表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
商人貴族に同情されて婚約しましたが、わたしは家事が大好きです  作者: 畑中希月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/44

第16話 リーヴァリートの疑問(前半ザイラ視点/後半リーヴァリート視点)

 ザイラ・パトリツィア・ディ・ラヴィトラーノは、年頃の貴族の子女が中心に集まる舞踏会に参加していた。いわゆる婚活パーティーである。


 今日のお目当てはただ一人。【ヴァルツィモアの八頭の獅子】に数えられる名家・コルヴィアーニ家の跡取り息子だ。

 コルヴィアーニ家は代々、元老院議員を輩出している家柄で、オルランド家にも引けを取らない。


 令嬢たちと挨拶を済ませたザイラは、跡取り息子に近づいていった。

 跡取り息子はザイラに気づくと一瞬周囲を見回したが、手を差し出して甘くほほえむ。


「ザイラ嬢、わたしと踊っていただけませんか?」


 踊り終えたザイラはいい気分になって、友人の令嬢たちに自慢して回った。


(これで、コルヴィアーニ家との縁談がわたしのもとに舞い込んでくるかも……!)


 有頂天になったザイラは、ローズウォーターの入ったグラスを手にテラスに出た。友人たちも出会いを求めるのに忙しく、ザイラとの話を切り上げ、踊りにいってしまったのだ。


「お前はモテるから羨ましいよ」

「家柄のおかげもあるからね。コルヴィアーニ家に生まれたのは幸運だったよ」


 コルヴィアーニ家の跡取り息子の声だ。意中の相手の立ち話に興味をかれたザイラは、気づかれないように彼らに近づいていった。

 跡取り息子の友人である貴族令息が尋ねる。


「で、誰が一番いい女だった?」

「ラヴィトラーノ家のザイラ嬢はダメだね。美人だけど、個性的な美人すぎてアクが強い」


 自分が意中の相手の専門外だったことを知り、ザイラは愕然がくぜんとした。


(な、なんですって……!)


 跡取り息子は話し続ける。


「正直に言えば、彼女が時々連れているメイドののほうが好みなんだよねえ。愛人にしたいくらいだ」

「ああ、あの娘か! ストロベリーブロンドの。確かに可愛いよな。ザイラ嬢と違って純情そうだし」


 エメルネッタのことだ。ザイラは歯()みせずにはいられなかった。


(あの娘は目の前からいなくなってもわたしの邪魔をして……!!)


 有頂天から一転、その日はオルランド家での「あの日」と同じく、ザイラにとって最悪な日となったのだった。


   ***


 最近、掃除係メイドをはじめとした、使用人たちの仕事の効率と仕上がりが向上しているそうだ。

 家令のエルモからも執事長からも、そう聞いている。


(しかし、なぜ突然……?)


 リーヴァリートは首をかしげた。

 どうも、そういう事態(喜ばしいことだが)になったのは、エメルネッタがオルランド家に来てからのようだ。


 確かにエメルネッタはラヴィトラーノ家でメイドをしていたわけだが、オルランド家でメイドの仕事をしたのは、わずか数日だったと聞いている。

 だから彼女がメイドの仕事をしたことで、他の使用人たちに何か影響を与えたとは考えづらい。

 考えづらいのだが……何かが引っかかる。これは、リーヴァリートの商人としての勘のようなものだ。


(直接、使用人たちに聞いてみるしかなさそうだな)


 エメルネッタに直接聞くのは、彼女を疑っているようで申し訳がない。たとえいい影響でもだ。婚約者同士で余計な波風は立てないに限る。

 ……という、少し後ろ向きな理由でリーヴァリートは使用人たちに聞き取りを始めた。


 メイド長のクローエに理由を聞くと、少女のようにいたずらっぽくほほえむだけで、答えてはくれなかった。

 絶対に何か知っているが、仕方ない。末端の使用人たちに直接話を聞いてみるしかないだろう。まずは、真っ先に報告に上がっていた掃除係メイドからだ。

 若い女性でも、自分に危害を加えてくることのない顔見知りなら、リーヴァリートは比較的普通に話せる。


「エメルネッタさまから【魔法の粉】を頂きました」


 メイドの詰め所を訪れたリーヴァリートに、掃除係メイドたちは口をそろえて言った。


「【魔法の粉】……?」


〝なんだそれは〟と思ったリーヴァリートが尋ねると、掃除係メイドの一人が補足した。


「汚れがよく落ちる不思議な粉です。何種類かあるのですが、洗濯係メイドも使っておりますし、厨房係も使っておりますよ。銀食器の管理係も喜んでおりました」


 エメルネッタはどこでそんな粉を手に入れたのだろう。


(そういえば、結婚契約書のサインを終えて、ラヴィトラーノ邸を去るときに、エメルさんは屋根裏部屋から革袋を持ち出していたな……あれが【魔法の粉】だったのか?)


