婚約破棄されましたが、ワイルドな辺境領主を旦那にして見返してやりますわ
王子が婚約破棄を告げる。
「エリザベス。おまえとの婚約は破棄する」
王子の隣に立つノルズサ伯爵令嬢は勝利の高笑いをする。
「ほほほほほほほほほ。敗北者はとっとと出ていってくださいませ」
「何故ですか?突然の婚約破棄なんてあんまりです」
と、問いかけてくるクレラ伯爵令嬢に、王子は答える。
「僕のペットのチャールズ君と、おまえのペットのエリザベスとでは釣り合いがとれていないからだ」
「王子のペットのチャールズ君の婚約者の座には、私のペットのミケがふさわしいってことですわよ。あなたのペットのエリザベスはもう用済みってことですわ。ほほほほほほほ」
高笑いするノルズザ伯爵令嬢。
ペットの猫達は、飼い主達のいさかいには関せず、仲良くじゃれあっている。
歯ぎしりしながら悔しがるクレラ伯爵令嬢。
自分のペットの猫のエリザベスを抱いて、捨て台詞を吐く。
「おぼえてらっしゃい」
王国の辺境地。
一日の執務を終えて、辺境領主は静かな時間を楽しむ。
自然の音を楽しみながら、ゆったりとワインを味わう辺境領主。
その静けさを、打ち破る訪問者。
「おら。辺境領主でてきなさい!」
猫のエリザベスを抱いたクレラ伯爵令嬢が、辺境領主の部屋に乱入してくる。
獣人族の巨体の辺境領主を見て、クレア伯爵令嬢は目を輝かせる。
「ふさふさ。ふさふさ。ふさふさじゃないの」
無遠慮に獣人の辺境領主の身体にさわりまくる。
「さわるのをやめてくれないか。我ら獣人族にとっては無礼な行為だぞ」
「私はあなたより偉いのよ。黙ってさわらせなさい。ふさふさ。ふさふさ。いいじゃないの。あなた、私のペットの猫のエリザベスと結婚しなさい。断ったら辺境領主をクビにするわよ。これで勝てる。これで王子達を見返してやれるわ」
辺境領主はクレア伯爵令嬢の頬を軽くビンタする。
「君は獣人族の誇りを踏みにじる発言をしたんだ。それに、君はペットを自分のつごうのいい道具としか見ていない。そんな人間がペットを飼うべきじゃない」
クレア伯爵令嬢はうつむく。
そして、
泣きわめく。
「そんな正論は聞きたくないのよ。私は偉いんだから。あなたなんかすぐクビにできるんだから。明日また来るからね。ばーかー」
猫を抱いて出ていくクレア伯爵令嬢。
一緒にやってきたクレア伯爵令嬢のお付きのメイドが、いなくなった主人に代わって頭を下げる。
「ご迷惑をおかけします」
「あの子はいくつなんだ?」
「十八になります」
「まるで十歳ぐらいの駄々っ子じゃないか」
その言葉を聞き、メイドは目元をぬぐう。
「ようやくなんです。クレア様がおふざけをできるようになったのは」
涙は止めらず、メイドの頬を伝わっていく。
「十年前の流行り病で、国王様をはじめ中央政治に関わる大人が全員亡くなりました。王子をはじめ、クレア様、ノルズサ様、その他の貴族の子供達が、国のトップとして運営をしていかねばならなくなったのです。クレア様はまだ八歳でした。この十年間、冗談ひとつも言う余裕もなく、あの人達は働いてくれたのです。経済を安定させ、外交での地位を取り戻し、信用できる者たちに任せられるシステムを作り上げた。ようやくなんです。クレア様たちが、ふざけられるようになったのは」
メイドは辺境領主に深々と頭を下げる。
「許してくれとは言いません。ですが、クレア様にはそんな事情があることだけは知っていてください」
辺境領主はため息を吐く。
「そうだったな。王国の才女クレア様に、この辺境領も何度も助けられた」
「さあ、エリザベスちゃんを婚約破棄したことを後悔しなさい。エリザベスちゃんの旦那になったこの辺境領主は、先日のペットコンクールで優勝しましたのよ」
猫のエリザベスの隣で、不満を隠せない仏頂面をする辺境領主。
「くそぉ。なんて、ふさふさなんだ」
「あのふさふさには完敗ですわ」
悔しがる王子とノルズザ伯爵令嬢。
そんな様子を、メイドや料理人などの大人達は、微笑んだり、涙をこらえたり、大泣きしながら、見守っていた。
おわり