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赤い髪留め 12
翌日、高志はデパートで裕子のために髪留めを買った。裕子の長い髪に映える真紅の髪留めに決めた。何か、裕子に自分の思い出を残したかったのかもしれない。
昼、ホテルのロビーで裕子に会った。二人は無言で「じゃあ、行きましょうか?」と東京駅に向かった。
新幹線の入り口で高志はデパートで買った髪留めを裕子に渡した。
「何これ?」
「あけてみて」
髪留めを見ると、「ありがとう」と裕子は少し笑っていった。喜んでくれたのだろうか?
「たまたま見かけてね、君に似合うと思って買ったんだ。」
裕子は、その髪留めを使って、髪の毛をサッとまとめた。裕子の目が赤く潤んでいた。竹内への未練なのか、俺との別れのせいなのか?俺との別れのせいであることは、ありえないのに。そう想像した。
「ありがとう、大切に使うわ」そういって裕子は手を振って去っていった。
もう彼女と会うことは無いだろう。二日間だけの恋。寂しくも切なくも思った。竹内を忘れて俺と…なんて言う資格も勇気も高志にはなかった。
帰り道の街路樹には桜の花びらがはらはらと散っていた