4 焼け落ちた村、繋がる手
夜が明けても、森の奥には不安な静けさが漂っていた。
魔物が去ったという確証もなく、森の中に身を潜めていたシエルとサーシャは、慎重に村へと戻ることにした。
──でも、そこに広がっていたのは、かつて知っていた“日常”の面影など、どこにもなかった。
焼け焦げた家々。黒く炭になった畑。すすけた井戸。
そして、まだ煙の匂いが残る地面には、見覚えのある人々の痕跡が……。
「……うそだ、こんなの……」
シエルの膝が崩れ落ちた。声にならない嗚咽が喉を裂く。
あの温もりも、笑顔も、全部、炎に呑まれてしまったのだ。
「……これが、わたしのせいだっていうのなら、わたし、生きてちゃいけなかったんだね」
隣で、サーシャが静かにそう言った。
その言葉に、シエルは顔を上げて叫んだ。
「違う!!」
震える声だった。でも、その声には確かな想いが込められていた。
「サーシャは……何もしてないじゃないか!ただ、生まれただけで、どうしてそんなこと言われなきゃいけないんだよ……!!」
サーシャの赤い瞳が、揺れた。
まるで、心の奥にしまい込んでいた“諦め”が少しだけほころんだように。
「でも……」
「ボクは、サーシャがいてくれてよかった。……ひとりぼっちで、あの森の中にいたら、ボクは壊れてた。サーシャがいてくれて、救われたんだ」
ぽろぽろとこぼれる涙と一緒に、胸の奥からあふれた想い。
それは、シエル自身が気づかないうちに、サーシャの心を確かに揺さぶっていた。
しばらくの沈黙のあと、サーシャがぽつりと言った。
「……わたし、行かなきゃいけない場所があるの。そこに行けば、“なぜこんな目に遭うのか”がわかるかもしれないって……」
「一緒に行くよ」
即答だった。
「え……」
「ボクももう、帰る場所はないから。だったら、誰かと一緒にいたい。……サーシャと一緒に、歩きたいんだ」
サーシャは目を見開いて、それから小さく笑った。
「……やっぱり、変な子」
「……しつこいよ、それ」
ふたりはまだ、なにも知らなかった。
この先に待ち受ける、運命の分岐も、試練も、出会いも、戦いも――すべてはまだ、始まったばかり。
けれど、今確かにあったもの。それは、手と手を繋いだ温もりだった。