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商人貴族に同情されて婚約しましたが、わたしは家事が大好きです  作者: 畑中希月


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第14話 彼の継母(前編)

「皆さん、仕事や待遇面で困っていることはありませんか? 例えば、こういう道具をそろえてほしいとか、もっと休憩時間が欲しいとか、食堂の料理をもっと充実させてほしいとか」


 今、わたしはオルランド邸の使用人用の食堂で、席に着いている。

 使用人たちをバックアップすると決めた以上、彼らの労働環境を改善するのもわたしの務めだ。


 わたしが掃除係メイドたちに渡した、お掃除便利グッズの評判が他の使用人たちにも広まったせいもあって、ありがたいことに皆、わたしの話に耳を傾けてくれている。


「そうですね……。休憩時間は足りていますけれど、選べる食事がもっと増えたほうが、仕事にも張りが出るかもしれません」

「道具といえば、床掃除がもっと楽になる道具があればいいのですが。【魔法の粉】のおかげで、油汚れや皮脂が楽に落ちるようになったのですけれど、こぼれた水を拭く場合は、雑巾を使うしかないのが少し手間で」


 ふむふむ。前世で使っていたモップが作れればいいのかな。この館にも似たような道具はあるし、わたしも使っていたんだけど、吸水性は重視されておらず、もっぱら汚れを拭く道具として使われているのだ。

 これはちょっと素材を工夫すれば、作れるような気がする。

 わたしは脳内にメモを取りながら、彼女たちの話を聞いていく。


「ところでエメルネッタさま、その御服ごふく、とても素敵ですね」

「わたしもそう思っておりました。旦那さまはエメルネッタさまのことを大切になさっているのですね」

「ありがとうございます!」


 わたしが今着ているのは、館で過ごすときに着用する部屋着だ。リヴァさまが何着も仕立ててくれたおかげで、こうしておしゃれができている。


「そうでしょうそうでしょう」


 声がした後ろを振り返ると、わたし付のメイドとなったロミーナが得意げにしている。


「バジーリアさまが別邸に移られて本当によかった」

「そうそう。あの方がいたら、『嫁は清貧に徹しなさい』とかなんとか言って、ろくでもないことしかなさらなかっただろうから」

「バジーリアさま……?」


〝誰のことだろう?〟と思い、はたと思い出す。そういえば、リヴァさまには継母がいたはず。「嫁」という単語が出てくるからにはその人ではないだろうか。

 メイドの一人がわたしの問いに答えてくれた。


「バジーリアさまは、旦那さまの継母でいらっしゃいます。今は別邸にお住まいになっていらっしゃるので、ほとんど本邸と交流はございません」


 確かアルマンドさまは、リヴァさまの家族といえるのはご自分たち夫婦だけ、と言っていた。それに併せてほとんど交流がないということは、リヴァさまとバジーリアさまは仲がよろしくないということだろう。

 リヴァさまも継母と相性が悪いのね!

 親近感を覚えたわたしは、もう少し事情を知りたくなった。


「もうずっとそんな状態が続いているのですか?」

「はい。先輩たちの話を聞くかぎり、旦那さまがご幼少のころからバジーリアさまとの仲は悪かったそうですから」

「何かあったのですか? それとも、継子だからという理由だけで、リーヴァリートさまがバジーリアさまに疎まれていたとか?」


 うち(ラヴィトラーノ家)がまさにそうだった。が、この質問にメイドのみんなは答えにくそうな顔をする。


「……あー、そうですね。わたしもそのあたりのことについては詳しくないのですよ」

「わたしも同じく。古参の使用人なら、存じているかもしれませんが」

「そうですか。それなら仕方ありませんね」


 どうやら触れてはいけないことだったようだ。わたしは話題を変え、しばらく使用人たちと話してから食堂を出た。

 後ろを歩くロミーナに尋ねてみる。


「ロミーナはリーヴァリートさまとバジーリアさまの対立について、何か知らない?」

「あ……申し訳ございません。わたしはこちらにお勤めするようになって日が浅いので……」

「そう。気にしないでくださいね。少し興味があっただけですから」


 階段を上って三階に行く。自室を目指して廊下を歩いていると、向こうからアルマンドさまがやってくるのが見えた。彼はわたしに気づくと手を挙げる。


「やあ、エメルネッタさん。今さっき、お部屋に伺ったんですが、留守だったので捜そうと思っていたんです。ちょうどよかった」


 アルマンドさまはよくオルランド邸を訪れる親戚なので、わたしは軽く上半身を傾けるだけの挨拶をする。


「それはお手数をおかけしてしまうところでした。何かお話でも?」

「ええ。実は……」


 アルマンドさまはわたしに近づいてくると、潜めた声で言った。


「リヴァとその継母のことについて、お話ししておきたいと思いまして」


 わたしは息をんでから応える。


「……かしこまりました。よろしければ、居間に向かいましょうか」

「居間にはリヴァがいるので、応接室にしましょう」

「はい」


 ついさっき疑問に思ったことの答えが得られそうだ。ただ、あまりにもタイミングがよすぎて、少しドギマギしてしまう。

 応接室は二階にある。わたしたちは階段を下り、応接室に向かった。

 応接室に入ると、わたしはロミーナに香草茶ハーブティーれてきてほしいと頼んだ。


 わたしとアルマンドさまは向かい合って座る。

 これから語られるのは、使用人たちも話したがらないリヴァさまとバジーリアさまの因縁だ。わたしは背筋を伸ばした。

 アルマンドさまは端正な唇を開く。


「さて、何から話したものでしょうかね。エメルネッタさんはリヴァとバジーリアの事情を、どの程度ご存じですか?」

「申し訳ございませんが、お二人の仲が悪くて、バジーリアさまが別邸にお住まいだということしか存じておりません」

「ふむ、そうですか。これは最初から説明が必要だな」


 ロミーナが銀のトレイに載せた香草茶を運んできた。わたしはお礼を言って彼女に下がってもらう。

 アルマンドさまは再び唇を開いた。

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