表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

7 忘れられた誓いの森

 朝の森は静かで少し寂しかった。焼け落ちた村から歩き出して、ボクとサーシャは峠道を進む。

 肌を刺すような冷たい空気が、これからの道のりの厳しさを予感させていた。


「……シエル、この森ね。昔、騎士たちが“ここを通る人を守る”って誓った場所だったんだって」


 サーシャは歩きながら、ぽつりとつぶやいた。その横顔は、どこか誇らしげで、でも少しだけ不安そうでもあった。


「誓いが忘れられたせいで、今は魔物の巣になっちゃったみたいだ」


 ボクはユラじいさんの剣を握りしめ、顔を上げる。


「それなら、ボクたちでその誓いをもう一度取り戻そう」


 サーシャはわずかに微笑み、ボクも頷く。二人で森の中へ足を踏み入れた。


 森の奥は、想像以上に暗く静かだった。足元の落ち葉を踏みしめる音だけがやけに大きく響く。

 そんな時、重い足音が近づき、木々の間から仮面をかぶった傷だらけの斧使いが現れた。


「……誰だ」


 斧を構えながら、ローレンはボクたちを鋭く見据える。


「ボクはシエル。こっちはサーシャ。村を襲った魔物を追ってここまで来たんだ」


「俺はローレン。この森で誓いを立てた騎士だったが……もう誰も守れなかった」


 ローレンの目は少しだけ哀しそうだった。


「それでも、ボクたちならもう一度、守ることができるかもしれない。一緒に来てほしい」


 ローレンは少し黙ってから、静かにうなずく。


「……わかった。共に行こう」


 その時、森の奥から低い咆哮が響く。巨大な狼のような魔物ウルフガルムが木々を揺らしながら現れた。


「サーシャ、【ファイアボルト】であいつの動きを止められる?」


「うん、やってみる!」


 サーシャの詠唱と共に、炎の魔法【ファイアボルト】がウルフガルムの足元で炸裂する。魔物の動きが一瞬止まった。


「ローレン、今!」


「ああ。【クラッシュアックス】!」


 ローレンの斧が大きく唸りを上げて振り下ろされ、魔物の前脚に深い傷を残す。重い一撃が地面ごと揺るがす。


「サーシャ、次は剣に氷の魔法を!」


「分かった!【フロストチャージ】!」


 サーシャの魔法で剣が青い冷気をまとい、ボクは魔物に向かって走る。


「いくよ……!【フロストスラッシュ】!」


 冷気を帯びた剣が魔物の胸を一閃し、ウルフガルムは断末魔の咆哮を上げながら崖下へと消えていった。


 荒い息をつきながら三人はその場に立ち尽くす。


「……やるな、お前ら」


 ローレンは斧を肩に担ぎ、ほんの少しだけ、口元を緩めた。


「ボクも、もっと強くなる。みんなを守れるように」


 ボクはサーシャとローレンを交互に見つめる。


「この先の町じゃ魔法使い狩りの噂がある。油断するなよ、サーシャ」


 ローレンの声に、サーシャは決意を込めて小さく頷いた。


「もう私、一人じゃないから」


 ボクはそっとサーシャの手を握り返し、小さな声で誓う。


「ボクも、みんなを守るために強くなる」


 夜の森に、焚き火の小さな灯りが三人の影を揺らした。

 三人の間に、静かだけど確かな絆が生まれ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