赤い髪留め 10
「私は今、看護師をしています。2年前、私が働いていたスナックでお客さんとして来ていた竹内さんと出会いました。そのころ、私はまだ看護師を目指して勉強をしていたのですが、夜はアルバイトで場末のスナックでアルバイトをしていました。竹内さんは気さくな人で、すぐ仲良くなりました。でも恋愛関係にすぐなったわけではありません。1年ぐらい経ったころでしょうか?私が勉強とアルバイトの両立が上手くできなくて過労で倒れたことがあるのです。そのときに、竹内さんは、私の手を握って付きっ切りで心配してくれたんです。私は、お礼を言いました。そしたら“俺は君の事を初めて見たときから好きになっていた。だから、心配で仕方なかったんだ”と言いました。それからだんだん親しくなって、お互いに気持ちが通じて、自然に愛し合うようになったような気がします」
裕子にまた新しいカクテルが運ばれてきた。
「竹内さんが結婚をしていることも知っていました。でも離れられなくなったんです。私がその気持ちを伝えると“俺もだ”とそういって、会社を引退して、一緒に暮そうって言ってくれたんです」
「そうなんですか」
「私はそれを信じました。でも彼の工場も閉鎖され、景気が悪くなると会える日も少なくなりました。その時点で、私は捨てられるって恐れていたんですけど…、とうとう来てしまったんですね」
裕子の美しい顔に涙がつたって、テーブルに落ちた。