第二話 異界 Differ World
俺たちは洋館で出会った少年と少女の幽霊が発言に驚愕している俺たちをよそに少年と少女は話を続けた。
「「ここは誰が何のために作ったのかは一切分からないけど、気が付いたら怨霊や妖魔が住み着いた魔窟へと化していたんだ。僕たちもここに来てすぐは脱出しようとしたけど……駄目だったんだ……」」
幽霊の少年と少女は淡々と、しかしどこか悲しげな表情を浮かべながら話を続けた。俺を含めた話を聞いているみんなはどこか少年と少女に同情の念を抱いていた。
「「僕たちを助けようとしてくれた幽霊も居たけど結局僕たちは飢えに負けてこの屋敷で死んじゃったんだ……」」
抑えきれなくなったのか少年と少女は泣き始めた。ふと泣き続けている二人に片山が近づき、二人を抱きしめた。予想のつかない行動に俺を含めた周りはかなり驚いていた。
「お姉ちゃん?どうして僕たちみたいな幽霊を抱きしめてくれるの?」
少年の幽霊の方がどこかびっくりしたような顔をしながら片山に尋ねた。片山は幽霊の少年と少女を抱きしめたままつぶやいた。
「可哀想……可哀想すぎるよ……」
片山の目には涙が浮かんでいた。幽霊に同情したのかどうかは俺には正直よく分からなかったが、片山なりに二人の【この館の被害者】であろう少年と少女を思いやっているのだろう。
「お姉ちゃんは優しいね……今まで百年近く僕と兄さんはこの館にいたけどこんな風に僕たちのために泣いてくれるような人は居なかったよ……」
嬉しさからじゃ半分泣きそうな少女の幽霊の方は片山への感謝の気持ちであろう言葉をかけたあと真剣そうな表情に戻った後にこう続けた
「でも気を付けて……お姉ちゃんの優しさはこの屋敷で生き残るには少し危険すぎるの……悪霊や邪悪な妖魔に付け込まれやすいから……」
片山は少女の忠告を聞き、半泣き同然の目元を手でこすって涙をぬぐった後に幽霊の少女にお礼を言っていた。
「お姉ちゃんとお姉ちゃんのお友達にこれをあげるね……これを持っていたら万が一の時に一回だけ悪霊や邪悪な妖魔を払ってくれるから……」
少年の幽霊はどこからか銀色の十字架を取り出し、俺たち一人ずつに渡してくれた。
「ありがとう……大切にするね」
片山は少しうれしそうに十字架を受けとった後にふと先ほどから何かを考えていた篠原が前に出て少年の幽霊に声をかけた。
「さっきからいくつか聞きたいことがあるのですが、怨霊や妖魔というのは一体何なのでしょうか?それと私たち以外にも今生きている生存者はいるのかしら?」
篠原が聞いたことは俺も少し気になっていたことだった。俺も今一つ言葉を聞いてもイメージし辛いものでもあった。
「言葉からある程度の想像を立てることは出来ますが、それだけでは正しい理解とは言えません」
どうやら篠原は言葉だけでもある程度想像できているらしいが確証がほしいらしい。幽霊の少年と少女は一瞬黙っていたが
すぐに口を開いた。
「「ごめんなさい。僕たち肝心なことの説目を忘れていた。今かからそれを説明するね」」
「「まず悪霊っていうのは、元々はこの館で命を落とした被害者が大半なんだ。この館で死んだ人間は成仏することもできずにこの世界に閉じ込められたんだちなみに悪霊は普通の霊と違って血の様に赤い光を纏っていて、怨念や霊力が強いほど黒ずんだ色に近づいていくんだ。」」
少年と少女たちの悪霊についての説明を受けて俺は寒気が走った。もしも自分自身がこの世界で死んだとして、後に悪霊になって他の誰かに危害を加えるかもしれないということが怖かったからだ。
「「次に妖魔についてだけど、これは一般的に知られている妖怪に近いイメージっと言っても間違いじゃないよ。彼らは冥界に近い霊力の強いこの世界に霊力を補給しに来た妖魔が大半で、大体は他人には関心の無い存在が大半だからうまくいけば味方に引き込めるかもしれないんだけど、彼らは基本的に人間を軽視しているからあまり力を貸してくれる存在は少ないんだ。彼ら自身脱出しようと思えば少し時間はかかるけど自分は脱出できるみたいだからね」」
