第九話Aパート 妖刀 Demon Blade
慎二視点。
生存者らしき人影を追って三階に僕たちは上った。三階はどこか今までよりも重苦しい気配がした。僕たちはその気配に一瞬飲まれかけたけれども、何とかその場を持ちこたえ先にすすんだ。
「さっきの人はどこに行ったのだろうかな?」
片山さんは何処か心配そうにボソッと言った。僕としても生存者とはなるべく一つに固まって行動したいし、情報も交換することも大切だと思っている。だからこそ生存者がいるのなら早く発見したい。
僕たちは三階で最初の部屋を見つけた。扉を開くと、中は今までよく見た書斎のような部屋であった。
(そういえばこの屋敷そのものに書斎のような部屋が多いな……これは前に言っていた屋敷の主と関係があるのかな……)
そんな思案をしつつ部屋の本棚を漁っていると、高本君が何かを見つけたらしく、僕たちを呼んだ。僕たちが来たのを確認すると、高本君は霊感がこの中で一番強いであろう片山さんにこの館では異質な青白い古ぼけた日記帳を見せてきた。
「片山!なんだか変な本を見つけたんだけどよ……これって呼んでも大丈夫なのか?」
片山さんは日記帳を手に取ってしばらくその本を凝視した後に、安堵した様子で答えた。
「大丈夫みたい。ただこれ……かなり不思議、深いけど物悲しい思念を感じる……」
そういうと片山さんは日記帳を開いて読み始めた。
「1944年12月10日 僕は明日神風特攻隊として出撃することになった。心残りとしては家に年老いた母さんと姉と二人の妹と婚約者を残してしまっていることだ……みんなを残して死にたくない……」
「これ……第二次世界大戦中の神風特攻隊の日記なの!?」
朝倉は驚いたようすで声を上げた。片山さんが一瞬驚いて読むのを止めた。
「あっ。ごめんなさい続けて」
朝倉は驚かせてしまった片山さんに謝った。片山さんは気にしていないと返した後に再度読み始めた。
「1945年12月12日 ここはどこだ……?確か僕は鬼畜米英の選管に突っ込んだはずなのに……今僕はただ何もかもが真っ赤な洋館にいる。まったく状況がつかめない……」
「あれからどれぐらいこの洋館にいるのか分からない……あれから見つけたのは鞘から抜けない刀だけだった……僕は生きたい……生きて母さんや、姉さんや、妹たちにも会いたい……ごめん……もう疲れたよ……」
「おいおい……これって……死んだのかよ」
高本君は冷や汗を掻きつつ少したじろいでいた。読んでいた片山さんはもちろん、聞いていた朝倉や僕も内心怖くなってきた。震えている僕たちはまだ続きがあるらしいが途中で読むのをやめようとした。その時、部屋の入り口から誰かが入ってくる気配がした。
「君たちが僕の手帳を拾ってくれたのかい?」
僕たちは声をした方を向くと、よく当時の日本空軍のパイロットスーツらしきものを着た青年が立っていた。青白いその姿から悪霊ではないが、同時にすでに生きた人間でもないということが分かった。あと一つ分かりやすい特徴として手に真っ赤な日本刀を持っていることだ。
「自己紹介がまだだったね。僕の名前は岡山貴志。死ぬ前は特別攻撃隊に編入されていた、ただのしがない若者だよ……」
岡山さんという名前の幽霊は丁寧自己紹介をしてくれた。自己紹介を終えた岡山さんは再度僕たちに話しかけてきた。
「後、僕の手帳を見つけてくれてありがとう。とても助かったよ」
岡山さんはお礼を言った。僕たちは偶然見付けただけで、そんな感謝されるほどの事ではないと返した。それでも岡山さんは何度もお礼を言っていた。
「そういえば君たちは今ここで何をしているんだい?何かを探しているみたいだけど」
岡山さんに目的を聞かれた僕たちは、十字架を入手するために礼拝堂を探しているということと、現在も脱出方法を探しているということを伝えた。
「そうか……なら僕も力を貸そう。僕自身の霊力はそんなに高くないけれど、少しぐらいなら知恵を貸せるはずだからね」
岡山さんはそういうと僕たちに手を差し出した。僕はその手を掴み、握手をした。
それから僕たちと岡山さんは互いの情報を交換した。
「この館の主……そんな存在がいるのか……」
岡山さんはどこか神妙な様子で考え事をしていた。しばらく考え込んだ後岡山さんは今度は自分の情報を提供してくれた。
「僕が教えられる情報として、二つぐらいかな、まず一つ目は礼拝堂についてだけど、今は確か二階の奥の扉から行けたはずなんだ。二つ目なんだけど……」
