赤い髪留め 11
「私、悲しいけど、竹内さんのこと諦めます。でも、まだ、踏ん切りがつきません…」と裕子は泣きじゃくっていた。
高志は無意識に裕子の手を握っていた。裕子はそれを強く握り返してきた。
「今日だけでいいんです。私を抱いてくれませんか?」
「何を君は言っているんだい。本気なのかい?」
「竹内さんを忘れられないんです。匂いも身体も。私の身体の奥に染み付いているような気がします。だから、それを消せるかもしれないと思って」
高志は無言でいた。
「チェックお願いします」と裕子はホールスタッフに言った。料金は高志が払った。
「すみません、おごってもらうなんて」
「こういう場所では、男が支払うものだよ」と高志は言った。
裕子は自分のホテルの一室に高志を迎え入れた。
高志はこんなことになるとは思わず、こんなことをしていいのかも分からないまま、裕子にキスをして、裕子の趣味の良いワンピースを脱がしていた。
裕子の身体は白く美しかった。そして、裕子の身体に入ると、もっと奥に来てと、彼女は高志にせがんだ。高志は裕子の身体の奥に吸い込んでいくように、深く、深く入っていった。そして、その身体の味わいは高志が今まで感じた事が無い快感をもたらした。そして、ふと竹内を思い出すと、何故か竹内に嫉妬を感じていた。裕子は「ああ、そう、もっと」そう言って、高志を求めた。裕子は目を閉じて、高志の身体を丹念に撫でながら。目を閉じた先では裕子は竹内を求めていたのだろうか。
そして達した。
事がすんで、二人はしばらく無言でいた。
「ありがとう、これで竹内さんのことを忘れられるかもしれない」
と裕子は言った。
「俺は…、正直言うと君のことが忘れられなくなりそうだ」
「でも、私はもう、竹内さんとは関係ないの。だから、貴方とも、他人なのよ」と裕子はいった。
「そうか…」なんともいえない感情が高志に生まれた。
それとは裏腹に裕子はそそくさと洋服を着始めていた。高志も合わせて洋服を身につけた。
「君は、いつ帰るのかい。」
「明日にでも、新幹線で帰るつもりよ」
「じゃあ、見送りに言っても良いかい」と高志は尋ねた。
「いいわ、じゃあ、明日お昼にロビーに迎えに来て」と言った。そういって、部屋から高志を送り出した。
女はこうやって恋を忘れるのか?高志には理解ができなかった。高志は裕子に対する愛情が沸いて来ていたからだ。