行くぞ。今までの小技が通用するとは思うな」
黒騎士はそれだけ言うとこちらに距離を詰めてきた。先程も凄まじい早さだったが、それ以上の早さだった。
(なるほど、武器を覆っている霧を推力に変換しているのか……)
私は少し相手の能力を推測した後に黒騎士の攻撃を側面にステップすることで回避した。しかし黒騎士はそのまま再度両手の武器を素早く向けてきた。こちらも血刀で受け流そうとしたけれども、数回受け流し切り結ぶと血刀はへし折られた。
「止めだ」
私は黒騎士が心臓に向かって突き出してきた霧槍を後ろに交代することで何とか躱した。
(まさか血刀が数回切り結んだだけで破壊されるとは……ならば……)
私は後ろに下がりながら鞭を作り黒騎士に向けて振るった。黒騎士は素早く横に回避した。そこをすかさずもう片方の腕にも作った鞭を振るった。
「!?」
黒騎士は二擊目の鞭を予想していなかったのか慌てて後ろに飛び退いた。黒騎士が一瞬でこそあるけれども空中にいることを確認した私はすかさず、素早く両手に持っている鞭を引き戻し、両方の鞭を黒騎士に振り押した。双振りの鞭はまるで素早く得物に食らいつく蛇のように黒騎士を捉えた。しかし……
「まだだっ!」
黒騎士は自らの代わりに霧槍を鞭に絡ませた。鞭に仕込まれた刃によって霧槍は柄の部分が細切れになった。
「これで槍は封じたか」
黒騎士は右手に霧剣だけを持った状態で再度構えを取った。すると左手に先程まで霧槍を構成していた霧が集まり爪の形に変化した。
「驚いた。まさか鞭剣のような武器まで使えるとは思わなかったぞ。だが今の一撃で勝負を決められなかった貴様の負けだ……これから私はあの小僧どもを殺す」
続く
お久しぶりですドルジです。
今回は更新までしばらく時間が経ってしまいました。年末年始の数日間がまた予定が入っているため更新することができそうにありません。けれどもこれからも続きを書いていきたいと思います。