第六話Bパート 犠牲者 A Victim
健二視点
突然飛び出した桐生さんを追って俺たちはエントランスを出た。エントランスを出てしばらく走ると、桐生さんはちょうど俺と片山が調べた時には鍵しまっていた扉を開けようとしていた。やっと桐生さんに追いついた俺たちは桐生さんの肩をたたいた。
「落ち着けよ慎二!!ここでそんなに慌てても何にもならねえだろう!!」
小鳥遊さんが桐生さんを引き留めようとしたけれども、桐生さんは鬼気迫ったような表情で答えた。
「こうやってしている間にも朝倉が危ないんだ!!このまま何もせずにいるなんて僕には出来ない!!」
俺から見ても桐生さんはかなり焦った様子だった。俺たちは今は小鳥遊さんと桐生さんのやり取りを見ていることしかできなかった。
「今ここで焦りすぎて単独行動とったって効率悪いし、危険すぎるだろう!!ただでさえ片山は十字架がもう無いんだぞ!!もう少し慎重に動けよ!!」
小鳥遊さんの怒鳴り声を聞いて桐生さんはどもってうなだれていた。うなだれている桐生さんを見て小鳥遊さんは困り果てたような顔で、
「頼むから冷静さだけは失わないでくれよ……じゃないとここから生きて脱出なって出来ないぜ……」
見た感じだと小鳥遊さんも桐生さんも精神的に相当参っているみたいだ。俺が何も言うことが出来ずに固まっている時に片山が
「二手に分かれませんか?桐生さんは朝倉さんを探したいのですよね?でしたら桐生さんと小鳥遊さんのチームと、私と高本君のチームに分かれて……一通り回ったことが有るはずだから30分後にエントランスに再度集まるというのはどうでしょうか?」
片山の提案を聞いた俺を含めた他の三人は承諾した。それから桐生さんと小鳥遊さんはまだ十字架を持っているからと奥の厨房の方を探しに行った。
それから俺と片山は主にエントランスの近くの部屋を中心に探索をすることにした。
「さっきはすごかったな。あんな風に指示ができるなんて俺は知らなかったぜ」
俺がほめると片山は何処か照れくさそうに笑いながら
「今の私にはあんなことしか出来ないから……それよりも気になることが有るの」
片山は急に真顔になると俺に話を振ってきた。突然のことに少し驚いたけれども、俺は片山の気になることについて聞いた。
「厨房で女性の死体があったよね……ひょっとしてあれって……」
俺は咄嗟に片山の言葉を止めた。正直そんなことは考えたくなかったからだ。片山を制止した後俺は手近な扉を調べると、向こう側から人の気配がすることに気づいた。ただ扉が空きそうで開かなかった。
「これだったら蹴破れば開くかもしれないな。」
俺は強引にすれば空きそうなのに気付いて扉を蹴破ることにした。
「片山下がってろ……オラッ!!!」
俺が力を込めて扉を蹴ると、扉は簡単に開いた。扉の向うを確認するとそこには……
慎二視点
高本君たちと別れた僕たちは小鳥遊と一緒に厨房の方を重点的に朝倉を探すことにした。
(朝倉……今どこに居るんだ……)
僕が色々と考え事をしている間に、厨房周辺の部屋に到着していた。僕たちは周辺の部屋を探索したけれども、人の痕跡は特には無く、少し有益そうな情報は本棚に逢った本が少しあった。
「この屋敷の東館には移動する礼拝堂がある。その礼拝堂にはある程度動く法則があるらしい……その法則として、【一階、二階、三階、の順番に一日毎に移動すること】と【一つの階層にとどまるのは三日間で四日目には次の階層に移動するということ】だ。礼拝堂を探しているのならその点に気を付けるべきだ。」
今後東館を探索するのに役立つと判断して僕は、その本に書いていることを手帳に書き写した。それから他にも何か無いかを確認したけれども、その部屋には何も無かったのもあって、そのまま次の部屋を確認した。
