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SF作家のアキバ事件簿220 妄想ドミノ PART2

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第220話「妄想ドミノ PART2」。さて、今回は神田リバーに車ごと突き落とされた主人公は、辛くも川底から脱出w


捜査線上に妄想ドミノ理論に基づく、第2.5次世界大戦へと続く妄想が浮上スル時、世界の運命はアニメフェアに向かう幼女に託されて…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 沈み逝く車


謎のSUVに追突され神田リバーに突き落とされた覆面パトカー。僕達は、その中に閉じ込められてるw


「水圧でドアが開かない!」

「コッチのドアもダメだわ!」

「窓を割って脱出しよう」


ドライバーズシートのラギィはホルスターに手を伸ばし音波銃を探す。彼女は万世橋警察署の警部だ。


「ナイわ!ホルスターが外れて落ちたみたい。シートベルトが外れないの。座席も動かないし。探して!」


車内に水が入って来る。大きく息を吸い暗い水中に潜り音波銃を探す。ラギィのペンライトが頼りだ。


「ナイフは?」

「トランクの中。とにかく私の音波銃を探して!ベルトは銃で壊すわ」

「でも、見つからないンだ」


再び潜りペンライトで水中を照らし音波銃を探す。

ハンドルを握るラギィの両手が水中に沈んで逝く。


「テリィたん?」


車内の水面が静かになる。


「テリィたん!」


僕の手は力無く水中を彷徨う。徐々に車内の水位が上がりラギィの顔を覆って逝く。死を悟るラギィ。


「テ、テリィ…うぷ」


神田リバーの川底に覆面パトカーは沈む。やがて、光が明滅して大きな泡が川面へと上がって逝く…


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ずぶ濡れのラギィが分厚いタオルに巻かれて神田リバーのドス黒い川面をボンヤリ見つめている。

対岸の神田リバー32号埠頭にはパトカー、救急車、

消防車が集結、赤青白のライトを明滅させる。


「元カノがインターンだと現場で着替えとか頼めて便利だな」


背中から声をかける。ラギィ同様濡れネズミ状態だ。水上警察の警戒艇がゆっくりと川面を横切る。


「thank you。それから…thank you」

「ラギィだって同じコトをしたさ」

「カモね。とにかく、最後にテリィたんが音波銃を見つけてくれて…助かったわ」


スタボ(スターボックス珈琲)の熱いラテをラギィに差し出す。


「映画だと車からの脱出ってカッコ良いのに…実際は上手く逝かないね」

「映画は見るだけで十分だわ」

「ねぇ!説明してょ!死んだハズのブレラ博士のホットな遺体が何故ココにアルの?」


ヲタッキーズのエアリが割り込んで来る。因みに彼女はメイド服だ。だって、ココはアキバだからね。


「ソレなんだが…」

「エアリ。謎は深まるばかりなのょ」

「え。何なの?その態度」


目をひん剥くエアリ。


「そぉよ謎ょ!死んだフリをする科学者、川面に沈んだ覆面パトカー…ねぇ私達に説明するなら今しかないんじゃない?」

「エアリ。ごめんなさい、極秘なの」

「極秘には慣れてる。私達はヲタッキーズょ?極秘って言うなら、何でSF作家ごときが知ってるの?もう良いわ。私はあっちでラギィの車を引き上げる算段をしてくるから!」


3歩歩いて振り返る。


「…テリィたん、無事で良かった」

「ありがとな、エアリ…身内からSF作家ごときと逝われたのは初めてだ。(こた)えるな」

「何もかもゲージの仕業だわ。玉手箱の秘密を漏らしそうな人を次々と殺してる」


玉手箱はゲージが企む謎の計画のコードネームだ。


「おかげで全ては謎のママだ」

「ブレラ博士は、この国の未来を脅かすものだと言っていたわ」

「とにかく計画の内容は謎だし」


唇を噛むラギィ。


「何か手がかりがあるハズだわ。ブレラ博士の所持品はどう?」

「テリィたん。ポケットには何もないわ。死んだ後、誰かが調べて空にしてる」

「ありがと、マリレ。きっとゲージだな」


目の前をスピアが推すストレッチャーに載せられ、ブレラ博士の遺体がゴトゴトと運ばれて逝く。


「マリレ。埠頭の倉庫の中を捜索して」

「ROG。でも、何を探すの?」

「"奴等"がココに来た目的ょ。スピア、ルイナに連絡ょ。歯の治療の痕や傷跡、指紋とか…ブレラ博士の情報を集めて…」


ソコヘ黒塗りのSUVが急停車。ドアが開いて降りて来たのは…ミスCIA、ソフィだ。彼女も元カノだw


「死んだのね?」

「あぁ説明させてくれ」

「良いから乗って」


彼女の副官モトンがコチラへと手を挙げる。明らかにソフィは怒ってる。黙って乗り込む僕とラギィ。


「テリィたん…」


SUVは猛スピードで走り去る。目を丸くして見送るスピアとヲタッキーズのエアリ&マリレ、警官達。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


CIA(Central intelligence of Akiba)本部。怒声が飛ぶ。


「またまた何をやらかしてくれちゃったの?!」

「言われた通り、ブレラ博士の捜索をしてただけだ」

「暗号を解読したのに連絡はナシ?」


ソフィに詰め寄られる。


「暗号が解読出来たと言う確証がなかった。ソレに私達でココに博士を連れて来ようと思ったの」


ラギィの抗弁。彼女も元カノ←


「ブレラ博士を守れなかったのは、貴女の責任ょ。そもそも貴女達は何であの埠頭に行ったの?」

「ブレラ博士のリクエストだ」

「なぜ?」


僕は肩をスボめてみせる。フランス人みたいだろ?


