第十話Ｂパート 復讐者 Avenger
雄介視点。
赤井は黒騎士との距離を詰め、敵に硬化した手刀からの突きを放とうとした。
「馬鹿が……その程度の単調な攻撃では私は倒せないぞ」
黒騎士がそう言った次の瞬間、赤井が踏み込むと予測した領域に槍を突き出したしかし、事前に槍を察知していた赤井は槍が突き出されるよりも早く上に飛び上がり、硬化した足からの踵落としを放った。
「……！？」
黒騎士は咄嗟に周りに纏っていた黒い霧を集めることで踵落としを防ごうとしたけれども、防ぎきれずにそのまま左手が肩から切り裂かれた。
「死ね」
赤井はマントを硬化させ首を刎ねようとしたけれども、黒騎士は霧の一部を纏わせた右手の剣で防ぎ、後方に下がった。
「チッ」
赤井は露骨に不快な表情を浮かべつつ少し下がった。
「なるほど……思っていたよりは出来るらしい。だが……」
黒騎士がそう言うと、切り裂かられた断面から伸びた黒い霧が切断された左腕と繋がり、腕を再生した。
（おいおい。腕を繋ぎ直すとか反則だろ……）
俺は目の前で起きている異常な光景に唖然とした。毛利と篠原も俺と似たような様子で目の前の異常な光景に唖然としていた。
「その程度では私は殺せないぞ……最後にもう一度言うが、貴様にはさして興味ない。そこをどけ……っ！！」
赤井は無表情でその言葉を流し、黒騎士に再度飛び掛かった。
「青……血刀」
赤井はそういうと両手にそれぞれ一本ずつの赤い刀が握られた。素早さでは勝る赤井は黒騎士との距離を詰め、そのまま直接切りかかった。黒騎士も対抗して剣と槍で応戦し、それぞれの武器が切り結ぶ形となった。
「殺す……お前だけは絶対に！！」
赤井は凄まじい速度で双振りの刀で攻め続けた。対する黒騎士は剣と槍と霧の盾を併用することで防御しつつ、赤井の隙を伺っているようだった。百近くまで切り結んだ所で赤井は後ろに下がりつつ刀を投げつけた。黒騎士は苦もない様子で刀を槍で薙ぎ払うことで回避しようとしたけれども、
「弾けろ！」
赤井が叫んだ次の瞬間に刀が弾けて無数の硬化した小さな血の槍となり黒騎士を襲った。黒騎士もこの攻撃はさすがに予想していなかったのか霧の盾で防ぎきれずに直接無数の血の槍を
受けた。
「やったのか？」
俺は一瞬倒したのかと思った次の瞬間、黒騎士の全身に刺さっていた血の槍が抜け落ち、傷が瞬く間に再生した。
「なっ……」
毛利はこれまで以上に目の前で起きたことに驚いていた。
「なるほど。さすがは首なし騎士と恐れられるだけのことはあるようですね。大した再生力です。それぐらいの再生力があってもらわないと私としても困りますからね」
赤井はそう言うと今度はおそらく血で出来た大鎌を作り出し構えた。赤井は黒騎士に肉薄し、再度切りかかったけれども、最初の二刀を装備していた時よりも押されている様子であった。黒騎士はその赤井の様子を見逃すはずもなく、すかさず赤井の鎌を左手の槍で防いだのちに右手の剣で赤井の胴体を切り裂いた。しかし、赤井は突然血の塊のような液体になると、その場で体を再度繋ぎ合わせたうえで、体の一部鎌に変えて黒騎士に切りかかった。黒騎士は一瞬驚きつつも、冷静に霧の盾で防いだ。
「貴様、まさか全身が自在に操作できる血で出来ているのか？」
赤井はその場で元の実体に戻り、冷静に答えた。
「ええ。私の体は多少の制限こそありますが、自在に操作できる血液で出来ていますよ」
その言葉を聞いた黒騎士は「なるほど」とだけ返し、再度剣と槍を構えた。
「今度こちらから行くぞ」
それだけ言うと黒騎士は赤井へと駆けて行った。距離を詰めた後、赤井は再度二刀に持ち直し応戦した。赤井の使う二刀流も、黒騎士の使う剣と槍の技術もどちらも明らかに人間の領域を超越した一種の神業の領域に達していた。
「なるほど。想像以上の攻撃速度ですね。だがお前だけは私が……俺が殺す。」
赤井はそれだけ言うと今度は突然赤い霧のように変化した。
「何！？」
黒騎士は赤井の姿の変化に驚いていた。
「私はさっき自らの肉体を自在に変化させることが出来ると言いましたよね？気化が出来るとは思い至らなかったのですか？」
それだけ言うと黒黒騎士を赤い霧が覆い尽くした。
「ほう。面白いことが出来るな」
黒騎士はあくまで落ち着いたまま喋った。体を気化させた赤井は答えた
「これはお前を殺すために用意した奥の手の一つですよ。まあどうなるかはある程度は想像できるでしょうけれど」
黒騎士はハッとした様子で赤い霧から脱出しようとした。しかしその瞬間赤い霧の中で無数の刃が突然現れた。
俺たちが唖然としていると、赤井が元の姿に戻り、黒騎士の方を見た。
黒騎士は全身に纏っていた霧を硬化させて無数の刃を防いでいた。
「なっ！？」
黒騎士をよく見ると鎧の所々が切り刻まれボロボロになっていた。しかしすぐにそれも再生していった。
（化け物かよアイツ）
俺は再生したあの黒騎士を見たままただ唖然としていた。
「どうした。それで終わりか？刃を分散していた分一撃が軽かったぞ」
黒騎士は淡々と言った後にさらに続けた。
「改めて言う。これで最後だ、失せろ」
黒騎士の言葉を聞いた赤井は今まで耐えていた物を爆発させるように叫んだ。
「ふざけるな！！お前を殺さずになぜ逃げなければならない！？お前に殺された沙織の苦しみを味あわせるまで俺は絶対にあきらめない！例えどんなに他人を利用することになってでもお前だけは殺す！！」
赤井の叫びを聞いた俺たちが内心恐怖していると、黒騎士は涼しげな様子で答えた。
「くだらない。死んだ我らを無視して無駄に生を送り続けている人間をたかだか一人殺したぐらいでなぜそれほど恨む。人間の怨霊であった私よりも妖魔であるお前の方がよく理解しているはずだ」
赤井は図星をつかれたような様子で震えていた。それを見た黒騎士はさらに続けた。
「くだらない。お前が入れ込んでいる人間の小娘も所詮は惰性で生きているだけの価値の無い人間に過ぎない。ただ食べて寝て向上心も持たない。我ら騎士団は生前から更なる剣術の技量
発展と、騎士としての誇りを持って生きてきた。我らの誇りを穢しているのも同然の下劣な人間が一匹死んだ程度でどうなるというのだ」
赤井が我慢できなくなったのか再度黒騎士に飛び掛かろうとしたその時、篠原が突然目の前に飛びだして来た。
続く
お久しぶりですドルジです。
今回は私用によりしばらく更新することができませんでした、早くても次の更新も木曜日から金曜日間になると思います。本当に申し訳ありません。
