第十二話Bパート 赤マント
雄介視点。
俺たちは気がつけば本館に通じる扉の前に来ていた。
「本館に戻ってきていたのか……貴志たちは無事だろうか……」
毛利は少し複雑そうな表情をしつつ本館へのドアを眺めていた。その様子を見た篠原は毛利に声をかけた。
「きっと大丈夫ですよ。高本くんも春子も他のみんなも絶対無事に決まっています」
篠原はそう毛利に言った後に本館への扉に手をかけた。俺たちもそのまま奥に進むことにした。
中に入ると高本たちが既に居た。毛利と篠原はそのまま二人の方に駆けていった。俺も慎二と朝倉がいる方にそのまま歩いて行った。
「慎二。お前たち大丈夫だったのか?」
俺が桐生に尋ねると、複雑そうな顔をして答えた。
「僕たちは 無事だけど……」
慎二はどこか思いつめた様子で答えた。俺が何かあったのか聞くと桐生は答えた。
「僕たちを助けてくれた幽霊が居たんだけど、僕たちに襲いかかってきた妖魔を食い止めるために東館に今もいるんだ」
慎二の言葉を聞いた俺はどう答えればいいのか分からずに固まってしまった。
「ごめん小鳥遊。暗くなるようなこと言ってさ。今更だけどもっと他に出来ることがあるんじゃないかって思えて仕方ないんだ」
慎二はどこか自虐的な様子でそう答えた。そんな俺たちのやり取りを見ていた朝倉が声を掛けてきた。
「二人共そんな自虐的なことばかり言わないでちょうだい。岡山さんだって何かしらの手段が無いのに進んで時間稼ぎをするなんて言うわけがないでしょ?それにそのことを最初に行ったのは桐生くんでしょ?」
朝倉は一瞬不安そうな様子したけれども、そのまま続けた。
「小鳥遊くんもさっき再会した時からずっと何か考えている様子だけれど、今はそんな風に思いつめたりしている場合じゃないのよ」
俺は朝倉の核心を突く言葉に少しイラっときて「お前に何がわかるんだよ」と返すと朝倉は一瞬ビクッとしたけれども、さらに続けた。
「小鳥遊くんが考えていることって、自分があまり役に立ってないとかそんなことでしょ?赤井さんや、さっき話していた私たちを助けてくれた、岡山さんっていう名前なんだけど、幽霊と違って私たちにできることなんてたかが知れているし、それは仕方ないことでしょ?それをそうしてそんなに気にするの?それよりもまず後悔しないためにも自分ができる範囲のことをするべきでしょ?」
俺は自分ではまったく思いつかなかったことを言われて内心驚いた。そんな様子の俺を見ていると朝倉が落ち着いた様子でさらに続けた。
「私も後悔したもの。私が見捨てたせいで一人の女の子を死なせてしまったの。だから私はこれ以上後悔したくないの。桐生くん。仮に私たちがあのまま残っていてもただの足でまといにしかならないはずよ。それも分かっているでしょ?」
朝倉の言葉を受けた慎二はハッとした様子でいた。
「そうだよな。僕が最初に岡山さんに時間稼ぎを任せたようなものなのにあとになって後悔するなんて間違っているよな……やっぱり。ごめんな朝倉。こんなこと言わせて」
慎二が朝倉に謝ると、朝倉は少し驚いた様子で「そこまで謝ることない」と返した。俺もそんなやり取りをしている二人を見ていると、毛利たちがいる方から突然大きな声がした。
真紀視点
ようやく本館に到着した私は春子たちの方に駆けていきました。
「春子怪我はありませんか?」
私が春子にそう聞くと春子は微笑みながら答えました。
「うん。私たちは大丈夫だったよ。ただ私たちのために時間稼ぎをしてくれた幽霊の男の人がいて、その人を置いていくことになったの。その事が少し気がかりだけど、あの人なら大丈夫なはずだよ」
私は春子のどこか確信しきっている顔を見て内心驚いていました。私は思ったままに疑問を晴子に投げかけました。
「どうして無事だってはっきり言い切れるのですか?私はその幽霊には合っていませんけれども、さすがにそれは過大評価ではないですか?」