「わからない」

「じゃわかってるコトは何?」

「わかってるコトは…ブレラ博士はインバウンドに依存した秋葉原経済の脆弱性を調べるよう依頼された。そして、経済分野に破滅的な妄想を見つけた。その妄想が実現すれば、秋葉原のヲタク経済は破綻し、その影響が日本経済を直撃、世界経済の破綻へとつながる。つまり、果てしないドミノ倒しが始まって最終的には世界大戦の末に日本が、最後は世界が破滅する」


腕組みするソフィ。


「どうする?ソフィ」

「テリィたん達は、もう何もしないで。貴方と手を組んだのが間違いだったわ…私は、貴方が変わったと思ってた。そうマジで信じてたの。でも、違った。今でも貴方は無鉄砲で身勝手な味覚5才児の大バカ者ょ。昔から変わらない。捜査の邪魔だわ」

「…悪かった」


一言謝っておく。すると…


「悪かったですって?3.11よりヒドい事態になると言うのに、現実は貴方のSF小説とは違うのよ。私との関係みたいに美化して描き直しナンか出来ないの!」


私との関係?ラギィが敏感に反応し僕を睨む。


「モトン。2人をつまみ出して」


うなだれる僕。口を固く結ぶラギィ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ソレで…彼女と寝たのね?」


万世橋(アキバポリス)のエレベーターの中だ。


「え。あぁソフィとなら寝たょ」

「そう…他にもいるの?」

「何の話だ?」


口をとんがらせるラギィ。


「モデルょ」

「モデル?モデライザーじゃナイぜ。モデルに興味はナイな」

「モデルの方でもヲタクはお断りでしょ。そーじゃなくて、テリィたんの描くSF小説のモデルになった女子のコトょ」


そーゆーラギィは"宇宙女刑事ギャバ子"のモデルだ。


「いないよ」

「スピアが仕切ってる元カノ会の会員数じゃなく、SF小説のモデル女子クラブのメンバーが何人かが気になるの」

「勝手にクラブを作るな。ただ、僕のベストセラーなら27冊あるから、もしかしたら…」


エレベーターの扉が開く。捜査本部だ。ヲタッキーズのエアリが駆け寄る。因みに、彼女もメイド服。


「ねぇ!何かわかったの?」

「うーん捜査を降ろされたから特命も終了かな」

「ダメょ。未だ殺人事件が残っているわ」


ラギィは僕を睨む。


「でも、被害者達を殺した第1容疑者はCIAが追ってルンだぜ?」

「ソンなコトはどーでも良いの。ゲージは、もう3人も殺してる。しかも、1人は私の目の前で。ついでに私達をホルヒのトランクに監禁し、私の車を神田リバーに沈めたわ」

「にしたって、CIAの腕利きスパイを捕まえるナンてドダイYS…じゃなかった、土台無理な話だ」


だが、ラギィの鼻息は荒い。


「無理じゃないわ。ゲージの狙いがわかれば大丈夫よ。ブレラ博士が言っていた秋葉原経済の急所(リンチピン)を探せば、ソレを狙ってゲージが現れるハズ…ヲタッキーズ、32号埠頭の倉庫は調べた?」

「CIAに追い払われたわ。でも、ブレラ博士の情報はゲット。博士の指紋は桜田門(けいしちょう)のデータベースにヒットがあった。登録されてた名義はスコト・マグガ。でも、マグガさんを調べたら、現実には存在しない人だった」

「あらあら。登録されてた住所は調べたの?」


もちろん調べてある。


「近所の人は彼女には見覚えがないと言ってるわ」

「誰かが知ってたハズょ」

「いくら妄想ドミノ理論の生みの親とは言っても、大好きな大盤将棋は1人じゃ出来ないな」


鋭いサジェストをする僕。吹き出すラギィ。


「あららら。テリィたん、事件から降りたンじゃなかったっけ?」

「ラギィ。ソフィも逝ってたろ?僕は、無鉄砲で身勝手な味覚5才児の大バカ者ナンだ。ラギィが捜査を続けるなら付き合うさ」

「OK。じゃヲタッキーズは、新橋の汽車広場で彼女の大盤将棋のお友達を探して来て!」


文字通り窓から飛び出すヲタッキーズ。スマホが鳴る。


「はい、ラギィ…え。博士の遺体が消えた?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「令状を持ってて遺体を横取りされたの!」


万世橋(アキバポリス)の検視局。青いスクラブのスピアが憮然としてる。モニターの中のルイナはお手上げポーズだ。


「何でこんなに早く令状が出るの?」

「テリィたん。元カノに聞けば?」

「元カノ?」


あぁミクス。君と過ごした百軒店の日々は甘く…


「違うわ。その令状にサインがある最高検察庁の次長検事ドノじゃなくてCIAの方。で、彼女とは寝たんでしょ?」

「YES。そうさYESだ。彼女とは寝ました(検察に逝く前のミクスとも寝たけど)。とにかく、もう大昔の話だ。寝て何が悪い?もう時効だ。どうでも良いだろ?…でも、ミユリさんには内緒だぞ」

「確かにどーでも良いコトだわ!貴方は、誰とでも寝る5才児ナンでしょ!」


後ろで咳払い。振り向くとスピア。


「毒物検査報告書を持って来たけど…」

「あ、ありがとう。スピア、ソコヘ置いといて」

「御苦労サマ」


腕組みして溜め息をつくスピア(彼女も元カノw)。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


御屋敷(メイドバー)のバックヤードをスチームパンク風に改装したらヤタラ居心地良くて常連が沈殿して困ってる。


「ソレで…インターンはどうかな?スピア」

「色々学んでるわ。色々ね…遺体を横取りされたコトは衝撃的だったわ」

「そりゃ…笑えるな」


トボける僕。しかし、メイド長(ミユリさん)がいないな。


「テリィたん。ラギィと誰の話をしてたの?」

「スピアには関係無いコトさ。早く寝ろょ」

「埠頭に来た黒SUVの女は誰?」


鋭く突っ込んで来る。さすが元カノ会の会長だ。


「誰でもない。早く寝ろょ」

「誰でもなくない。テリィたんの目つきが意味深だったモノ」

「仮に意味深だったとしても、もう2度と会わない人だから誰でも関係ないだろ?もう寝ろ」


口をへの字に曲げクルリと振り向きお出掛け。


「どーせ元カノなんでしょ?元カノ会に入るように言ってょ。当会は、テリィたんの元カノ同士の相互扶助を目的とし…」 

「わかったょ今度入会を勧めてみる」

「テリィたんが隠し事をスル気なら、元カノ会も黙ってナイわょ。あら、どなた?」


カウンターから振り向くとソファにソフィだ。優雅に長い脚を組み直すソフィ。見えそうで見えないw


「ソフィ?」


コミック片手に微笑む。


「Hi。テリィたん」


第2章 敵か味方か元カノか


「ソフィ、どうやって入った?ミユリさんは?」

「サイキック抑制蒸気に腹パンチ2発でKO。彼女のウィークポイントをCIAは研究し尽くしてる…ねぇソンなコトより"科学女忍者隊ガッチャウーマン"ってコミックになったのね」

