表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

4 焼け落ちた村、繋がる手

夜が明けても、森の奥には不安な静けさが漂っていた。

魔物が去ったという確証もなく、森の中に身を潜めていたシエルとサーシャは、慎重に村へと戻ることにした。


──でも、そこに広がっていたのは、かつて知っていた“日常”の面影など、どこにもなかった。


焼け焦げた家々。黒く炭になった畑。すすけた井戸。

そして、まだ煙の匂いが残る地面には、見覚えのある人々の痕跡が……。


「……うそだ、こんなの……」


シエルの膝が崩れ落ちた。声にならない嗚咽が喉を裂く。

あの温もりも、笑顔も、全部、炎に呑まれてしまったのだ。


「……これが、わたしのせいだっていうのなら、わたし、生きてちゃいけなかったんだね」


隣で、サーシャが静かにそう言った。

その言葉に、シエルは顔を上げて叫んだ。


「違う!!」


震える声だった。でも、その声には確かな想いが込められていた。


「サーシャは……何もしてないじゃないか!ただ、生まれただけで、どうしてそんなこと言われなきゃいけないんだよ……!!」


サーシャの赤い瞳が、揺れた。

まるで、心の奥にしまい込んでいた“諦め”が少しだけほころんだように。


「でも……」


「ボクは、サーシャがいてくれてよかった。……ひとりぼっちで、あの森の中にいたら、ボクは壊れてた。サーシャがいてくれて、救われたんだ」


ぽろぽろとこぼれる涙と一緒に、胸の奥からあふれた想い。

それは、シエル自身が気づかないうちに、サーシャの心を確かに揺さぶっていた。


しばらくの沈黙のあと、サーシャがぽつりと言った。


「……わたし、行かなきゃいけない場所があるの。そこに行けば、“なぜこんな目に遭うのか”がわかるかもしれないって……」


「一緒に行くよ」


即答だった。


「え……」


「ボクももう、帰る場所はないから。だったら、誰かと一緒にいたい。……サーシャと一緒に、歩きたいんだ」


サーシャは目を見開いて、それから小さく笑った。


「……やっぱり、変な子」


「……しつこいよ、それ」


ふたりはまだ、なにも知らなかった。

この先に待ち受ける、運命の分岐も、試練も、出会いも、戦いも――すべてはまだ、始まったばかり。


けれど、今確かにあったもの。それは、手と手を繋いだ温もりだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