第一話 遭遇 Encounter
それから俺たちは赤く染まった町の探索を続けた。洋館を見つけるのは容易ではあったが俺たちは入ることに躊躇があった。
「この屋敷なんか周りと比べて赤黒くないか?」
俺が思ったことを率直に言うと周りも同意していた。特に片山はこの屋敷そのものに恐怖しているようだった。
「ここ、危険すぎるよ。入るにしてもあまり長居はしない方がいいと思う」
片山の顔を覗き込んでみると青ざめていた。しかもまるで何かに怯えるように震えていた。
「春子落ち着いてください」
篠原が片山の背中をさすりつつなだめていたが片山の状態はあまり良くならなかった。片山の状態を見た朝斗は
「ここから離れた方がいいかもしれないな……このままだと片山が危ない。」
朝斗がそういうと篠原と協力して片山を肩車して運ぼうとしたがその時俺は見つけてしまった。
通りの向うから何かがこちらに近づいてくるのを。
そいつはこの真っ赤で無気味な世界でも目立つほど【真っ黒】だった。姿は西洋の甲冑を思わせるものだがとにかく真っ黒だった。しかもそいつだけじゃなく周りの道路をはじめとした空間もまるで黒騎士の影響を受けたように黒く染まっていた。
鎧のスリットからは赤く光る眼光がのぞいていたが明らかにこちらに殺気や怨念を叩きつけるように睨み続けていた。
「なんですかあれは!?」
篠原が驚愕している間にも奴は俺たちに近づいてきていた。奴の手をふと見ると真っ黒な剣が握られていた。このままここでのんびりしていたら俺たちは奴に間違いなく殺される……
「だめ……これだめ……逃……げて……っ!」
「とりあえず屋敷の中に逃げ込むぞ!!」
俺はとっさに屋敷の中に逃げ込むように叫ぶと篠原と朝斗が動けない片山を担いで屋敷へと駆け出した。俺も駆け出した後にふと後ろを振り向くと……
「グオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!!!」
さっきまでゆっくり近づいてきていたはずの黒騎士が雄叫びを上げながらすごい速度で走ってきていた。俺たちは恐怖に駆られながらも必死で走ってどうにか屋敷に入ることができた。黒騎士も屋敷の前で止まって俺たちを恨めしそうに睨みつけていた。どうやら屋敷の中までは追ってくる気はないらしい。
俺たちが扉を閉めようとした瞬間に黒騎士が何かを呻いた。
「憎い」
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」
俺たちは黒騎士の怨嗟のこもった呻き声に戦慄していると奴は最後に一言はっきりと喋った
「次は殺す……」
奴はそれだけ言った後に黒い霧をまき散らしながら跡形も無く消え去った。さっきまで真っ黒だった奴が立っていた場所の周りは元の真っ赤な色に戻っていた。
屋敷の中に入ってしばらくして俺たちは入り口近くのエントランスにあたる場所で話し合いをすることにした。
「これからどうしましょうか?」
最初に話を振ってきたのは篠原だった。篠原もさっきの黒騎士の禍々しい殺気を思い出したのか少し震えていた。オカルト全般が好きな篠原にしては意外な反応だと俺は思った
「以外とでも思いましたか?実際に自分がオカルト現象に遭遇するのは生まれて初めてなのです」
「外には奴がまだいるかもしれないことを考えるとあまり出ない方がいいな」
朝斗は比較的落ち着いていた。さっきから非科学的なことが続いている割には俺とは違って早く冷静さを取り戻していた。
「今は何が起きるか分からないからな……冷静さを保ったほうが生存率は上がるはずだ」
「俺は正直この屋敷の中を探索した方がいいと思うぞ。」
俺は自分の主張をそのまま伝え、周りの同意を得ようとした。
「そうだね……私もあの黒騎士にはもう会いたくない……とても危険な感じがしたから……」
俺はやっと落ち着いてきた片山が言った【危険な感じ】がよくわからないこともあって聞いてみることにした。
「危険な感じっていうのはどういうことだ?たしかにあいつの雰囲気や行動がヤバかったのは分かるけどよ……」
片山は一瞬言葉に困ったような様子で考え込むと神妙な表情で答えた。
「簡単に言ったら第六感って言ったら分かりやすいかな?私には理由はよくわからないけど幽霊がいるっていうのが【感じる?】ことができるの……正直気持ち悪いよね?」
片山はどこか自嘲するように笑いながらそう返してきた。
「いや……俺はそんなこと……」
「「お兄ちゃんたちもここに迷い込んだの?」」
声がした方向を向くと青白い男の子と女の子の……おそらく幽霊がいた。男の子の方は子供用の小さなスーツと蝶ネクタイを来ていた活発そうな顔をしていた。少女の方は金色の長いロングの髪に……前に片山が話していたゴスロリって服を着ていた。
「坊やたちは多分……幽霊じゃないかと思うのですが、ここがどのような場所であるかわかりますか?」
篠原が近くにいた方の少年の霊に今俺たちが置かれている状況を確認しようとしていた。少年と少女はどこか悲しそうな顔をしていたが口を開いた。
「「ここは数百年前に現世と冥府の境目に生み出された異界だよ……ここに閉じこもられたら最後二度とここから脱出することは不可能だよ……」」
続く
どうもドルジです。
今回はやっと少し前に進ませることができました。
洋館の探索は次の次ぐらいになりそうです。
では次回会いましょう。