「うん。1作目が売れ行き好調で2冊目が出たトコロさ"今どき紙コミ大賞"のグランプリを獲った」


無邪気にドヤ顔スル僕。クスクス笑うソフィ。手にしたコミックを見開きにして僕に見せる。


「どうかしら、私に似てる?」


悪の組織ガラクターの戦闘員をミニスカで飛び蹴りスル女。もちろんモデルはソフィだ。そっくりさ。


コッチは見事にパンチラw


「ソフィ、何でココにいる?」

「未だゲージのコトを追ってるんでしょ?」

「いや。もう事件からは降りたょ」


鼻で笑うソフィ。


「あら。昔より随分とウソが下手になったのね。ブレラ博士の偽名を調べたでしょ?良いのょ隠さないでも。むしろ協力して欲しいな」

「え。だけど、さっき…」

「今日は厳しいコトを言ったけど、アレは本心じゃない。貴女達の協力に反対スル声を抑えるために打ったお芝居ょ。私はテリィたんのコト、誰よりも知ってる。誰が何を言おうが、貴方は物語の結末を知るまでは突き進む。昔みたいに」


御屋敷の大型モニターにタッチ。暗号で隠しておいたラギィの母親の殺人事件のチャートがPOPUP。


「Miss万世橋は、コレ、知ってるの?」

「まさか。ミユリさんも知らない。僕が勝手に…」

「相変わらず興味本位で人の過去をオモチャにしてるのね。貴方の元カノにだけは、なるモンじゃナイわ」


僕は慌ててモニターを消す。


「彼女は違うよ」

「そう?彼女は特別なの?違うわ。貴方がそう思おうとしてるだけょ…CIAはブレラ博士の捜査に行き詰まったわ。でも、コレが手がかりになるカモ…ダメょいきなりガン見しないで。バカね」

「すげぇ」


ソフィは、深い胸の谷間から小さく折りたたんだメモを抜き出す。プルルンと震える(何が?)。


「ブレラ博士が埠頭に用意してたバッグに入ってた。航空券や偽装IDと一緒にね。広げて見せて」


transfers to & from?


「銀行通帳の記録か?ソレと…口座番号だ」

「ソレが全部国内の銀行なのょ」

「となると、CIAは動けないな」


話のテンポがシンクロする。


「だから、お願い…いえ、ヲ願い」

「おいおい。コレで博士の依頼主がワカル可能性がアルぞ」

「テリィたんも物語の結末を知りたいンでしょ?」


急いでメモを折りたたみ大切にポケットに入れる。鼻と鼻がくっつく距離でニヤリと笑う僕とソフィ。


「今回こそマメに報告してネ」

「ROG」

「あ。テリィたん、あと…殺されないで」


僕の瞳を見詰めトドメを差す。


「私、未だ好きだから」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。デスクワークに精を出すラギィ。そっとスタボ(スターボックス珈琲)のグランデカップを置く。


「ヲタッキーズのメイド達は?」

「新橋のSL広場で聞き込みょ。ブレラ博士の大盤将棋の相手を探してるわ」

「で、何でラギィはココに?」


肩をスボめるラギィ。


「私の覆面パトカー(FPC)は神田リバーの底ょ?沈車の経緯を説明出来ないから、代車の申請も出来ないし…え。なぁに?」

「別に。ただコレこそ妄想ドミノ理論の良い例だと思ってね。車が沈んだから事件を解決出来ないって帰結がさ」

「川底から拾った音波銃で撃たれたいの?」


ラギィの指鉄砲にホールドアップで応える。


「そしたら…誰がこのメモの捜査をスルんだ?」


折りたたんだメモを差し出す。


「ブレラ博士の口座番号の情報だ。例の埠頭にあった。この口座の金の流れを追えば…」

「黒幕にたどり着く?素敵…ちょっと待って!そのメモ、何処にあったのょ?」

「実は…ソフィが昨夜、御屋敷に御帰宅を…待て!話せばワカル!」


ラギィは…モノホンの音波銃を抜いてるw


「問答無用!無鉄砲で無責任で味覚5才児の大バカ者って言ってたのにナンでよっ?!」

「あ。ソレは同僚の手前怒ってみせただけらしいンだ。ソフィもタイヘンだょな」

「あのね…バッカじゃナイの?」


何でだ?


「コレは重要な手がかりさ。ソフィは僕の、じゃなかった、僕達の協力を求めている」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


新橋のSL広場。


今では世界的競技となり、ヲリンピック種目になった大盤将棋で賑わう。人混みをかき分けるメイド2人。


「ねぇねぇエアリ。いったい何事なの、コレ?」

「情報機関が絡んでそうね、マリレ」

「内調?公安?調査部別班?」


肩をスボめるエアリ。


「何処にしたって大きな違いはナイわ。諜報員の友達が何人かいたけど」

「え。ソレで?」

「みんな死んだわ…ねぇ!この人、知らない?」


ブレラ博士の顔写真を見せるラギィ。アキバのメイドに声をかけられ、忽ち相好を崩すヲッサン達w


「メイドさん!マジ知ってるとも。彼女は週に2, 3回来ては大盤将棋をしてたぜ」

「素敵ょヲッサン御主人サマ。で、どんな人だったのかしら?」

「大盤将棋が恐ろしく強い。しかも、妙な手を使うんだ。面白半分で飛車を犠牲にしたりして。でも、最後は必ず勝つ」


さすが天才数学者だなw


「彼女の名前は?」

「スコトとか何とか言ってたぜ。詳しいコトはヤンウに聞けょ」

「ヤンウ?誰ソレ?美味しいの?」


ヲッサン達は、向こうで大盤将棋を差してるヲッサンを指差す。全員同じに見えて焦るヲタッキーズ。


「あのネオ新橋ビルの前で差してるヲヤジだ。メイドさん達が探してる女子とマジ最近一緒にいるのをよく見かけたぜ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「ブレラ博士は、全て偽名の6つの口座を持ってた。ソコに入金してたのは、国際環境NGOや人権団体、途上国政府などで合計で2億円以上を溜め込んでたわ」

