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エピローグ 世界は杖を失っても、一歩ずつ進んでいた。

夜はあけた。星空は消え去り、太陽が現れた。

ユウトは動けなくなったアンドロイドを一人ずつ助け出し、廃墟を後にした。

太陽と共に、また暑い朝がやってきた。



ある家の前につくと、躊躇いがちに何度かノックした。

すると、眠たそうなアロハが頭をかきながら出てきた。

「誰かと思ったらお前かよ。てか、ガキがいるって聞いていたけどよ、なんか多くね?」

「大家族なんだ」

ユウトは遠慮がちに笑った。


アロハは血だらけのユウトと、汚れたアンドロイドたちを見て小さくため息をつき、家の中に向かって叫んだ。

「かーちゃん! 飯と風呂の準備! あと救急セット!」


アロハの家の風呂は順番待ちの列ができた。



三鷹水系。

あの夜から、世界は少しずつ形を変えはじめていた。

世界はあれから少しばかり優しくなった。

依然として復興が進まない町に、少しばかりの変化が訪れていた。

アロハはアンドロイドたちと復興事業を請け負う会社を立ち上げた。

宙に浮いていた復興資金は、ようやく使われる場所を見つけ、三鷹水系の復興は進んでいた。


あの夜に破壊された小さいアパートの解体も進んでいた。

解体するのはアンドロイドたちと、オリオン、そしてユウトだった。

アンドロイドたちも、あれから必死に働いていた。

サイズの合わないヘルメットとツルハシをもって、日々働いた。

ツルハシをふるうたびに、ずれたヘルメットの位置をなおす、そんな他愛ない姿が三鷹水系の日常になっていた。


街に残された残骸も廃墟も、元の姿を取り戻そうとしていた。



ときおり、三拍子の老人が差し入れをもって訪ねてきた。

老人を見つけると、アンドロイドたちは作業を止め、彼に抱き着いた。

宙を舞うヘルメットが軽い音を立てていた。

アンドロイドたちに抱き着かれ、よろけそうになるが、老人は嬉しそうな声を上げた。

少し遅れてやってきたユウトと、オリオンも揃って頭を下げた。




痛みを知って、人は優しくなる。



それは世界も同じだった。

空から賢者の杖が失われたあと、戦いの熱はゆっくりと、それでいて確かに地球から失われていた。


人々は、いつのまにか視線を空に縛られていたことに気づいた。

視線を空から戻せば、敵対していた国もまた傷ついていた。

自分の傷も、敵対していた相手の傷も、見ないようにしていた世界の傷を初めて見つめなおした。


いくつかの国で停戦や和平が行われたと、新聞の片隅に小さく書かれていた。




世界は杖を失っても、一歩ずつ進んでいた。




新聞を他のごみと一緒にオリオンがまとめていた。

ユウトは日用品を三輪車に積み込んでいた。

不格好ながら荷物を積み終わると二人は車に乗り込んだ。

アパートはきれいに更地にされ、その面影はない。

二人で暮らしたあの部屋があった位置を見つめていた。


運転席の窓ガラスをアロハがノックした。

「いくのか」

「ああ」

「餞別だ、もってけよ」

いつものタバコを差し出すが、ユウトは苦笑いで返した

「いや……もう痛いのは十分だ」

「ちげーね」


走り出した車からオリオンが乗り出しアロハに手を振った。

アロハも気恥ずかしそうにそれを返した。


二人は旅に出た。

誰かの手を、今度は自分たちが差し伸べるために。

まだ見ぬ兄弟たちを迎えに行く旅に。




アクセルを踏むと快調なエンジン音が町の中に響いた。

このエピローグで物語は終わります。


書いているうちに、自分が誰に、何に肩入れしているのかにも気づきました。



肩入れした存在に、悪役としての必要なたたずまいを与えても自分の中でしっくりこない。

作品とは別に、優しくなってしまうことがありました。


突き詰めると、誰かに悪役を背負わせることすらも気の毒と思ってしまいました。


それも含めて、この物語、この最終回、このエピローグだったのだと思います。


最後まで読んでくださったあなたに、感謝します。


感想などあれば励みになります。

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