赤い髪留め 9
高志は7時前にバーに来て、先に飲んでいた。7時過ぎたころに裕子がやってきた。
「こんばんは」
「こんばんは」と二人は挨拶を言い合った。彼女はホワイトレディーというアルコールがきついカクテルを頼んだ。高志はジントニックを頼んだ。
しばし無言が続いた後、
「ちょっと自分のことを話してもいいですか?」と高志は尋ねた。
「ええ」
「俺はね、つい最近、1ヶ月前ぐらいに離婚したんですよ」
「そうなんですか?」
「理由は妻に好きな人ができたんです。竹内さんが貴方を好きになったように。妻も俺とは違う男にほれ込んだ。でも簡単には理解ができなくて、何回も話し合いをした。でも彼女の決心は石のように硬かった。だからね、決心して別れることを承諾したんだ。」
アルコールの酔い手伝って、高志は裕子に心の奥を話はじめた。
「じゃあ、私みたいな女、とても憎たらしいでしょうね」
「そうでもないよ。俺はね、妻のことを愛していたつもりだったけど、10年一緒に暮しているうちに、愛なんて無くなってしまっていたんだ。だから、彼女もそれに気づいて、知らないうちに俺から気持ちが離れていった。ただ、それだけなんだ。運命だったんだなあ。今は、彼女が幸せになってくれたらいいと思っているよ。今日、君に会って思った。好き同士の人間が一緒になるのが一番だ」
「そう思えるなら…」と裕子はうつむいた。こんな話をしたから、裕子にも罪悪感が芽生えたのかもしれない。
「俺は竹内さんが君を本当に愛していると思うよ。だけど已むおえない事情があって、泣く泣く君と別れる決心をした。その決心をするのは、並大抵の人間じゃできないよ」
裕子は何を話したらよいのか分からないのか、ずっと俯いたままでした。そしてまた、違うカクテルを頼んで飲んでいた。
「だから、これは受け取っておいたほうがいい」と高志はクシャクシャになった手紙とお金を渡すと、今度は受け取り、バックの中に入れた。
「じゃあ、今日、私はやけ酒です」と裕子は言うと、カクテルをぐびっと飲み干した。