「その入金の中のどれかが、博士に玉手箱を依頼したコトの報酬なのカモな」

「で、入金記録の中では、この2つが怪しいの。いずれも5000万円の入金で時期は3ヶ月前と1週間前」


前金と残金だ。やれやれ、わかりやすいな。


「しかも、入金した上海のオフショア口座は、もう閉鎖されてる」

「行き詰まったか…」

「ラギィ。ブレラ博士の手がかりを見つけたわ」


新橋から戻ったエアリが割り込んで来る。


「どうやら、このイケメンといつも一緒にいたみたい。大盤将棋仲間のヤンウ。2度の全新橋大盤将棋大会のチャンピオン」

「お名前は?」

「ヤンウ・エイリ。今は、大学で経済学の教授をやってるみたい」


僕はラギィと顔を見合わす。


「経済学の教授だってさ」

「関係あるカモ」

「しかも、ヤンウは国際通貨基金や国連経済理事会の顧問をやってるの」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部の会議室。事情聴取なのでくつろいだ雰囲気だ。テーブルにはコーヒー。紙コップだけど。


「この女子なら知ってるよ。ただブレラじゃなく、マレガと名乗ってたな」

「どんな人でした?」

「とにかく大盤将棋の名手だったな。私の手は全て読まれていたょ」


肩をスボめるヤンウ・エイリ。銀髪にハリポタみたいな丸メガネ。身を乗り出すラギィ。タイプなのか?


「センセ。大盤将棋じゃなくて、もっと個人的なコトなんです」

「いや。自分のコトはあまり話さなかったな」

「センセは彼女と良く話してたって聞きましたが」


すると語り出すセンセ。


「世界経済の話をしてた。私の専門を知っていて、彼女は経済の質問して来たンだ」

「例えばどんなコトですか?」

「世界の経済勢力について、とか歴史的な社会経済モデルとか。私を上回るほどの知識量で、かなりのマニアとお見受けした」


マニアなんてモノじゃナイ。


「マニアもマニア。ノーベル賞級のマニアです。特に彼女が興味を示したコトは?」

「別にないが、秋葉原経済の行く末を案じてたな」

「他の人の話は?家族や友人の話とか」


センセは首を振る。


「いいや。しなかったな」

「行きつけの店とか何処に住んでるとかの話は?」

「うーん…そう言えば、多分彼女は西新橋スクエアに住んでたと思うな」


西新橋スクエアは、中規模の再開発エリアだ。


「何でそう思うの?」

「彼女と出会った直後、大盤将棋の道具をSL広場に忘れたんだけど、途中で気づいて引き返す途中、彼女が建物に入っていくのを見た」

「その建物、どこにあるか覚えてますか?」


センセは胸を張る。


「もちろん覚えているとも」

「ソレは良かったです、センセ」

「ご案内しようか?」


眉間にシワを寄せて笑うラギィ…ところが、ココで深く溜め息をついて天を仰ぐ。


「しまった。車がナイわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「YES。ココが彼女の部屋ですよ。名前はフェリと名乗ってましたが…お帰りの時にお声掛けください」


大家は老女で、マスターキーで鍵を開けてくれる。壁際に品の良い調度品が並ぶ、広めのリビングだ。


「すみません…で、ラギィ。何を探す?」

「書類とか通話記録とか…彼女が何をしていたか、わかるモノね」

「コッチの部屋は…寝室かな?」


ラギィはPコートにブルージーンズ。髪を下ろしている。僕は奥の部屋のドアを開けて…直ぐ閉める。


僕は、いつものタンカースジャケット。


「ラギィ…あったぞ」


閉めたドアを指差す。ラギィとドアを開け、中に入って…異様な景色に圧倒されて…絶句スル。

部屋の天井からクモの巣のように赤い糸が張り巡らされ、それぞれにメモがブラ下がっている。


「何なのコレ?」


四方の壁全面はメッセージカードで埋め尽くされ、それぞれに微細なメモや走り描き、数式や化学式?が描き込まれている。部屋の真ん中には大盤将棋w


「カードには…ロシアの通商停止?ウクライダ危機?欧州経済の崩壊?中国が台湾に侵攻?北朝鮮がICBMを発射?ロシアが韓国に派兵?…2027年8月第2.5次世界大戦の開戦、同年12月アメリカが降伏…コレらは全て妄想なのか、必然なのか」

「たった1つの妄想が世界大戦を引き起こすというの?でも、そんなコト、予測出来るワケがナイわ」

「でも、ノーベル賞級の頭脳がソレが起こると計算してる。そして、その口封じのために次々と人が殺されているんだ」


部屋中に張り巡らされた赤い糸は、徐々に束ね合わされ太くなり、破滅と描かれた天井の1点へ集まる。


「コレがキーとなる妄想だ…今や秋葉原のオタク経済は日本国の経済に直結し、世界経済にまで影響が及ぶ。果てしないドミノ倒しの果てに世界大戦が始まる…ソレがこの"部屋"は指し示している」

「で、誰なのコレ?まさか、このイタイケな瞳までテリィたんの元カノじゃナイわょね?」

「まさか。でも、この子がきっと妄想ドミノの鍵となる存在だ」


僕は"破滅への第一歩"と描かれたメッセージカードを見つけて指差す。

見たコトもない、恐らくは外国の山をバックに微笑むのは、制服を着た…


幼女?


「この幼女は、きっと世界を第2.5次大戦へと導く妄想連鎖の糸口だ。博士は、世界崩壊の青写真を謎の地下組織に渡してしまったと悔やんでた…ソフィに連絡しなくちゃ」

「スマホを置いて」

「ゲージ?」


振り向くと迷彩服姿の…ゲージだ。コレってマジ?カリヲストロのフジ子のコスプレだと逝ってくれ。


「早くスマホを置いて!逃げるの」


え。


「逃げて!」


ゲージが叫ぶと同時に全ての窓ガラスが砕け散り、音波弾が次々と撃ち込まれる。狙撃か?何処から?

