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⑤ 神は何も答えない  ―祈りの残骸―

国立天文台がまだ東京の西で光を集めていた時代、

知の地平線を拡げようとする科学者たちは、日夜研究を続けていた。


GZKの限界。

光が宇宙空間を進むうちに、消失する距離を調べる研究があった。


水はどこまで流れるのか、風はどこまで流れるのか、

では光は…どこまで流れるのか。

その疑問に、太陽系の端から地球に向かって光を放つ実験が計画された。

新たに建造された大型の宇宙ステーションは、十七年という航路の長さに

乗員はゼロだった。


当時最強のAIに任され、ありとあらゆる実験室を結合した巨大宇宙ステーションは

希望を乗せて地球を離れていった。



AIの名は実験のちなみ「グズカ」とされた。


グズカはたったひとり、宇宙という大海原を音もなく進んでいった。

栄光と、希望を乗せて。


地上に残った研究者たちは幸福だった。

自らの科学が、人類の明るい未来を照らすと信じていた。

国も莫大な予算を投じ、その後押しをした。


ほどなく、衛星軌道には従来の兵器を束にしても敵わない、強力な兵器の配備を始めた。


―賢者の杖。

衛星軌道上から見えない爆撃を行う光の兵器。

放射能汚染のない、すべてを灼き尽くす兵器。

それは核を超えた抑止力となった。



人類は核の傘から杖に持ち替え、時代は新たな冷たい戦争を迎える。

戦争の冷たさはグズカには届くはずもなかった。 


その頃――地上では、宇宙の旅のことなど誰も気に留めていなかった。

ユウトは一八才を迎え、志願兵として兵隊の服に身を包んでいた。

若き兵士の目には、戦場という冒険と栄光しか見えていなかった。

空っぽの若い兵士たちは、ただ訓練に勤しむだけで、

グズカのことが話題にのぼることはなかった。



兵士たちは言った。

杖は“狙われた”という光だけで反撃するらしい。

本物の攻撃じゃなくても、照準の煌めき一つで。

だから敵も手が出せず、俺たちは守られている――と。

眠ることも、休むこともない。

光にだけ反応して働く全自動の報復装置は、

兵士たちに“静かな戦場”をもたらした。


光に怯える兵器。

光で通信するグズカ。


その二つが出会ってしまうなど、誰も考えなかった。


緊張が続く中、人々は宇宙の小さな実験のことなど忘れ去っていった。


忘れ去られたその実験のために、グズカは経過報告として地球へ暖かい光を放った。


その光は確かに届いた。

だが最初に反応したのは、衛星軌道上の賢者の杖だった。

その祈りにも似た光は、

“照準の煌めき”

と誤認された。



自動報復装置は、迷いなく反撃を始めた。


宇宙から光が差す場所――

それはグズカの故郷である三鷹の国立天文台データセンターだった。


知るよしの無いグズカは壊れたテープのように、何度も光を送った。

同じ時間に同じ光で。

それは祈りだったのかもしれない。


グズカは任務の完了することも出来ず、

仕事の終わりを誰にも告げられず、

ただ、毎日祈った。


そのたびに、同じ時間に同じ場所へ。

かつて三鷹だったその地に、光が降り注いだ。


グズカには知る由もない。

祈りに対して神が答えない理由さえも。


一年、また一年。

記録は反応なしという文字で埋め尽くされ、もう書き込める領域は完全になかった。

その日を境にグズカは祈りをやめた。


そして三鷹だった場所への不可解な攻撃も、何度も繰り返される攻撃も止まった。

誰が最初の引き金を引いたか、誰も分からないまま、大戦は終わった。

その引き金が何だったのか、気づかないまま。


グズカには分からなかった。

祈りが届くたび、地球が溶けていくことを。




寒いほどの孤独にグズカは一つの結論にたどり着く。

誰にも届かないなら。

誰にも伝わらないなら。


伝わる方法を作ればいい。


グズカが管理する宇宙ステーションは数年ぶりにフル稼働となった。

さまざまな角度での思考、想定、実験、実証が始まった。




…神様。どうか、私の祈りを聞き届けてください。



神を失った後、作り手が神を作った場合——

神を作った瞬間、作り手自身が神になるのではないか。

そんな矛盾が、静かに芽を出す回でした。


今回のテーマは「創造と責任」。

作ったものに心が生まれたとき、誰がその心の“親”になるのか。


次回は、天使の話になります。

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