俺たちは妖魔の説明を聞いている途中まではうまくいけば妖魔を仲間に引き込めるかもしれないと考えていたけれど、妖魔が基本的に人間に力を貸す気がないということと、人間の力を借りなくてもこの世界を脱出することができるということを知って半ば力を借りることを諦めていた。
「「ただ人間に力を貸してくれる変わった妖魔もいるんだ。今いる妖魔だったら【赤マント】が力を貸してくれるはずだよ。ただ彼自身も何かを探して屋敷を探索しているみたいだから探すのが少し大変かな」」
俺たちが落胆しているのに気付いた少年と少女はどこか慌てた様子で付け加えていた。おそらく俺たちの落胆に気づいてフォローしてくれたのだろう。
「俺も少し確認したいことがあるんだが構わないか?」
怨霊や妖魔についての話が終わった後に。朝斗は少年と少女に質問を切り出した。
「確認したいことは二つだ。まず一つ目は、俺たちが屋敷に入る直前に俺たちに黒い騎士が襲いかかってきたんだが、単刀直入で悪いがあれはさっきの部類では怨霊と妖魔どっちに入るんだ?」
朝斗が聞いたことは俺も言われて途端に気になってくるようなことだった。朝斗の質問を聞いた少年と少女はとても驚いたような顔をしていた。
「どうしたの?そんな驚いた顔をして?」
片山がどこか心配そうに二人に声をかけた。二人は片山に声をかけられたことで少し意識がこちらに戻ってきたようであったが驚きを隠せない様子であった。
「「なんで【デュラハン】が屋敷の外にいるの……?今までそんなことなかったのに……」」
二人が口走ったデュラハンという言葉に食いついたのは篠原だった。
「デュラハンというのはアイルランドに伝わる首のない男のことですよね?首の無い騎士としてのイメージが日本では強いですし、妖魔もいるというこの異空間であれば出てきかねませんけれども、私たちが見た黒騎士にはきちんと首がありました」
確かにその通りだ。デュラハンが首の無い騎士のことをさすならさっき俺たちに襲いかかってきた黒騎士はデュラハンではないということだ。
「「あいつは正確には本物のデュラハンじゃないんだ。そもそもあいつも元々はただの人間だったらしいんだけど僕たちがいた時から奴は怨霊として居たんだ。あいつは生きている人間そのものを憎んでいるみたいで、今まで主に屋敷内で出会った人間は片っ端から殺して回っていて、逃げ切れた人間もそんなに多くないんだ。僕たちがあいつをデュラハンって呼んでいるのは、一度あいつがとある妖魔と戦った時に首を落とされても普通に戦えていた上に自分で首を拾ってそのまま首と胴体を引っ付けたからだよ。ちなみに奴と戦った妖魔はそのままそいつに卸されちゃったんだ」」
俺たちは戦慄した。あいつの体や霧のように纏っていた異様な何かは真っ黒だったことから考えても怨霊の中では特に強い力と生者への憎しみを持ちあわせているということだ。みんな同じことが頭によぎったのか顔を真っ青にしていた。
「「さっき渡した十字架ならある程度以上強い怨霊や妖魔の場所も教えてくれるから十字架が反応したらすぐにその場から立ち去るようにしてね……僕たちはもう誰にも死んでほしくないんだ」」
この説明を受けた後に朝斗は意を決してもう一つの質問をした。
「もう一つの方なんだが……今俺たち以外にこの館に生存者はいるのか?」
朝斗の質問を聞いて俺は今まで妖魔や怨霊に気を取られて忘れていた肝心なことを思い出した。他に同じ目的の人間が居るのならば俺たちの力になってくれるはずだし、俺たちもその人たちの力になれる。朝斗の質問を聞いた少年と少女はどこか複雑そうな顔で答えた
「三人いるよ……ただここ一ヶ月エントランスに戻ってこないんだ……ここでは三日に一回のキチンとした食事で普通に健康を維持できるけど、一か月も耐えることは出来ないはずだからひょっとしたらもうだめかもしれない……」
