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14. 未来を知る少年ー佐山視点ー


俺のクラスに転校生が来た。

自称「未来人」の、変わった男の子――阿佐美秀。


初めは誰も信じていなかった。

そりゃそうだ、そんな話、普通は信じない。

けれど、彼は次第に“いくつかのこと”を予言し、それが実際に当たっていった。

文化祭の展示の不具合、校舎の老朽化で一部の教室が使えなくなる件、誰かの進路志望が突然変わること


――どれも小さなことだけど、その正確さは異常だった。


あのオカルトを一切信じなさそうな雲雀でさえ、今では信じかけている。

……いや、最近はむしろ「信じるわけないだろ、あんなほら話」と強がるように言っている。


俺はというと――信じている、かもしれない。

 

この前、創さんに「クラスに変な未来人が来たんですよ」と何気なく話してみたら、どこか苛立ったような顔をしていた。

あの感情に乏しい創さんが、明らかに揺さぶられていた。それが不思議で、興味が膨らんだ。

阿佐美くん。君は、何者なんだ?

 

「佐山くん! 一緒にかえろーぜ。今日は雲雀いねーんだろ?」


なぜか、雲雀がいない日はいつもこうして阿佐美くんが一緒に帰ろうと声をかけてくる。別に断る理由もなく、今日も並んで下校していた。


「ねぇ、阿佐美くん。なんでそこまで俺に絡むの? 俺、そんなに面白い人間じゃないよ。」

「えー関係なくね? 俺的には佐山くんは未来でお世話になってんだよ。」

「未来?」

「……あ、信じてないか?」

「いや、別に。教えてよ。俺と阿佐美くんって未来でどんな関係だったの?」

「うーん……関係か。そうだな。俺にとっては尊敬する研究者だったな。研究者のくせにあんま狂ってない善性みたいな人間。俺、あんま性格良くないからちょっと憧れてたんだよ。アンタみたいな人に。」

「へー、それはちょっと買い被りな気がするけど。……なんか嬉しいな。俺、未来で研究職ついてるんだ。」


想像もしなかった自分の未来に、少し胸が躍る。


「ま、でも俺が一方的に知ってるだけで、佐山くんは俺のことなんて微塵も知らなかったよ。だから、こうして若かりし佐山センサーと話してると、なんか光栄って感じ。」

「あはは! 嬉しいこと言うね、阿佐美くん。でも俺、未来でもそんな立派な人ではないよ。きっととんでもなく甘くて、すぐ人を信じて、変な人に騙されてそう。……なんてね。」


そう冗談めかして言った時だった。阿佐美くんの足が少しだけ止まった気がした。横目で見た彼の表情――少し、寂しそうだったのは気のせいだろうか?

 

