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⑦ オリオン座は高く歌い 露と霜を落とす

少年は空を見上げ星を、グズカの光を見つめていた。

大きな目には確かにグズカの光は届いていた。

星を掴もうと手を伸ばすが、その手は金属の骨格が見えた。

少年はふと、自分がなぜ生まれ、なぜここにいるのかと考える。

その口元は、少しだけ笑った。


少年は橋の上から、 列車の前に舞い降りた。

寒さをしのぐためにかぶっていたぼろ切れが、白く、天使の羽のように飛んで行った。

運転手は、力一杯にブレーキをかけるが、意味はなかった。

涙まみれの目は、止まる事を祈る。だが…それも意味はなかった。

少年の視線は、最後の瞬間を見ないように伏せられていた。


鉄の塊が、

少年を跳ねた。


車輪は止まった。

列車は悲鳴のような音を上げて止まった。

進行方向の二つのトンネルから人々が駆け寄る。

少年だったものは、原形すらなかった。

白い、何かに濡れた金属や人工的皮膚が、鎖のようにブレーキに巻き付いた。

それはもう少年ではなく、何か別のものになっていた。



同じ夜、別の場所でもよく似た少年が空を見上げた。

その目は偶然にも流れ星を見た。

それを満足げに見ると、少年は発電機の扉を開ける。

何かの文字で、触っていけないと危険を知らせる看板は

風に揺れて小さく音を立てた。

だが、その音さえ少年には聞こえなかった。


両手で発電機を撫でると、流れた電気は体を突き抜けいく。

少年は光った。夜空から星が落ちてきたように。

誰もいない所で、ただ光っていた。

轟音…赤いランプ…警報…すべてが危険を伝える。

遠くで何かの扉が開く。中から煙と共に作業員が咳き込みながら出てくる。

そして、少年は夜空を仰ぎ光るのをやめた。

「この光は届くだろうか」

小さな声が、ほんの一瞬だけ、聞こえた気がした。

夜でもはっきりと見える、人の影だけが残った



ロンドン地下鉄、ニューヨークの発電所、モスクワの工場。

突如現れ、光と轟音と共に消える少年たちの自殺事件。

その正体は、少年の姿をしたアンドロイドの自壊だった。


突然現れて自壊を繰り返す姿は混乱そのものだった。

神の使いか、悪魔の化身か、そんな噂がすぐに立ち、人々は怯え、ある者は祈った。

人類は星の形を変えるほどの力を持ちながら、痛み止めの代わりとして、

自分の信じる神に、すがっていた。




ここ三鷹水系でも、道端で何かに祈る姿が珍しくなかった。

見ることも触れることも出来ない、それでいて確かな痛みを、

祈る事で少しでも減らそうとする人々。

いつの間にか増える路上の花束。

あの花が枯れても、痛みが消える事はない。


「ユウトさん、あの人はなぜうつむいている?」

ユウトは知っていた。 人々は色々な穴を持ちながら生きている。

もしすべて足せたのなら、この三鷹水系の巨大な大穴も超えてしまうほどの穴。


「そうだな…」

ユウトの目の前には水たまりに映った星空があった


「……流れ星…流れ星がな。水たまりに落ちないように見てるんじゃないか」

オリオンの手を改めて握る。


「ほんとだね、水たまりに星が映ってるね。僕、流れ星見たことない。流れ星…見てみたいな」

水面に映る星空で、流れ星を探した。

後ろから一台の車が、二人の横を通り過ぎた。


「コラ、下ばかり見ていると、いつか怪我するぞ」

「じゃ空を見ればいい?」

「違う。男だったら前を見ろ。…仕方ないな、見に行くか、流れ星」

「うん、みてみたい!」

オリオンの心が沸き立つ。

その瞬間、後ろで水たまりがはねた気がした。

二人は泥水で濡れながら、遠ざかる車を見ていた



「………前見ててもだめだね」

「………帰ったらまず風呂だ」



俯いて歩く人々が濡れた少年の姿を見ていた。


今回は、天使は地上では生きられず、

自ら地獄へ向かうしかない——

それは無垢ゆえなのか、それとも別の理由なのか。

そんな物語でした。


次回は、より地上に近い話に戻ります。




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