私の疑問を受けた春子は少し複雑そうな様子で答えた。
「上手く言えないけどあの人なら大丈夫だってわかるの。うまく言えなくてごめんね。後今赤井さんと少し話がしたいのだけれど大丈夫かな?」
春子に赤井さんが今大丈夫かどうか聞かれた私は赤井さんの方を確認してみると、特になにもすることなくソファーに座っているだけでしたので、そのまま春子に「今は大丈夫です」と答えると、そのまま春子は一言「ありがとう」と言った後に赤井さんの方に歩いて行きました。私も気になって赤井さんの方に行ってみることにしました。
私が赤井さんのところに向かうと、既に二人は話を始めていました。
「おや……片山さん、どうしました?私になにか要件がありますか?」
いつもの様子で受け答えをしている赤井さんであったけれども春子は今までと違って……明らかに怒っている様子でした。
「赤井さんは本当にあの娘にあわないのですか?私はそんなの絶対間違っていると思います。はっきり言って合うだけでもかなり違ってくる私は考えています。」
春子の言葉を受けた赤井さんはバツの悪そうな顔をしていました。赤井さんはしばらくするとどこか余裕の無い様子で答えた。
「以前にも言いましたけれど確実に怨霊でなくす方法を発見するまではしないと言って……」
「嘘。本当は仮に戻せなくてそれで倒さなくちゃいけなくなった時が怖いんだ。」
春子の言葉を受けた赤井さんは明らかに今までと様子が違っていました。まるで黒騎士と退治した時のような殺気を晴子にぶつけていました。
「それ以上しゃべるな……下手に出ていたらいい気になるなよ小娘。十字架にまだ霊力を込められていないお前なら今この場で殺せるんだぞ。」
赤井さんの言葉を聞いた私は咄嗟に割って入ろうとしたけれども晴子に止められました。
「真紀ちゃんも聞いていたんだね大丈夫だよ。下がっていて」
それだけ言うと春子は再度赤井さんの方に向き合った。
「私は絶対赤井さんはあの娘に会いにいくべきです。怨霊は大体月日を重ねることに生きている人間への妬みや憎しみを募らせるものです。そんなことは赤井さんだってわかっているはずですよね?」
赤井さんは春子の言葉を受けて固まっている様子でした。春子はさらに続けました。
「赤井さんが懸念することも分からないわけじゃないです。ただ私は赤井さんがここであの娘に会いに行かなかったら絶対公開するって思うんです。だから私は……」
赤井さんは春子の言葉を遮るように叫びました。
「いい加減にしてくれ!!俺だって分かっているんだ。このまま何もしないで後回しにし続けたっていい方向になんて進まないなんてことは自分でも分かっているんだ。でも怖いんだ。沙織を殺さないといけないかもしれないこと以上に、元に戻った彼女に何かしらの罵声を叩きつけられるかもしれないと考えると後回しにしていまうんだ……」
最後の方はつぶやくようにそう言うと赤井さんは少し落ち着いた様子で口を開いた。
「しばらく考えさせてください。今すぐには結論をだせそうにありません。それとあの兄妹に可能な限り早く十字架に霊力を込めてもらいなさい」
赤井さんはそれだけ言うと少し離れたところにある柱の方に向かいました。
「ごめんね真紀ちゃん。心配かけちゃったね」
春子が申し訳なさそうに話しかけて来たのを私は制止し、「気にしないでください。私が勝手に聞いただけですから」と返すと完全に納得してくれたわけではないけれども、とりあえず納得させることが出来た。
「ごめんねありがとう。私は二人を探しに行くね」
それだけ言うと春子は兄妹を探しに行った。その様子を見つつ私は元々いたソファーの方に戻った。
続く
こんばんわドルジです。
今回はかなり更新が遅れてしまいました。可能な限りはこんなことは減らしたいと思います。