赤い髪留め 5
土曜の昼に高志は山田裕子に会うためにAホテルのレストランに向かった。ホールスタッフに「お一人ですか?」と尋ねられたが、「いや、待ち合わせをしているのだが…」とホールを見渡したところ竹内に渡された写真に良く似た女性をすぐ見つけることができた。裕子は写真の通り綺麗な顔立ちをしていた。胸ぐらいまである長い髪をもち、グレイを基調にした花柄の清楚なワンピースを来ていた。化粧は薄く、だが目が大きくとても印象的だった。
高志が少し遅れてきたせいか、携帯をしきりに眺めていた。竹内が来ることを望んでいるのに、会いに来たのは俺か…、そう思うと裕子が落胆する姿が目に浮かんだ。
勇気を出して声をかけた。
「あの、山田さんですよね、竹内さんの恋人の」
「え、ええ、山田ですが」
彼女は怪訝そうな顔で答えた。
「あの、言いにくいのですが、竹内さん、今日は来られないんです。だから、代わりに、っていうのは何ですが、私が来ました」
「代わりですか…?」
裕子はますます怪訝そうに、顔をしかめた。その間、ウエイターが注文を取りに来たので高志はホットコーヒーを頼んだ。
「あの、俺、竹内さんの高校の野球部の後輩なんです、ずいぶん歳は離れていますが、竹内さんが社会人のときに指導をしていただいたんです。名前は高橋と申します」
高志はそういって、裕子の座っているテーブルの席に着いた。
「あの、竹内さん、今日は急遽仕事か何かで来られないんですか?」と裕子は尋ねた。
「そういうわけじゃないんですが」と高志は口ごもった。
「もしかして、私、竹内さんにはめられましたか?」と裕子は落胆したような小さな声で尋ねた。
「言いにくいのですが、これを山田さんに渡すようにと…、私が頼まれたのです」と高志は竹内に渡された封筒を2通渡した。
「何ですか、これは…?」
「1つは手紙なので、読んでみて下さい。」
その間に高志が頼んだホットコーヒーが運ばれてきた。
裕子は、驚いた顔で封筒を開き、手紙を丹念に読んでいた。すると裕子の美しい顔から涙が一筋、二筋、溢れ出した。
「私、こんな手紙とかお金を貰うために東京に来たんじゃないんです。」といって、手紙をくしゃくしゃに丸めた。丸めた手紙を突然、高志に投げつけた。そしてお金の入った封筒も投げつけた。くしゃくしゃになった手紙も封筒も床に落ちたので、高志はあわてて、それを拾い上げた。