7 忘れられた誓いの森
朝の森は静かで少し寂しかった。焼け落ちた村から歩き出して、ボクとサーシャは峠道を進む。
肌を刺すような冷たい空気が、これからの道のりの厳しさを予感させていた。
「……シエル、この森ね。昔、騎士たちが“ここを通る人を守る”って誓った場所だったんだって」
サーシャは歩きながら、ぽつりとつぶやいた。その横顔は、どこか誇らしげで、でも少しだけ不安そうでもあった。
「誓いが忘れられたせいで、今は魔物の巣になっちゃったみたいだ」
ボクはユラじいさんの剣を握りしめ、顔を上げる。
「それなら、ボクたちでその誓いをもう一度取り戻そう」
サーシャはわずかに微笑み、ボクも頷く。二人で森の中へ足を踏み入れた。
森の奥は、想像以上に暗く静かだった。足元の落ち葉を踏みしめる音だけがやけに大きく響く。
そんな時、重い足音が近づき、木々の間から仮面をかぶった傷だらけの斧使いが現れた。
「……誰だ」
斧を構えながら、ローレンはボクたちを鋭く見据える。
「ボクはシエル。こっちはサーシャ。村を襲った魔物を追ってここまで来たんだ」
「俺はローレン。この森で誓いを立てた騎士だったが……もう誰も守れなかった」
ローレンの目は少しだけ哀しそうだった。
「それでも、ボクたちならもう一度、守ることができるかもしれない。一緒に来てほしい」
ローレンは少し黙ってから、静かにうなずく。
「……わかった。共に行こう」
その時、森の奥から低い咆哮が響く。巨大な狼のような魔物が木々を揺らしながら現れた。
「サーシャ、【ファイアボルト】であいつの動きを止められる?」
「うん、やってみる!」
サーシャの詠唱と共に、炎の魔法【ファイアボルト】がウルフガルムの足元で炸裂する。魔物の動きが一瞬止まった。
「ローレン、今!」
「ああ。【クラッシュアックス】!」
ローレンの斧が大きく唸りを上げて振り下ろされ、魔物の前脚に深い傷を残す。重い一撃が地面ごと揺るがす。
「サーシャ、次は剣に氷の魔法を!」
「分かった!【フロストチャージ】!」
サーシャの魔法で剣が青い冷気をまとい、ボクは魔物に向かって走る。
「いくよ……!【フロストスラッシュ】!」
冷気を帯びた剣が魔物の胸を一閃し、ウルフガルムは断末魔の咆哮を上げながら崖下へと消えていった。
荒い息をつきながら三人はその場に立ち尽くす。
「……やるな、お前ら」
ローレンは斧を肩に担ぎ、ほんの少しだけ、口元を緩めた。
「ボクも、もっと強くなる。みんなを守れるように」
ボクはサーシャとローレンを交互に見つめる。
「この先の町じゃ魔法使い狩りの噂がある。油断するなよ、サーシャ」
ローレンの声に、サーシャは決意を込めて小さく頷いた。
「もう私、一人じゃないから」
ボクはそっとサーシャの手を握り返し、小さな声で誓う。
「ボクも、みんなを守るために強くなる」
夜の森に、焚き火の小さな灯りが三人の影を揺らした。
三人の間に、静かだけど確かな絆が生まれ始めていた。