次の瞬間、薄く煙を噴きながら小さな銀色の円柱が投げ込まれる。コロコロと音を立て転がって逝く。


「外に出て!」


ゲージが叫んで全員が飛び出す。後ろ手に扉を閉めるが次の瞬間、扉は爆風で吹き飛ばされる。

対面のビルにいるらしい狙撃手(スナイパー)は、次々と音波弾を撃ち込んで来て、部屋の中は既に蜂の巣だ。


「ゲージ!君って敵じゃないのか?」

「あのね。アタシが敵なら貴女達2人はとっくに死んでるわ。こっちょ」

「でも、車はあっちナンだけど」


ラギィは外を指差す。


「警部の車は見張られてる。行けば蜂の巣」

「誰が攻撃してルンだ?」

「死んでもOKなら答えるけど、今は逃げるのが先でしょ」


狙撃手は照準スコープで僕達を追うが自ら撃ち込んだ発光発煙弾のせいで見通しが悪い。その間にゲージが運転する蝸牛(カタツムリ)の個人タクシーで逃走スル僕達。


「頭を低くして!」

「でも、CIAに連絡しなきゃ」

「ダメょ」


サイレンサー付き短機関銃の銃口を僕に押し付け、片手ハンドルで急カーブを切り地下駐車場に入る。


急ブレーキ。


「ココは?」

「場所も時間もナイ。アタシが傍受した情報では、玉手箱の決行は明日ょ。ブレラの部屋を見たんでしょ?ターゲットを教えて」

「待って。貴女こそ何故ブレラ博士を殺したの?」


一歩も引かないラギィ。


「アタシは殺してない」


油断なく周囲を見回すゲージだが、ふとラギィが自分に音波銃を向けているコトに気づく。


「冗談ヤメて。また銃を取り上げて欲しいの?時間がナイんだけど」

「じゃ時間を作って」

「OK」


溜め息をつき短機関銃を置くゲージ。


「あのね。スパイは常に危険を察知するサバイバル能力が必要なの。いつもヒントは微か。電話の小さなノイズやカード承認の僅かな遅れ。仲間との指示連絡中に起きる短い沈黙…何かがいつもと違う時、異変の正体を特定しないと、スパイの命はナイ。今、この瞬間にも何者かが第2.5次世界大戦を引き起こそうとしている。そして、その責任をアタシになすりつけるつもりなの。アタシは世界大戦を阻止したいだけ。だから、ヲ願い。ターゲットの名前を教えて」

「ゲージ。ソレならCIAにいる僕の元カノに頼もう。色々話に乗ってくれる」

「ダメ絶対。玉手箱の資金源は、表向き多国籍の産軍複合体ってコトになってる。でも、必ずCIA内部に協力者がいるハズょ。そーでなきゃこんなコトは出来ないわ。警部さん、ワカルでしょ?CIAの誰かがアタシをハメたの。だから、茶番はアタシが死ぬまで終わらない。そして、みんなが必死になってアタシを探してる間に誰かが…」


ラギィが続ける。


「玉手箱を開ける?」

「YES。でも、ソレをアタシが阻止スルわ。だから、最後にも1度だけ聞かせて。ターゲットは誰なの?」

「え。ターゲットは…」


その時、個人タクシーが無数のサーチライトを浴びる。完全武装の特殊部隊に完全包囲されている。


まばゆいライトを背に黒い人影が現れる。


「あら、ゲージ?久しぶりね」


ソフィだ。振り向くとゲージは残念そうな顔をして唇を噛んでいる。


第3章 ゲージ死す


何処かの地下にあるCIA本部。元カノのソフィと副官モトンの2人に左右から責められながら歩く。


「そんなの昔から諜報員が使う手なの」

「その通り。予め攻撃を仕組んでおいて、後からあたかも自分が助け出したように見せかけルンです」

「ゲージはテリィたん達を信用させ、味方のフリをしたのよ」


ラギィが疑義申立て。


「ゲージが犯人だったらターゲットを知ってるハズだわ。でも、彼女は必死になって探してた。何かが変だわ」

「貴女が何処まで知ってるかを探ろうとしただけ。ソレだけ聞いたら貴女を殺してたわ」

「待て待て。あの襲撃をゲージが仕組んだのなら、必ず仲間がいるハズだ。1人で出来るコトじゃナイ」


ソフィは溜め息をつく。


「確かに。未だ気は抜けないわ」


コンソールのスタッフが振り返る。


「ブレラ博士の部屋の資料は、爆発で全て焼けました。回収不能です」

「あらゆるデータベースを使って、この幼女を顔認証にかけて。この幼女が誰で、どうして世界大戦の引き金になるのかを知りたい。ゲージは?」

「監房です」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


監視カメラ付きの狭い監房だ。奥のテーブルに後ろ手に手錠をかけられて腰掛けているゲージがいる。


「貴女が殺したハーパは私の友達だった」

「なら、何でアタシの下に寄越したの?」

「…前に会ったわね。私を覚えてる?KL(クアラルンプール)の任務。貴女は見事な仕事ぶりだったわ。さすがね。で、今は誰に雇われてるの?あの幼女は誰?」


ジッとソフィを見るゲージ。


「一体誰なの?アタシをハメたのは」

「CIA内部に裏切り者がいると思っているの?そして、ソイツが陰謀の黒幕だって?確かにその通りだわ。でも、ソレは貴女ょ!」

「アンタは間違ってるわ」


キッパリ切り捨てるゲージ。


「いいえ、ゲージ。間違ってるのは貴女達の方」

「貴女達?私に仲間はいないわ」

「ハーパとブレラを殺したのも、玉手箱を開けようとスルのも、覆面パトカー(FPC)を神田リバーにぶち込んだのも、アタシの仲間じゃナイわ。でも、ソイツの動きを埠頭で見た。あの動きは、間違いなくCIAの訓練を受けた者ょ。犯人はCIAの誰か」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


本部のモニターに、ゲージの口元、瞳、頬の動きのクローズアップが映る。筋肉の微細な変化を追う。


「ゲージがウソをついているという生理的な兆候は皆無です」

「スパイは、捕虜になった時の訓練を受けてるわ。不信感を煽って我々を分裂させる手ね。いずれにせよ、裏切り者は彼女以外いないし」

「でも、ソフィ。もしソレが誤解だったら?」


鼻で笑うソフィ。


「ソンなコトはどーでも良いの。大事なコトは玉手箱を阻止するコト。あの幼女を早く見つけなきゃ」


メインモニターではスゴいスピードで顔認証のデータ照合が行われている。オペレーターが振り向く。


「未だ該当者は見つかっていません」

「日本のデータベースには無いカモね」

「幼女が着てるのは学校の制服だろ?コスプレ界隈のデータベースで特定出来ないか?」


鋭い視点を提供スル僕。


「やってます。しかし、髪で校章が隠れていて無理でした。"幼女タレント図鑑2025"とも照合済み」

「…ねぇソフィ。この幼女の殺害で世界大戦が起きるとマジで信じてる?何だかあまりに突飛だわ」

「私は信じる。ブレラ博士には実績がアル。北朝鮮の崩壊を招く妄想ドミノの最初のドミノは、より多額の金を使うコトだと予測して…全くその通りになったわ」


傍らの副官のモトンにささやく。

 

