番外編 3.5話 嬉しいこと、隠したいこと
3話後の小話です。
佐山くんが帰ったあとのことだった。
私は食器を洗っていたのだけど、ふいに後ろから声がした。
「……どうだった、創。委員長は。」
思わず手が止まる。
珍しい。
雲雀君が、私の意見を聞くなんて。
いつもなら、自分のことは話さないし、他人の評価にも興味がなさそうな彼が──
そんなことを聞いてくるなんて。
「えっと……そうですね。すごく人当たりのいい方でした。雲雀君が言ってた通り、賢くて礼儀正しくて。あと……ちょっと可愛らしいとこもありましたね。」
「……可愛らしいって、なんだよ。」
「気に障りましたか?」
「別に」
そう言いながら、雲雀君はソファに座ってゲーム機をいじっていたけれど、画面には手をつけていなかった。
ちらりと視線を私に向ける。
私はふっと笑って、続けた。
「でも、ほんとにいい子ですね。流石委員長。良いお友達を持ちましたね、雲雀君。」
その言葉に、彼は一瞬だけ、ほんの一瞬だけど、口元を緩めた。
照れてる……というより、隠してる。
頬をかすかに赤くしながら、表情を逸らした雲雀君の横顔は、いつもよりずっと年相応に見えた。
──ああ、そうか。
彼は、自分の初めての友達を、私に褒めてほしかったんだ。
そして、私がその友達を「いい子」だと言って嬉しかったんだ。
自慢したかったんだ。
「……なんか、可愛らしいとこもあるんですね、雲雀君。」
「……なんか言ったか?」
「いえいえ、なんにも。今日は雲雀君の好物、増量しときますね。がんばったご褒美です。」
「……はぁ? いらねーよ。」
そう言いながらも、雲雀君はちょっとだけ機嫌がよさそうだった。
私は背中越しに、その表情を見て、少しだけ笑みを浮かべた。
──こんな風に、誰かを褒めたことで、雲雀君が嬉しそうにするなんて。
未来では、きっとあり得なかった光景。
今、彼の「時間」はちゃんと進んでる。
私はそのことが、すごく嬉しかった。