次の部屋の扉の横には食堂と書かれた板が掛けてあった。僕と小鳥遊は慎重に食堂の中に入った。食堂の中は簡素な大きな机と、複数の人間が食事を一度にとれるようにたくさんの椅子が置いてあった。この部屋にも何もなかったこともあり立ち去ろうとした時に、食堂の中にもう一つ扉があるのに気付いた。僕はなんとなく嫌な予感がしたけれどもその扉を開けることにした。その扉を開けようとした時に小鳥遊が止めた。
「待てって。ここ、なんだか嫌な予感がするぜ。開けるならまず俺が開ける」
そう言うと小鳥遊は前に出て扉を開けた。中は居たって普通であった。小鳥遊は先に進んでいったが、次の瞬間突然悲鳴を上げた。小鳥遊が悲鳴を上げた方を見ると、その近くには女性を足がのぞいていた。僕はまさかと思って見てみたが、その女性の死体は朝倉ではなかった。
内心安堵しつつ僕はその女性の方を少し確認した。その女性は僕たちと同じぐらいの年代の風に見えた。目立った外傷がないけれども、どこか痩せこけているようにも見えたので、恐らく死因は餓死だろう。
「慎二。ここには朝倉は居ないみたいだし。一旦エントランスに戻ろうぜ」
小鳥遊の提案を受けて僕たちはエントランスに戻るために廊下にそのまま出られるドアに向かった。
(そういえば……食堂から厨房に行ける扉は前に来た時にはなかったはずだよな……何でこんなところに扉があったのだろうか?)
僕が扉を開けた先には……
恨めしそうな顔で佇んでいるあの怨霊が目の前に立っていた。
「「うわっ!!」」
僕は驚きのあまり扉を慌てて閉めた。大体の廊下にいる怨霊は部屋に入ってこないはずだから、とりあえずは大丈夫だろう。
「どうするんだよ慎二!?」
俺がどうすればいいのか迷っている時に食堂に通じる扉が開いた。
「桐生さん!小鳥遊さん!」
入ってきたのは高本君と片山さんと……僕たちが探し続けていた朝倉だった。
「桐生君、小鳥遊君、よかった無事だったんだ!」
朝倉は俺たちの姿を見ると半泣きになってこっちに走ってきた。
「今まで、どこにいたんだよ!?心配したんだぞ!」
僕がそう言うと、朝倉は複雑そうな顔をしていた。
「それは後で話すから今は一旦落ち着けるところに戻り・・・・・」
朝倉がそう言おうとした途中で厨房の奥にある死体に気が付いた。朝倉は顔を真っ青にしつつその死体の顔を見た瞬間にその場に崩れ落ちた。
「嘘……岸部さん……どうして……?」
朝倉はこの死体になっている女性を知っているらしい。僕が朝倉の肩を支えると朝倉はずっと泣きながら
「何で……一緒に脱出しようって言ったのに……」
と泣き続けていた。
「桐生さん!さっきこの前の廊下にあの怨霊が居るのを見たんだ!早くここから脱出しないと逃げられなくなる!片山が感じる様子だと今はあの廊下につながる入り口の前に居て、今なら食堂を経由して逃げられるんだ!」
高本君が必死さのあまりどこか支離滅裂になりながらそう言った。僕はその言葉を聞いた後、朝倉を担いでみんなに走ってエントランスまで戻ることを伝えた。
それから僕たちはエントランスまで走った。食堂を出てある程度離れたところで怨霊が気付いたのか後ろからすごい速度で追ってきた。凄まじい速さではあったけれども、怨霊にも行動範囲に限界があることはこの一か月で分かっていたこともあり、うまく逃げ切ることが出来た。それからも走り続け、僕たちはエントランスの扉を開けて飛び込んだ。
続く
どうもドルジです。
次からは間章を通してから続けたいと思います。
キャラ紹介
名前 朝倉奏多
性別 女
年齢 19歳(大学二回生)
身長 160cm
体重 44kg
髪型 セミロング(地毛茶色)
趣味 裁縫 ネット
所属部活 オカルト研究部
成績 中の上
特徴
桐生達と同じ大学に通う女子大生。
普段は温厚だが怒ると結構怖いタイプ(気心しれた男子相手にはアイアンクロウをする)
桐生達とはぐれてからは、一時期屋敷で知り合った女性岸部と共に行動していたが、またはぐれてしまっていた。
イメージCV 花澤香菜