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商人貴族に同情されて婚約しましたが、わたしは家事が大好きです  作者: 畑中希月


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第15話 彼の継母(後編)

「リヴァの母親は彼を出産したときに亡くなりました。当時オルランド家の跡取りだった俺の兄――つまりリヴァの父親ですね――は、その一年後には後妻を迎えました。バジーリアです。当主だった俺の父を含めた周囲は、『せめてリヴァが物心つくまで待てないか』と止めたのですが、兄は『早く再婚したほうが両親共にそろっていて、リーヴァリートのためになる』と言って聞かなかった。まあ、我が兄ながら女好きなところがありまして」


 この時点では、リヴァさまのお父君と祖父君をはじめとした周囲の人たち、どちらが正しいのかはわからなかったわけだ。けど、結果的に周囲が正しかったということなのだろう。


「その当時、この家にはリヴァにとっては祖父母に当たる俺の両親と兄一家、そして俺が暮らしていました。嫁いできたバジーリアは、全くと言っていいほどリヴァに興味を示しませんでした。我が家に嫁いできたのをいいことに、毎日遊び暮らしていたのです。兄もそんなバジーリアをたしなめるでもなく、日を追うごとにリヴァへの興味を失っていきました。リヴァを育てたのは俺の両親と乳母です」

「ということは、アルマンドさまはリヴァさまの叔父さまというよりは、お兄さまのようなものなのですね」


 わたしがそう言うと、アルマンドさまは照れたように頬をかいた。そういう仕草もリヴァさまとよく似ている。


「まあ、そうですね。リヴァとは歳も八歳しか違いませんし。まだ小さかったリヴァの遊び相手になることも多かったですね。話を戻しますが、バジーリアが嫁いできてから、我が家では分断が起きました。俺とリヴァを含めた当主一家と兄夫婦との間に亀裂が走ったのです。父は孫であるリヴァをいない者のように扱う兄に怒り、『あんな奴を跡取りにはしておけない。リヴァを跡取りにする』と友人たちにもよく話していたようです。残念ながら、ヴァルツィモアの法律ではそれはかなわないので、せめてオルランド商会の実権だけでもリヴァに譲れるように、と父はリヴァの教育に心血を注いでいました」


 それは……相当リヴァさまにとって過酷な環境だったろう。祖父母と叔父が愛情を注いでくれたとはいえ、実父からは無視され、一家が分断される原因を作った継母は遊び回っている。

 父からは期待されず、継母と義姉にいびられ続けたわたしとどちらがマシだったのか。


「父の教育は厳しいものでしたが、リヴァはそれによく応えていました。四年前、今までの付けを払うかのように、兄が急死し、父はリヴァをオルランド家と商会の正式な後継者としました。そして、バジーリアを別邸に追い出したのです。ところが、リヴァが跡継ぎになって安心したのか、両親共に立て続けに亡くなり……俺よりもはるかにリヴァのほうが悲しんでいました。『なんの孝行もできなかった……』と……」


 アルマンドさまも悲しそうな顔をしている。

 リヴァさまもだけど、アルマンドさまもいい方だなあ。

 だって、ご自分は傍系だから跡取りになれないのに、不平を漏らすこともなく、リヴァさまの後見人まで務めている。しかも、こういう本人にとってはつらい話をリヴァさまの代わりにわたしにしてくれたのだ。


 リヴァさまのお父君が残念な人だっただけで、きっと先代のご当主夫妻も善良な方々だったのだと思う。

 そこまで考えて、わたしははたと気づいた。


「もしかして……リヴァさまが女性不信になられたのは、バジーリアさまのせいですか?」


 バジーリアという人に「さま」をつけるのは、今ではいかがなものかと思うけど、それ以外に呼びようがないので仕方ない。うん、心の中では呼び捨てにしよう。

 アルマンドさまは困ったように眉を下げて笑った。


「気づかれましたか。そうなんです。リヴァは『金目当ての若い女』に嫌悪感を抱いています。もっとも、バジーリアはすでに三十九のおば……いや、失敬」


 まあ、同性の自分でもそう呼びたくなる気持ちはわかる。


「ただ、母や乳母には懐いていましたから、すべての女性が嫌いだというわけではないんです。婚活している女性とは、相性が最悪だったというだけでね。事実、エメルネッタさんには普通に接しているでしょう?」

「はい。とてもよくしていただいております」


 わたしは実感を込めてそう答えた。

 リヴァさまはわたしに冷たい言動や態度を一度だってとったことはない。むしろ、穏やかな優しさをくれた。

 アルマンドさまはうれしそうに笑う。


「そうですか。そう言ってくださるあなたがそばにいることで、リヴァもいい方に変わっていくのではないか、と俺は思っていますよ。並の女性なら、『愛してくれない』と不満ばかりが先立って、あいつのいいところがわからなくなってしまうでしょうから」


 そこまで言われてしまうと、ちょっと胸の奥がくすぐったい。

 わたし、もっとリヴァさまに近づけるのかな……? 彼のそばじゃなく隣にいられるくらいに。


 わたしの様子をほほえみながら見守っていたアルマンドさまが、表情を引き締めた。


「エメルネッタさん、バジーリアには気をつけてください。彼女があなたに会いに来るようなことがあっても、絶対に二人きりで会ってはいけません。バジーリアは本邸を追い出されたことで、元々疎んじていたリヴァを恨んでいます。リヴァの婚約者であるあなたにも何をするかわかりません」


 わたしも真剣な顔でうなずく。


「はい。気をつけます。ご忠告、ありがとうございます」


 それからアルマンドさまは、奥さまとののろけ話をして、帰っていった。

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