5 旅の始まり、初めての選択
森の中を抜け、ふたりは歩き出した。
行くあてもないはずなのに、サーシャの言葉が心に引っかかっていた。
「……行かなきゃいけない場所があるの」
その場所がどこかも、そこに何があるのかもわからない。
それでも、シエルにはわかっていた。自分たちは今、“未来”に向かって歩き出しているのだと。
道中、小さな町にたどり着いた。焼け落ちた村とは違い、ここにはまだ人の暮らしがあった。
しかし、町の人々の目はどこか冷たかった。
サーシャの白髪と赤い瞳を見るなり、人々は距離を取り、ささやき始めた。
「……見たか?あれ、噂の“災いの印”じゃないか……」
「また何か不幸を運んできたら困るぞ……」
サーシャは何も言わず、俯いて歩いた。
けれど、シエルは耐えきれなかった。
「やめてよ!サーシャは悪くない!ただ見た目が違うってだけで、どうしてそんなふうに言うんだ!」
声を張り上げたシエルに、人々は眉をひそめ、やがて背を向けていった。
ふたりは町の外れの丘に腰を下ろした。
沈む夕陽が、赤く地平線を染めていた。
「……また迷惑、かけちゃったね」
「違うよ。ボクが怒ったのは……悔しかったからだ」
シエルは静かに語った。
「ボク、前の世界でもずっとひとりだった。でも、誰かが手を伸ばしてくれたらって、ずっと願ってた。
今、サーシャにそれができるなら……それだけで、ここに来た意味があると思えるんだ」
サーシャは驚いたようにシエルを見つめ、そしてほんの少しだけ、微笑んだ。
「……ほんと、変な子」
それは、これまでのどの微笑みよりも、あたたかかった。
その夜、ふたりは初めて“外の世界”の現実を知ることになる。
森の道中、通りがかった村に立ち寄ると、人々は怯えた様子で口を開いた。
「この先の峠に、魔物が巣を作ってるんだ。通るのは無謀だって……」
「でも、あの峠を越えなきゃ次の町には行けない」
サーシャがぽつりと呟いた。
選ばなければならない。
遠回りをして安全を選ぶか、峠を越えて進むべきか――
「……ボクたちは行こう。怖くても、進まなきゃ。ここで止まったら、何も変えられないままだ」
「……うん」
ふたりは顔を見合わせ、うなずいた。
覚悟を持って、初めての“試練”へと歩き出す。
これはまだ、ほんの始まり。
でも確かにふたりは、“選んだ”のだ――希望を、未来を、誰かを信じることを。