第6話 緊張状態
「私も別に君のことが嫌いなわけでもないけど。死ぬのは流石にできないね」
ルナがそういうと、エネミルは何が可笑しいのか「フッ」と鼻で笑い……。
「別に君が僕のために死んでくれるなんて思っていない。ただ、力ずくで殺すだけだ」
ルナもまた何がおかしいのか、鼻で笑い。
「本気で私の命を奪おうとするのなら、容赦しない」
俺に向けられた言葉でないとわかっていても、鳥肌が止まらない。
悪い笑みとでもいうのだろうか。それとも圧倒的な余裕とでもいうのだろうか。
もう勝ったかのような余裕をルナから感じる。
だが、怯えていても仕方がない。
俺にも何かできることはあるはずだ。
「ルナ。俺は―――」
俺は何をしたらいい?そう聞こうとした。
すると、紫の魔法陣のようなものが出現し、目の前の景色が一変する。
「なにをしたらいい?」
そう聞いた時には、目の前にはもうルナはいなかった。
どこかで感じたことのある白い光は、会社から異世界に連れ来られた時と同じ光だ。
ここはサルジニルグだろう。
辛うじてそれだけはわかる。
なぜなら、本当に何もないからだ。
何もないって理由で、サルジニルグってわかっちゃうの悲しすぎる。
とういうか遠くで、ルナとエネミルの戦闘音であろう音が聞こえてくる。
だからここはサルジニルグ。
俺は転移で飛ばされたのだ。
俺では足手まといなのだろう。
こんな緊急時でも何もできない自分をぶん殴りたくなった。
いや、ぶん殴った。
だが、こんなことをしていても意味はない。
足手まといは足手まといなりで何か行動するのだ。
地味だが一応ある俺のスキルを使って、武器かなにか作れないかを模索することにした。
あー。あー。あー!。もういいよ君。何もしなくていいから。
を言外に含む行動をとられたって、それでも働こうとする俺は、やっぱり社畜なんだなと思い知られました。
……会社関係ないけど。
社畜じゃなくて元社畜だな。
そっちのほうが表現として正しい。
でも、こみ上げてくるこの気持ちは何だろう。
社畜だったころの名残、使命感とでもいうのだろうか。
もっともっと働かないと!(使命感)
このこみ上げてくる気持ちの正体は使命感でした。
場所が変わっても、社畜だったころを思い出し、苦しめられるなんて、それはもう事件なのでは?
とういうかもう、ブラック企業被害者の会みたいのなの作ってもいいと思えるぐらいには、後遺症が残っている。
やっぱりブラック企業は滅亡してほしいな。と心から思う俺であった。
✕ ✕ ✕ ✕
よし。クロスは転移させた。
でも、転移はだいぶ体力を使うからなぁ……。
後々の戦闘にどう影響してくるか……。
私が後々あるであろう戦闘に危惧していると、エネミルが私のほうに向かって歩いてくる。
鬱陶しい、張り付けたような微笑みを浮かべた。
「美しいお嬢さん。僕は君が魔王だなんて信じられないよ」
あまりにも胡散臭い言葉に辟易する。
「それはどうも。でも私が魔王だから」
「……冷たいねぇ。ははは。面白いなあ」
何が面白いのか私には全く理解できないけれど、彼には面白く映ったらしい。
「でも、君たちに名前を教える意味はなかったかもね」
「そう?」
「だって、もうすぐ死ぬんだから」
私は右手を突き出し、魔法を唱える。
「五月蠅い。『ライジングライトニング』――――!!!」
「危ないね」
そういうと、エネミルはいとも簡単に私の攻撃を躱した。
「ねえ!そんなので僕に勝てると思ってるの?君の本気を見せてよぉ!」
エネミルは楽しそうにそう言う。
するとエネミルは勢いよく左手を突き出す。
左手?
通常魔法の行使は右手を突き出すはず……。
まさか……。
「禁止魔法⁉」
「流石、魔王。よく知っているね。そう、これは禁止魔法の一つ」
「そんなものどこで……。」
禁止魔法の使い方を知っているのは世界政府ぐらい……。
まさか!
いや、そんなこと今考えても仕方ない。
今は闘いに集中するだけ。
「これで死んだりしないよね!」
エネミルは心底楽しそうに言う。
死ぬもんか。
「『オールマジック』――――!」
オールマジック。
火、水、風、地、雷。
そのすべての基本属性の上位魔法を術式に無理やりねじ込んだ禁術。
まだ、使用される禁止魔法がこの程度のものでよかったと私は安堵する。
禁術を行使する際、
左手で魔法を使うのは、左手のほうが一回に魔力を含有できる量が多いからだ。
だが、一気に大量の魔力を体から手へ急速に移動させると体力の消耗、各臓器への負荷に加え、脳への深刻なダメージ等々《などなど》、良い部分が全くない。
麻薬と一緒だ。
だからこそ世界政府が取り決めた、世界平和維持法によって、禁止されているのだ。
だが、ひとつだけ良い点を挙げるとするなら。
「アッハッハッハ!楽しい!」
威力がものすごいことだ。
だが、禁止されているからと言って、私が使えない道理はない。
強力な魔法を打ち消す際、最も有効な手立ては何か。
それは、発動された魔法よりも、強力な魔法で相殺することだ。
毒を以て毒を制す
私もエネミル同様左手を突き出し。
「まさか、お前も禁止魔法を――――!!!」
「炎よその業火を以てしてあの男を焼き払え!『デスフレア』―――――!!!」
だが術は発動しなかった。
それどころか、眩暈がし、転倒する。
「なんで!?」
私が叫ぶも、それでこの状況が覆ることはない。
「魔力切れだね、魔法に魔力を吸われ、魔力がなくなったんだ」
いや、私の魔力はこんなものではなかったはず。
「それは君の驕りが原因だ」
「驕ってなんて……」
「いや、驕った。体力同様、魔力だって使わないと減少するばかりだ。それに始め彼を逃がしたのもいけなかったね。あれがなければ禁止魔法は発動できていた。彼見殺しすればよかったのに」
いや、違う。
私がクロスを逃がしたのは正しい判断だった。
今もの気持ちが覆ることはない
「あ、そうだ!僕がどうやって禁止魔法を知ったか教えてあげよう。僕は神から知恵を授かっているんだ」
何を言っているんだ?神は人間に肩入れしない。
「そう!偉大なる「プレッシブ神」にね」
神か。
そのプレッシブ神は世界政府が提唱している神の名だ。
合点がいった。
「じゃあね。次はまた地獄で会おう」
ああ、私は死ぬのか。
そう、死を覚悟したとき。
緊張を崩壊させる声がけたたましくなる。
「ぶっ殺すぞぉぉぉぉ!!!!!!」
その大声の主は、クロスだった。
思わず頬が弛緩する。
「なんで……」
私の目からは涙が零れ落ちてくる。
クロスの前でこんな情けない姿見せたくなかったのに。
「ん?まあ社畜はどんな時でも働くからな、自然の摂理だ。それよりどうした。大丈夫か?」
その時、なにか弓のようなものが心臓に突き刺さったような痛みを感じる、が何も刺さっていない。魔法かと思ったがそうでもない。
ドキッとした。とでもいうのだろうか。
数多くの痛みを経験してきたが……。
私は、この痛みを知らない。
クロスの言葉一つで、なぜこんな気持ちになったのか、私にはわからない。
いつか、わかるようになるのだろうか。
「うん。大丈夫」
私は自分でもわかるほど弱々しくそういった。




