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第四章第6話 魔王

魔王は、じっと莉緒を見つめていた。

その瞳は、深淵の底に沈むような黒。

感情の揺らぎは一切なく、ただ“見定める”という行為だけがそこにあった。

「ほぉ……たった二人で我に挑むか。姫がおるからという理由で、我に勝てるつもりか。愚かなことよ」

声は低く、空気を震わせるような重さを持っていた。

その言葉に、澪の指先がわずかに震える。

だが、莉緒は一歩も退かない。

魔王が、右手をゆっくりと掲げた。

空間が軋み、魔力が渦を巻く。

「よく見ておけ。これがお前たちの見る、最後の景色になるのだから」

その瞬間、空間が裂けた。

魔王の魔力が結界を張り、現実が塗り替えられていく。

周囲の景色が、ゆっくりと変化し始めた。

森の神殿は消え、代わりに広がったのは——どこまでも続く、黒い海。

波はない。風もない。ただ、静かに広がる漆黒の水面。

空には、太陽が浮かんでいた。

だが、それは黒く輝いていた。

まるで、世界の終わりを告げる鐘のように。

澪が息を呑む。「……ここは……」

「我が魔力の深層。結界の内側は、我が意志の世界。ここでは、すべてが我の支配下にある」

魔王の足元から、黒い波紋が広がる。

その中心に立つ彼の姿は、まるで神話の終焉を告げる神のようだった。

莉緒は剣を構える。

澪も魔力を纏い、隣に立つ。

「行くぞ!」

莉緒の声が、黒い海に響いた。魔王が微笑む。

そして——剣が交わった。

衝突の瞬間、空間が震えた。

黒い海が波打ち、空の太陽が一瞬だけ赤く染まる。

魔王の剣は、重く、鋭く、冷たい。

それは、世界そのものを断ち切るような一撃だった。

だが、莉緒の剣もまた——風を纏い、祈りを宿していた。

剣が交わった瞬間、空間が軋んだ。

魔王の一撃は、重さも速さも、すべてが異次元だった。

莉緒の剣は、触れた瞬間に弾かれ、身体ごと吹き飛ばされた。

「ぐっ……!」

地面に叩きつけられ、肺から空気が抜ける。

それでも、莉緒は立ち上がった。何度でも。何度でも。

「まだ……終わってない……!」

再び剣を構え、魔王へと突撃する。

だが——

「遅い」

魔王の剣が、莉緒の剣を弾き返す。その衝撃だけで、腕が痺れ、膝が崩れた。

——まるで、相手にならない。

澪が叫ぶ。「莉緒!」

魔王は、静かに言った。

「こんなものか。残念だ。死ね」

剣を振り上げる。その刃には、終焉の気配が宿っていた。

「やめろ……!」

澪が魔法を放つ。風が巻き、光が走る。

だが——魔王は微動だにしなかった。

「鬱陶しい。お前から殺してやる」

魔王が澪に向かって歩き出す。その一歩ごとに、空気が重くなる。

「やめろーっ!」

莉緒が叫ぶ。だが、身体は動かない。

魔王の威圧が、空間そのものを縛っていた。

澪が魔力を纏い、構える。

だが——

魔王の拳が、澪の顔にめり込んだ。

「……っ!」

澪の身体が宙を舞い、神殿の柱に激突する。

血が、空中に散った。顔から流れる赤が、白い衣を染めていく。

「澪っ……!」

莉緒の叫びは、風に飲まれて消えた。魔王は、静かに澪を見下ろしていた。

「姫とて、無力。お前たちの希望など、所詮は幻想」

その声は、冷たく、静かで、残酷だった。

——勝てない。

——何をしても、届かない。

——これが、“魔王”。

澪は、血を流しながらも、目を開けていた。その瞳には、まだ——光が宿っていた。

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