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赤い髪留め 7

 こうなることは分かっていたような気がする。竹内に頼まれた瞬間から、納得なんてさせられない、そう思っていたのだから。

 高志は近くの落ち着いた喫茶店に入った。また、コーヒーを頼むとクシャクシャに丸められた竹内から裕子に渡された手紙を丹念に広げてみて、読んでみた。


****


山田裕子様


 まず、最初に手紙で気持ちを伝えることを謝らせてください。本当は会って伝えるべきだと思いましたが、感情的になったり、お互い嫌味っぽくなったり、また話している間に頭の中が混乱してしまうと思いました。また携帯電話やメールだとなんだか内容が軽くなってしまうような気がしました。だから勝手だけど手紙を書くことにしました。申し訳ないと思っている。

僕は裕子のこと、今でも愛しています。こんなに人を好きになったのは初めてです。ずっと一緒にいたいと思ったのも初めてです。本当は貴方と離れたくありません。

 しかし、最近になって会社経営が思った以上に悪くなりました。借金を抱えて、銀行やら親族や友人へ金策に走る毎日です。でも、親父から受け継いだ会社を残すために何とかこの不況を乗り切ろうと思っております。先日また、工場を2つ閉鎖して、多くの従業員を解雇しました。今となっては残り少ない従業員を何とか生活できるよう会社を立て直さなければならないという責任が私にはあります。

本当は息子に会社を任せて、自分は引退し、離婚もして裕子と暮す決心をしていたのは、前にも話したとおり、嘘偽りはありません。 

 しかし、今の状況で裕子の元に走り、会社を辞めてしまったら、経営者失格です。今の不況を乗り切ることを僕は求められているし、責任があるのです。

 正直、貴方と別れるのは辛いです。たった今、この手紙を書いている瞬間ですら、堪らなく悲しくなり、気分が落ち込んで、貴方とお別れすることに対する不安な気持ちがいつまでも消えません。考えもまとまらず、混乱しています。でも、それはただの愚痴でしかありません。

 会社を引退して裕子と暮らすために僕はお金を貯めていました。少ないけれど、このぐらいあれば後の人生何とかなるだろうと思っていました。実は会社経営が苦しく、このお金に手を出すことも考えました。しかし、これは裕子との生活のために僕個人が少しずつ貯めたお金です。だから裕子に受け取ってもらいたいのです。

 僕はもう五十歳を過ぎて若くない。いろいろ考えているうちに裕子はまだ三十代で若く美しく、将来だってある身であることを気づきました。僕は持病もあるので、そう永く生きられないでしょう。でも裕子には長生きをして、幸せになってほしい。そう願っております。

 だから、苦しいけれど、お別れをしたいと思います。

 手紙でこのようなことを伝えること、本当に申し訳ないと思っております。

 どうかお体に気をつけて、幸せになってください。

 最後に、僕は裕子の笑顔が大好きでした。だから、僕が居なくなっても、その笑顔が絶えないよう祈っております。


 竹内純一


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