 興味を持ったリーヴァリートは、洗濯係メイドや厨房係、銀食器の管理係のもとも訪れ、直接話を聞いた。

 皆、【魔法の粉】をありがたがっており、エメルネッタに感謝していた。手持ちの分が少なくなってきたので、新しいものが欲しい、という陳情すらあった。

 実物を見せてもらったが、外見はなんの変哲もない白い粉だった。

 家事に関する粉、というところは実にエメルネッタらしいが、問題は入手先だ。


(商売の役に立つかもしれない)


 そんな商人根性と純粋な好奇心から、リーヴァリートはさらに聞き取りを続けることにした。


「エメルネッタさまが【魔法の粉】をどうやって手に入れられたか、ですか?」


 次にリーヴァリートが向かった先は、エメルネッタ付のメイド、ロミーナのもとだ。彼女はエメルネッタの寝室で、アクセサリーの手入れをしている最中だった。

 奉公を始めて日が浅いうちに配置換えされたにもかかわらず、ロミーナの仕事に対する意欲は高いようだ。表情がやる気に満ちている。

 ロミーナは誇らしげに言い放った。


「【魔法の粉】は錬金術の産物だそうです。エメルネッタさまは錬金術をお使いになれるそうですよ!」


 そのセリフの直後、少し不安げな顔をする。


「あ……これはエメルネッタさまから『ロミーナにだから言いますけれど』と前置きをされていたのでした……でも、旦那さまに話す分には構いませんよね?」


「錬金術」と聞いて、リーヴァリートは驚いたが、表面上は商談で鍛えた冷静な顔を保ってみせた。


「他言はしないと約束しましょう。あなたもわたし以外の者には口外しないように。……ところで、エメルネッタさんはどこで錬金術を学んだか言っていましたか?」

「そこまでは……申し訳ございません」


 リーヴァリートはロミーナにお礼を言って、エメルネッタの寝室を出た。

 廊下を歩きながら、リーヴァリートはエメルネッタが錬金術を使える、という話について考え続けた。


(あれほど劣悪な環境で育ったのにもかかわらず、錬金術を学んだ……?)


 この国では、錬金術師になるためには高度な教育を受けねばならない。裕福な家庭だと、才能のある子どもに家庭教師をつけたり、陸上領土テッラフェルマの大学に行かせたりと、とにかく金がかかる。

 どう考えてもエメルネッタの継母・ドミッティラがそんな教育を虐待していた継娘に受けさせるとは思えない。


(別の角度から考えてみよう。エメルさんの祖父君は錬金術に傾倒していたと聞く。本は資産だ。錬金術に関する本がラヴィトラーノ家に多く残っていたとしても不思議はない)


 ただ、独学で錬金術を学ぶには、とてつもない才能と勉強に対するノウハウが必要になる。

 正直、半信半疑ではある。エメルネッタはちょっと突飛なところはあるが、賢い女性だとは思う。その代わり、才走ったところはないから、完全に見誤っていた。


(それにしても、家事の役に立つ粉、か……)


 今までに錬金術によって生み出されたものすべてを詳しく知っているわけではないが、家事に役立てるために発明された品など、聞いたことがない。

 ということは、【魔法の粉】はエメルネッタのオリジナルなのだ。家事に対する情熱が、彼女を錬金術に向かわせたのだろうか。


 非常にエメルネッタらしいと思うが、錬金術を使えることをロミーナには話して自分には話さないことに、どんな理由があるのだろうか。

 そう思うと、なぜか胸がチクリと痛んだ。


「彼女が自分から言ってくるまでは、根掘り葉掘り聞かないでおこう」


 わざわざ声に出したのは、気持ちを鎮めるためだったのかもしれない。心の痛みを押し殺すように、リーヴァリートは決めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