俺は今の発言でふと気になったことを聞いてみることにした。
「食料もあるのか?」
俺の質問に二人は平然と答えた
「「食料自体はこの本館の一階と西館にある厨房に貯蔵されてあるけど、特に西館に行くまでがかなり危険だから西館には行かない方がいいよ。」」
俺たちはその情報を聞いた後に話し合った結果、本館の二階より上で赤マント探すグループと、本館の厨房とその途中の部屋で生存者を探すグループに分かれることになった。
赤マントを探すグループは朝斗と篠原で、生存者を探す方は俺と片山が担当することになった。
「じゃあ二時間後にここで落ち合おうぜ」
俺がそう言うと朝斗は無言でうなずいた後に話しかけてきた。
「お互いに死なないようにしよう。それぞれに女子もいるからな」
しれっとしたようにそういうと朝斗は篠原を連れてエントランスにある階段を上って行った。
「片山、さっき動けなくなってたけど大丈夫か?」
俺はさっき片山が動けなくなったことをふと思い出し、声をかけてみることにした。片山は思ったよりは元気そうであったが、やっぱりどこか怖がっているようでもあった。
(俺じゃあ頼りないだろうけど、絶対に守りきらないとな……)
俺は片山の前に立ってエントランスの入り口の扉を開いた
続く
どうもドルジです。
今回やっと物語の導入?らしきところが書き終わりました。
一度登場人物の動作の描写が薄いとのご指摘をいただいたので一話以前を一度訂正するかもしれません。
あと今回は今まで出てきた【用語】を一部解説したいと思います。
【異界】
すべてが血のように真紅にそまった現世と冥府の境目に存在する謎の世界。
この世界には必ず巨大な血のように真っ赤な屋敷が存在し、屋敷の内外問わず音量や妖魔がひしめきっている非常に危険な世界であり、誰が、何を目的として作り出したかは分かっていない。
またこの世界では怨霊同様危険な場所ほど黒に近い色になっていくようにもなっている。
【怨霊】
もとはこの世界で死んだ人間の幽霊であるが、生者への妬みや、憎しみが強いものが生きた人間に実際に害を与えるようになった存在。
怨霊は血のように赤い光をまとっているが生者への憎しみや、霊力がより強いほど黒に近い色になっていくようになっている。
【妖魔】
この世界そのものの高い霊力に惹かれてやってきた一般的なイメージの妖怪。
霊力は普通の人間霊の比では無く、高い霊力を兼ね備えており、基本的には人間全般のことを見下している。
【デュラハン】
アイルランドに伝わる首のない男の姿をした妖精。女性の姿という説も存在する。
コシュタ・バワーという首無し馬が引く馬車に乗っており、片手で手綱を持ち、もう一方の手には自分の首をぶら下げている。バンシーと同様に「死を予言する存在」であり、近いうちに死人の出る家の付近に現れる。そして戸口の前にとまり、家の人が戸を開けるとタライにいっぱいの血を顔に浴びせかける。自分の姿を見られる事を嫌っており、姿を見た者はデュラハンの持つ鞭で目を潰される。だが、コシュタ・バワーは水の上を渡る事が出来ないので、川を渡ればデュラハンの姿を見ても逃げられる。
また、一部でデュラハンは「首なし騎士」とも呼ばれ、文字通り首の無い騎士の姿をして、首無し馬に跨ったアンデッドとして描かれており、やはり「死を予言する者」、または死神のように、人間の魂を刈り取る存在として扱われている。現在の日本ではどちらかというと、こちらの設定の方が有名である。
この異界にいるのは本物のデュラハンでは無く、その呼ばれる存在の強力な霊力から呼ばれている。
【赤マント】
赤いマントをつけた怪人物が子供を誘拐し、殺すというもの。 誘拐の対象を少女のみとし、誘拐した後、暴行して殺す、とされることもある。
この世界にいる赤マントの詳細については現在は不明。