「……雲雀は未来ではどんな人になってたの? あいつ、天才だから俺よりも偉くなってるんだろうなー!」

「来栖雲雀、ね。……まぁ、有名人ですよ。未来では。」

「へー! やっぱり! 流石雲雀!!」

「……俺的には佐山くんの方が、有名だし凄いと思いますけどねー。」

「すごい褒めてくれるなぁー……」


彼の語る未来が本当のことなのかはわからない。けれど、その話を聞いていると――なんだか、少しだけ自分が誇らしく思える。

未来での自分が、誰かに憧れられるような人間であるのなら、今の自分も、ちゃんと前に進んでいい気がした。


 ただ――阿佐美くんの「寂しそうな目」だけが、なぜか心に引っかかって離れない。


「ところで佐山くん、淡路創のこと好きってマジ?」

「ごほっっっ……!」


思わず咳き込んだ。


「な、ななな、なんで知ってんの⁈」

「わー、めっちゃ動揺してる。……あれ、ガチだったんだ。」


ふざけたように笑う阿佐美の口ぶり。

俺の頭の中は真っ白だった。阿佐美くんはここに来てまだ数週間。

俺と創さんの関係だって、誰にも話したことなんてない。それなのに、なんで……


「もしかして……未来で知ったの?」

「あー、そう。有名だぞ? 佐山センサーが、淡路創のことが好きって話は」

「……………………」


脳の処理が追いつかない。

彼が本当に未来人だという証拠は、こうして積み重なっていく。

それより――気になるのは別のところだった。


「ちょ、ちょっと待って、今さらっと言ったけど、“有名”ってどういうこと⁈未来では人の恋路まで公表されるの⁈」

「いやいや、別にそんな変な未来じゃねーよ。ただ――アンタらが特別だったから。佐山センサーは、未来で有名人だったんだよ。」

「……俺、未来で好きな人公表されるの……? 嫌すぎる……」


俺が肩を落とすと、阿佐美くんは珍しく、少し憐れむような表情をした。


「まぁ、そんな肩落とすなよ、佐山くん。」


いつもどおりの調子に戻るその声が、妙に優しくて、逆に怖い。だから、つい意地悪な質問を返してしまった。


「――じゃあさ、阿佐美くんは? 好きな人いた?未来でさ。」

「……なんで俺?」

「俺だけ暴露されて、知られてるのって不公平じゃん。教えてよ。」


彼は頭をかきながら、気だるそうにため息をつく。


「……まぁー、佐山くんならいいか。一応、いたよ。好きな人。」

「どんな人だったの?」

「んー……来栖雲雀に似てるやつ。」

「え? 変人ってこと??いや、阿佐美くんもしかしてひばりのことが実はー」

「ちげーよ。それに、そいつと来栖雲雀は見た目全然似てねーし。来栖雲雀の毒気とか乱暴なとことか悪いとこ全部抜いたような、ガキみたいに可愛いやつ。」

「そんないいとこ尽くしな子……存在するんだ。」

「……まぁ、実際未来にいたんだよ。スッゲー可愛かった。――死んじまったけど。」


その言葉が放たれた瞬間、世界が凍りついたような気がした。

声のトーンは変わらなかった。冗談の延長のように聞こえたかもしれない。でも、その一言には、確かな“現実”の重さがあった。

目の前の彼が、急に遠いところの人間に思えた。


死んだ――その一言だけで、阿佐美くんの過去も、彼が未来から来たという事実も、全てが急に真実味を帯びて襲いかかってくる。


「……そっか。……ごめん」

「なんで謝んだよ」

彼は笑った。でも、その笑顔が寂しさの膜を張ったように見えたのは、俺の気のせいじゃなかったと思う。


さらに彼は口を開く。


「あとさ、そいつ殺されたんだよ。」


何気なく尋ねた質問の、返答はあまりにも重たかった。


「……っ」


言葉が詰まる。冗談じゃない。それは、軽い話じゃなかった。


「……過去に戻れるもんなら、戻ってやりたかったよ。」


阿佐美はまっすぐ前を見つめたまま、淡々と続けた。


「でもな――そんな近くの未来に戻れるタイムマシンは、理論上不可能だったんだ。」

「……理論上?」

「距離が近すぎてな。人間じゃまず、耐えられない。いけて30年以上前。それ以下は体が持たねーんだよ。」

「そ、そうなんだ……」


どこまでが冗談で、どこまでが本当か。わからない。でも、今の彼は冗談なんて言ってなかった。たった一言「殺された」という真実が、全ての軽口を吹き飛ばすほどに重かった。


「……ま、って言っても。俺がここに来た理由は、俺の好きだった女を救うことじゃないんだけどな」


「え?」


呆けた顔をしていると、阿佐美くんは悪戯な笑みを浮かべた。


「世界平和のためー」

「……絶対、適当だそれ」


さすがにそれを信じるほど俺は素直じゃない。でも――

流石に、彼が本当は何のために来たのかなんて、現地人である俺に言うわけがない。


ふと、胸の奥にあった疑問が、唇を通って言葉になった。


「ねぇ、一つ……聞いてもいい?」

「なんだ?」

「俺って、未来で有名だって言ってたじゃん。……阿佐美くんから見て、俺、幸せそうだった?」

一瞬だけ、阿佐美の足が止まりかけた。でも、彼は何も答えないまま、前を向いた。


ちょうど、分かれ道に差しかかっていた。


「あ、俺、こっちだから。……じゃーな、佐山くん。」


そう言って手を振った彼の目は、一瞬だけ揺れていた。

まるで――何かを誤魔化すように。

少し、悲しそうな顔をしていた気がした。

わざと、答えなかったんだ。俺の未来について。


……もしかしたら、俺の未来は――あまり良くないのかもしれない。


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