「も1度、ゲージを尋問するわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ソフィとモトンが監房に入ると、ゲージは天井を見上げ口を開けている。不審に思い駆け寄るソフィ。


「ゲージ?」


額を1発で撃ち抜かれて…死んでいる。


「直ちに本部を閉鎖!誰も出さないで」

「至近距離から撃たれてる。弾痕が焦げてるわ」

「誰も銃声を聞いてないのにナゼだ?」


異変に気づき駆けつける僕とラギィ。


「テリィたん。監房は完全防音なの。不思議なのはナゼ誰も見てなかったかだわ。監視カメラは?」

「映像が細工されていました」

「おいおい。ソンなコト出来ないだろう。CIAのセキュリティは万全なハズだ」


ソフィは唇を噛む。


「ゲージはホントのコトを言ってたのね。本部の中に裏切り者がいルンだわ」

「本部を封鎖しました。職員で出た者はいません」

「監房に入れた者は何人?」


ソフィの問いに即応するオペレーター。


「18人です…映像改竄に使われたサブルーチンを組み込んだプログラムを発見しました。ソフトウェアのワームに組み込まれていたようです」

「でも、出所まではわからないわね」

「還元関数を使えばシステムへの侵入経路を特定出来るカモしれません」


オペレーターは隣席と顔を見合わせてうなずく。


「可能なの?」

「ハッシュ関数も使ってみます。試してもよろしいですか?」

「やって」


次の瞬間、モニター画面に次々とウィンドウが開かれ、それぞれに膨大な量の数式が一斉に流れ出す。


「ダイアモンドテーブル形成…出来ました。追跡を開始します…改竄に使われたIPアドレスが出ました」

「誰のアドレス?」

「照合中」


モニターには無数の職員の顔写真が出ては消える。


「特定しました。スパイ番号007トラン・ドラン」

「え。私?」

「トラン!手を挙げろ!(ひざまず)け!今すぐ!」


本部のほぼ全員が音波銃を抜き翠髪のエージェントに向ける。無数の銃口に取り囲まれて跪くトラン。


「撃たないで!私じゃナイわ!」

「待ってください!ダミーでした。犯人がトランのIPを乗っ取っていたんです!」

「なら誰なの?」


ソフィが詰め寄る。


「トランのIPを使って巧みに正体を隠しています。相当な腕ですが、私の方が上です…暗号化を解除します。trace program active!」


再び無数の顔写真が出ては消える中、1つのIPアドレスが特定されて明滅スル。


「誰と一致したの?」

「モトン・ダバグ」

「待って!ソフィ、私は裏切ってません!」


秒で傍らにいる副官に音波銃を向けるソフィ。


「モトン。音波銃を置いて」

「早くしろ。手は頭の後ろだ!」

「わかりました。大丈夫です…」


次の瞬間、モトンはオペレーターの頭に音波銃を突きつけて立たせると、彼女を盾にしながら叫ぶ。


「みんな下がって!」

「モトン!お願い。ヤメて!音波銃を置くの!」

「悪いけど、私だって命が惜しいわ」


オペレーターの指紋認証で地上へのエレベーターを呼ぶ。人質を盾に狙撃を避け乗り込み扉を閉める。


「エレベーターを止めて!早く!」

「直ちに!も少し待ってください…今、戻ってきます。御準備を」

「私が撃つ。ソレまで発砲禁止」


ソフィの言葉に全員うなずく。無数の音波銃が向けられる中、扉が開く。オペレーターが倒れている。


「うう…」


彼女は生きている。しかし、モトンの姿はナイ。


第4章 ドミノは倒れない


裏切り者は右腕だった副官。頭を抱えるソフィ。


「君が気づかなくても仕方ない」

「いいえ。今にして思えばモトンは妙に捜査の手際が良かった。でも、裏では私の捜査を妨害してたのね。そー言えばテリィたん達に協力を乞うコトにも反対してた。最悪なコトは、他にも彼女の協力者がいるカモってコト。もう、CIA本部にいる誰も信用出来ないわ」

「そんな…」


本部職員を見回すソフィ。ラギィが疑問を呈する。


「玉手箱は、途方もない計画よ。どうして、自分の国を戦争に駆り立てるのかしら」

「金、イデオロギー…まともな理由などないわ」

「動機の詮索より先ず玉手箱を止めるコトが先だ。

ゲージは明日決行すると言う情報を入手していた」


うなずくソフィ。


「私達も聞いたわ。もう時間がない。早く幼女を見つけないと」

「幼女を探す手がかりが何かあるハズよ。私達は、絶対に何かを見逃してるわ」

「データベースは全部調べ尽くした。もう他に探す手立てはナイ」


ひらめく僕。


「あるさ。CIAには地形測量のデータがあるって聞いたけど」

「えぇ。全地球レベルのデータを完備してる」

「なら幼女ではなくて、背景に写ってる山を探してみたら?この場所がわかれば幼女探しの範囲を絞れる」


ソフィの顔がパッと輝く。


「テリィたん。貴方って天才じゃない!」


突然僕の頬にキス。ラギィの冷ややかな視線。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「どのくらいかかるかな?」