岡山さんは少し気まずそうな様子でいた。僕たちの方を見ていた。僕は気になってそのまま言ってほしいと言うと、岡山さんは口を開いた。
「この東館には今、妖魔が居るんだ。だから今二階に行くのはとても危険なんだ。一応、僕の奥の手を使えば何とかなるかもしれないけれど……」
岡山さんは刀を握りつつ話を続けた。
「こいつもこいつで何を考えているかはあまり分からないし、こいつが気が乗らないと力を貸してはくれないんだ。下手をすると僕を乗っ取って好き勝手にするかもしれないし……」
よく見ると、妖刀には魔除けの札らしきお札が鞘に複数張られていた。片山さんは妖刀を見てどこか顔を青くしている。
「どうした片山大丈夫か!?」
高本君が片山さんの様子を見つつ、心配そうに話しかけた。片山さんは大丈夫と高本君に返していた。それを見た岡山さんは何処か申し訳なさそうな様子で片山さんを見ていた。
「すまない……この妖刀は生前に入手した刀で、僕が死ぬ間際にこの刀と契約をすることで、怨霊になることから逃れているんだ。だからこの刀を手放すわけにはいかないんだ。本当にすまない」
そう言うと岡山さんは少しでも片山さんの負担を少なくしようとしているのか、刀を霊体である自らの体の後ろに隠した。
その時岡山さんの後ろから声が聞こえた。
「なんだなんだ。随分酷い扱いじゃねえかよ。よう貴志くん」
状況から考えてまず妖刀が喋っているのは分かった。いつもの僕なら喜びのあまり、どうなるか分かったものではないのであるけれども、今の状況ではとてもではないが、喜べるものではなかった。
「そこの背の小さい女は俺の霊力にでも当てられたっていうのか?はっきり言って俺は妖刀の中じゃ格下の部類だぞ」
どこか人を小ばかにするような態度をしつつ妖刀はへらへらと笑っていた。
「おいやめろ、怖がっているだろう」
妖刀は岡山さんの言葉を無視してまた話し始めた。
「霊力的にはそっちのチビの方がよさそうだが、そっちとしてならそこの背の少し高めの女の方がよさそうだな」
朝倉の方を見ると、明らかに嫌悪が顔に浮かんでいた。僕も今の発言に頭にきていた。僕は怒りのあまり立ち上がりそうになると妖刀が今度は僕に話しかけてきた。
「おっとやめときな坊主。お前じゃ俺には敵わねえよ。大体人間何人切り殺したってあまり足しにゃならねえし、邪魔にでもならない限りは本当にどうにかしたりなんてしねぇよ」
僕は今の言葉で一応は頭に登っていた血は降りたけれども、内心怒りは抑えられなかった。それでもはなんとかこらえることが出来た。
「すまない。こいつはいつも口が一言多いんだ。気を悪くしないでほしい」
岡山さんはその場で謝罪を始めた。僕は何とか岡山さんを止めた後に、対策について話し合うことになった。
「妖魔は【天邪鬼】っていう妖魔で、言われたことと逆のことをする妖魔だ。元々はそこまで強くないし危険はないんだけれども、今は霊力が不足しているのか、人間を食べることで霊力を補おうとしているんだ。だから僕としては、僕が囮になっている間に君たちが礼拝堂に行くっていうのを考えているんだけど、どうだろうか?」
僕はいきなり出された意見に、あまりにも岡山さんが危険すぎると止めたけれども、妖刀が止めた
「安心しな。今日の俺は気分がいいから貴志のことは面倒見てやるからよ」
その言葉を聞いて僕はとりあえず任せることにした。僕は他の三人と岡山さんに改めて声を掛けた。
「分かりました。僕も一応は四人中では一番の年長者だ。女子のことは僕と高本君に任せてください。岡山さん、天邪鬼はお願いします」
僕の言葉を受けた岡山さんはほほ笑んだ後にもちろんだと、返してくれた。
続く
どうもドルジです。
今回はかなり更新の穴が開いてしまいましたが、可能なら今日中にBパートを投稿したいと思います。
キャラ紹介
名前 岡山貴志
性別 男
年齢 享年19歳
身長 170cm
体重 63kg
髪型 かなり短い黒髪
趣味 散歩
特徴
桐生達が東館で出会った日本人の青年の幽霊。
この世界の基本的なことは知っているようだが、確信にせまるようなことは
知らないらしい。
妖刀を持ち、本人の霊力に頼らない戦闘能力(近接戦闘能力)は高いが、
妖刀の機嫌しだいの面もあり、戦闘能力ば不安定である。また本人の霊力も低い。
イメージCV 羽多野渉
妖刀
詳細不明だが意思があるらしい。
イメージCV 寺島拓篤