8 冷たい視線と、守りたいもの
森を抜けて、ボクたちは次の町にたどり着いた。焼け落ちた村とは違い、ここにはまだ人々の生活があった。でも、サーシャの姿を見るたび、町の人たちは冷たい視線を向けてきた。
「……シエル、ごめんね。やっぱり、私がいると迷惑かも……」
サーシャが小さくうつむく。
「そんなことないよ。サーシャは何も悪くない。ボクは一緒にいるって決めたから」
手を握ると、サーシャは少しだけ微笑んだ。
夜――
通りの静けさを破るように、突然、怒号が響く。
「魔法使いを捕まえろ!」
自警団の男たちが松明を掲げて迫ってくる。剣や斧を手にした影が、じわじわと包囲してくる。
「来るぞ……」
ローレンが短く、低い声で呟いた。
敵が突進してくる。ボクとローレンが前に立ち、サーシャは少し後ろに下がる。
「サーシャ、動きを止めてくれる? お願い!」
「うん、任せて! ……【炎鎖】!」
サーシャの詠唱と同時に、炎の鎖が地面を這い、敵三人の足元を絡めとる。突然足を縛られた敵たちはバランスを崩し、もがきながら体勢を立て直そうとする。
「……やるな」
ローレンが静かに呟く。
「シエル、前。三人来る」
「わかった!ローレン、右、お願い!」
「ああ」
ローレンはすばやく右へ踏み込み、【双牙斬】の二連撃で盾の男のガードを崩す。金属の鈍い音と、盾の持ち主のうめき声が響く。
ボクは正面の斧使いと対峙。斧が振り下ろされるのを紙一重で避け、間合いを詰める。
「ナイス!ボクは正面を守る。【疾風剣舞】!」
疾風のような連撃を繰り出し、斧使いは後退。その背後から、別の敵が横合いに斬りかかってくる。
「左、抜ける」
「サーシャ、【フロストチャージ】、いける?」
「うん、やってみる!」
サーシャの詠唱で、青い氷の魔力がボクの剣に宿る。
「行くよ――【アイスブレイカー】!」
氷を纏った剣で左の敵を一閃。鎧ごと切り裂かれた男が倒れ、残った敵も怯んで後退する。
やがて、町の暗がりに静寂が戻った。
三人は肩で息をしながら顔を見合わせる。
「……怖かったけど、みんなと一緒なら、私、頑張れる」
サーシャが微笑む。
「悪くない。……次も頼む」
ローレンはぼそっと呟き、少しだけ口元を緩めた。
「うん。これからも、みんなで強くなろう」
ボクはふたりを見て、力強く頷いた。