「世界は広いから…乾燥地帯を外し北緯9度から60度内に絞ったけど…予想では32時間かかるわ」

「長い夜に備えてコーヒーを淹れてくるよ」


僕はギャレーに消える。ラギィを振り向くソフィ。


「彼、優しいのょね」

「好きなの?」

「うーん好きだった」


ソフィから歩み寄る。


「何があったかを聞かせて」

「そうね、経験ない?誰かに出会った瞬間、わかるの。私はこの人に強く惹かれてるって。私達は互いの気持ちを何ヶ月も抑えていたわ。けれど、ついに抑えきれなくなった」

「まぁ」


ソフィはチョロリと舌を出す。


「でも、結ばれた後ソレ以上に発展するコトはなかった。お互いにイライラするコトばかりだった。彼ったら憎たらしいでしょ?」

「わかるわ」←

「寝たコトを後悔する時もあるわ。ずっと好きなママでいればよかった」


溜め息をつくソフィ。ソコへ能天気に現れる僕w


「マグカップにもCIAのロゴが入ってる。カッコ良いなー。コレって…」

「OK。世界大戦を回避してくれたら1つあげるわ」

「マジ?やる気が出たぞ」


僕は、元カノ達とマグカップで乾杯スル。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


朝焼けが秋葉原ヒルズをオレンジ色に染めて逝く。ズッと地下にいる僕達には昼も夜もナイんだけど。


Piiiii


実は朝ナンだけど、誰もが真夜中だと思ってアチコチで寝ているCIA本部に機械音が響く。

黙々と働き続けた照合プログラムが無機質な結論を出す。瞬時に活動を再開スルCIA本部。


「幼女の背景にアル山は、中国浙江省の州都、杭州のハズレにアル山岳と一致しました」

「上海の近くだ」

「その地域の学校の校章を出して」


何処にどうアクセスしたのか不明だが、たちどころにモニターにアイビーな校章がズラリと並ぶ。


「1番上の右端だわ。色が同じだし」

「上海女子学院ね。学校のウェブサイトある?」

「現在パスワードを解析中」


ほとんど瞬時にモニターにウェブページが出る。


「アーカイブに入って在校生の写真を出して」

「出ました」

「直ちに顔認証にかけて」


たちまち97%マッチの幼女が見つかる。


「ミャン・ギャホです。情報はわずかです。父親はジャン・ギャホ。母親はビーイ」

「ミャン・ギャホ?」

「知ってるのか?」


息を呑むソフィ。


「北京と親密な関係にある有力財界人ナンだけど」

「どうして彼の娘がターゲットになるの?」

「…彼は、中国の経済政策に強い影響力を持っている。中国の経済政策はギャホ次第だとも言えるわ。実は、彼はウクライダやイズラエルで、敵国に中国製の武器を輸出している。ソレでも日本や米国が彼に寛容なのは、彼が日米の国債購入を支持しているからよ。もしミャン自身が殺されても、大して影響は無い。でも、もし彼の娘が殺され、政府に近いCIAの人間が関与していたとなればどうなると思う?」


ソフィに詰め寄られる僕。


「ゲージのコトか」

「彼は、日米両国に敵意を持つでしょうね。そして、両国の国債を買わないように政府に働きかけるハズ」

「そっか。日本もアメリカも、財政は国債で成り立ってる。国債が売れないと政府が機能しなくなる。緊縮財政となって、日本はともかくアメリカは世界への軍事展開が不可能になるぞ」


さすがの僕も慌てる。


「日米の軍隊が機能不全に陥れば、敵国が好き勝手に振る舞いを始めるわ」

「その通り。あちこちで紛争が多発し、第2.5次世界大戦へと発展する恐れがアル」

「そして、日米安保は機能しなくなり、米国が世界大戦で敗北スル可能性だってある。1つのドミノで全てが変わる。あの部屋は、ソレを語っていたンだ」


オペレーターが割り込む。


「ジャン・ギャホを見つけました。1時間前に神田リバー水上空港に自家用飛行艇で着水」

「秋葉原に来てるの?」

「"アニメイド"に向かっています。"八百屋のひとり言フェア"に参戦の模様。娘が一緒です」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ホルスターに音波銃をブチ込むソフィ。ラギィが声をかける。


「警察の応援も呼べるけど」

「相手は腕利きスパイょ死人が増えるだけだわ。ソレに情報が漏れれば国際問題に発展スル。コレ以上問題を大きくするつもりはナイわ」

「でも、もうココにいる誰も信用出来ないンだろ?猫の手も借りたいのに」


僕は役に立たないょと暗に仄めかす。


「CIAの支局は、ココ以外にもある。別のチームが急行中ょ…私が連絡するまで誰にも外部と接触させないで」


部下に指示を飛ばすソフィ。


「失敗は許されないわ」


時計を見るソフィ。エレベーターの扉が閉まる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


秋葉原スクエアは駅前ビルの2Fにあるイベントスペース。本日"アニメイド"が貸切でフェアを開催中。


「ジャン・ギャホの一家の到着まであと何分?…コチラは万世橋(アキバポリス)のラギィ警部とテリィたん」

「あと5分です。チームは既にロビーと通りで待機中です」

「モトンはどこ?」


え。裏切り者のモトンが来てるのか?


「45分前にアニメショップに侵入スルのを警備員が見てました。ただ、彼女を確保しても仲間の存在が不明で誰が撃って来るかは分かりません」

「幼女の命を最優先して」

「わかりました」


恐らくCIA所属のスーパーヒロインなのだろう戦隊ヒロインみたいなレオタード女子が現れ先導スル…


で、突然右に曲がるw


「おい!何処へ逝くンだ?」

「こっちです」

「どっち?」


広いホールみたいな空間だ。どしどしとホールの真ん中へ進むレオタード。ムダに生脚だ。


「何でこんな地下ホールに来た?アニメフェア会場に直行すべきじゃないのか?」


生脚に目を奪われながら声をかける。お陰でソフィが無言で音波銃を抜くのに、まるで気がつかない。


「テリィたん!」


一瞬遅れて音波銃を抜くラギィ。音波銃を向け合うソフィとラギィ。何だ?何が起こってるンだ?


「警部さん、悪いわね」


生脚レオタードがラギィの音波銃を奪い2丁拳銃で僕とラギィを狙う。この期に及んでも目を疑う僕。


「いったい何をしてるんだ?」

「裏切り者はゲージじゃなかった。ソフィ、貴女だったのね?」

「何だって?」


なぜか会心の笑みを浮かべるラギィ。


「ココは良いわ。貴女は幼女を殺しに行って」

「ROG」

「犯人は…ソフィだったのか」


事態を飲み込んだ僕は地底から絞り出すような声でうめく。2丁拳銃のママ駆け去る生脚レオタード。


「テリィたん。残念ながらそーゆーコト」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆⭐︎


車寄せに止まったリムジンのドアが一斉に開く。黒服ボディガード、幼女&両親がアキバに降り立つ。


「ココが秋葉原なのね!」


両親に挟まれた幼女は、白いミンクのコートを着ている。その幼女を柱の陰から狙う生脚レオタード。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ソフィに食ってかかる。


「何で僕達をココに連れて来た?」

「テリィたんが妄想を追っかけないと気が済まない性格だからょ。貴方達ヲタクは、何ゴトも廃人になるまで追っかける。私が色恋営業してまで貴方と手を組んだのは、私達の作戦を守るためよ」

「私達の作戦?その作戦とやらのために、ブレラ博士とマグスを殺したの?」


ラギィも食ってかかる。


「ゲージもソフィがハメたのか?」

「妄想ドミノを倒すには、幼女を殺したのがCIA所属のスーパーヒロインだと中華な連中に思わせる必要があったの」

「しかし、都合が悪くなると彼を殺してモトンもハメた。だけど、ナゼだ?ナゼ君は第2.5次世界大戦を引き起こしたいんだ?」


魂の叫びは、ソフィに鼻で笑われる。


「お人好しのテリィたん。世の中には、世界を変えるためなら、いくらでもお金を払う人がいるの」

「ウソだろう!信じたくない。ソフィ、君はアキバを売るような人じゃない」

「貴方は誤解してる。This was never my city。跪いて。2人とも今すぐ!」


ラギィの膝を蹴って跪かせるソフィ。


「貴方、必ず捕まるわ」

「なワケ無いじゃナイ。作戦の阻止に失敗したと言えば良いだけの話よ。貴女達を殺したのはモトンってコトにスルわ。大丈夫ょ武勇伝にしてあげるから、安心して。きっとお父さんも貴方を誇りに思うわ」

「僕の…親父?」


顔を見合わせる僕とラギィ。


「あら?昔、私をリサーチ出来たのは、自分の名声のお陰だと思ってた?」

「違うのか?」

「バッカじゃナイの?マジ何も知らないのね。まぁ知る必要もナイか」


アッサリ音波銃の引き金を引く…


「ヤメろ!話せばわかる!」

「らめぇぇぇ!」

「ぎゃ!」


その瞬間、紫の光線が彼女の巨乳の谷間を貫く。両手を大きく広げ崩れ落ちるソフィ。走り寄る人影。


「ラギィ、早く行きましょう!ギリギリで、まだ間に合うカモ」

「ムーンライトセレナーダー?でも、何処へ?テリィたんは?」

「そっとしておいてあげて」


真冬に黒セパレートのヘソ出しメイド服。ミユリさんがスーパーヒロインに変身したアキバ最強メイド、ムーンライトセレナーダーの登場だ。しかしw


「ソフィ。何でだ…」


僕は、目を開けたママでピクリとも動かないソフィの横に跪いて、泣きながら彼女の髪を撫でている。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


フェア会場で主催者と握手スル幼女と両親。会場は貸切になっている。柱の影に潜む生脚レオタード。


「ようこそ、ミャン・ギャホ様。この度は大口の御出資を頂き…」

「出資者は私じゃナイ。娘のジャンの名義だが」

「ミャンちゃん!さぁコチラへ」


柱の影から現れた生脚レオタードが音波銃を抜く。誰もがコスプレスタッフだと思い不審に思わない。


「たとえ元カノが許しても、今カノが許しません!美アラサー仮面ムーンライト…」

「え。誰?」

「みなさん、ごめんなさい!コレ、ヒロピンAVのロケです。さぁ立って。Take2逝くわょ」


幼女に音波銃が向けられた瞬間ムーンライトセレナーダーがタックル!取っ組み合いの末にマウント!


「大丈夫?Take2前に1度、外に出ましょう」


駆けつけたラギィが生脚レオタードの髪を鷲掴みにして立たせる。ヨロめく生脚。外に連れ出される。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


黄昏に染まる"秋葉原ヒルズ"。街が黄金色に染まって逝く。ヒルズの谷間にある万世橋(アキバポリス)も黄金色だ。


「結局、どういうコトだったの?マリレ、何か聞いてナイ?」

「何にもょエアリ…ってか、今回は誰がテリィたんの元カノだったの?」

「知らない。また全員じゃナイかしら」


ギャレーで頭をヒネる2人のメイド。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。御帰宅したモトン副官をみんなで囲む。


「ソフィに濡れ衣を着せられた時、真犯人は彼女だとわかりました。だから、彼女の動きをモニターしていたンです」

「彼女が裏切り者だったなんて…僕は、未だ信じられないょ」

「ソフィは、内調に潜入した元"喜び組"でした。その後、半島戦争(ユギヲ2.5)後に国が崩壊し、そのママCIAに移籍したのでしょう」


CIA本部を脱出したモトンは、命からがら"潜り酒場(スピークイージー)"に逃げ込んだワケだ。


「この御屋敷は"メイドの駆け込み寺"だと聞いていたので」

「アキバで困ったら、いつでも御帰宅してね。で、玉手箱の黒幕はわかったの?」

「いいえ。ムーンライトセレ…じゃなかった、メイド長のミユリ姉様」


ニコリと笑うモトン。


「仮にわかってても言えません」

「モトン、1つ教えてくれ。ソフィが最後に語ったンだ。僕の父親がCIAにいたようなコトを…君はそのコトについて何か知ってるか?」

「知りません」


即答だ。取り付く島もナイ。


「そうだ。ラギィ警部、コレをどうぞ。貴女の車を神田リバーから引き揚げました」

「え。マジ?ウレしいわ」

「きっと新車以上になってるハズです。せめてもの御礼です。では、みなさん元気で」


ラギィは、マジうれしそうにキーを受け取る。ソレを見届けて、笑みを浮かべ足早に立ち去るモトン。


「ミユリさん。あの話マジかな?僕の親父に関するソフィの話さ。マジだとすれば、何で親父が失踪したのかの説明がつく」

「テリィ様、どーでしょう?私は、ソフィの話はウソだらけだと思いますが。お辛いですょね?」


僕は、うなずき唇を固く結ぶ。


「テリィ様の出世作"科学女忍者隊ガッチャウーマン"のモデルにした人がアキバの裏切り者だったナンて」

「いいや。ソレはどーかな…確かにモデルはソフィだけど科学女忍者隊の"ヲトリ・ジュン"は、むしろミユリさんに近い。賢くて、強くて、そして優しい。だから、僕は君に惹かれたんだ。モデルとしてね」

「光栄です」


ミユリさんは微笑む。萌え。


「ブレラ博士が語ったコトが正しいのなら、僕達は世界を救ったのかな?」

「私は幼女の命を救いました。ヲタッキーズとしては、ソレだけで充分です」

「そーだね」


カウンターを挟んで、メイド長は僕に粘着スル。だから、僕も仕方なく微笑みを返していたのさ。



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"妄想が妄想を呼ぶドミノ現象"をテーマに、裏切りに満ちたスパイものを描いてみました。昭和の頃、スパイはカッコ良い憧れの職業?でした。今のキッズが憧れるYouTuberのような存在だったと記憶します。そんなワクワクするスパイの活躍を描く"大いなる習作"となった次第です。


さらに、裏切り連発の伏線の張り方にもサイドストーリー的に凝ってみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、すっかりインバウンドで溢れかえる秋葉原(のマック)で描いてます。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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